千葉大学子どものこころの発達教育研究センターの浦尾悠子特任講師、同大大学院医学研究院認知行動生理学の吉田理子非常勤講師、同清水栄司教授、慶應義塾大学佐藤泰憲准教授の研究チームは、子どもたちが抱える不安の問題を予防するための認知行動療法(CBT)(注1)プログラム「勇者の旅」の短縮版を用いて、小学校での効果検証を行いました。その結果、1セッション20分、全14セッションからなる短縮版プログラムについても、学童期の子どもの不安を軽減する効果があることを示しました。
本研究成果は2022年10月25日に、学術誌 BMC Psychiatryに掲載されました。

  • 研究の背景
不安症(不安障害)(注2)は、子どもにも一般的にみられる精神疾患です。子どもの不安の問題は自尊心に悪影響を及ぼし、学業成績の不振につながる場合があります。また、社会と関わることを避けたり、友だちとの関係づくりが難しくなったり、学校も欠席しがちになる子どももいます。
研究チームは2014年に、子どもを対象としたCBTに基づく予防介入プログラムである「勇者の旅」を開発し、学校現場に導入しました。このプログラムには一定の効果があるものの、1セッションに45分間かかる上、すべてのプログラムを終了するまでに10週間かかっていました。通常の授業カリキュラムをこなすことも大変な日本の学校現場で、予防プログラムのために授業時間を割くことは非常に難しいという問題がありました。
そこで研究チームは、学校現場に導入しやすいよう、朝学活などの短時間でも実施可能な短縮版「勇者の旅」プログラムの効果検証に着手しました。
  • 研究の成果
チームは20分間のセッションを週1回、計14週間で終了する構成とし、小学校に通う5年生(10-11歳)の子ども90名を対象に、朝学活の時間帯にプログラムを実施しました。子どもたちは「勇者の旅」プログラムを受ける介入群と、受けないコントロール群とに分けられました。プログラム実施前と実施後、そしてプログラムを受けてから2か月後に、子どもたちにアンケートを行って、不安症状や行動問題の度合いを評価しました。子どもの不安症状は「スペンス児童用不安尺度(SCAS)」(注3)を、行動問題は「子どもの強さと困難さアンケート (SDQ)」(注4)を使用して測定しました。
2か月の追跡調査の結果、介入群の子どもの不安症状が、コントロール群に比べて、統計的に有意に減少していることが確認されました(図)。また、行動問題においても同様の傾向を認めました。これは、「勇者の旅」プログラムが短縮され実施された場合でも、先行研究と同様に効果があることを示唆しています。
  • 今後の展望
日本の小学校高学年を対象としたCBTベースの不安予防プログラム「勇者の旅」の有効性は、これまでの研究でも確認されていました。今回、短縮版の効果も確認できたことから、今後は、より多くの学校へ導入され、たくさんの子ども達が「勇者の旅」プログラムを受けることで、不安障害の軽減に寄与することが期待されます。
  • 研究者のコメント(浦尾 悠子)
短縮版のプログラムであれば、より多くの学校で実施しやすくなります。参加する学校が増えるほど、より多くの教師が子どもの不安の問題に向き合うようになり、子どもたちが安心して過ごせる学校環境の構築にもつながるでしょう。同時に、子どもたちが不安な気持ちをセルフマネジメントする力がつくことにより、子どもたちが抱える不安やストレスの度合いが減ることが期待されます。
  • 用語解説
(注1)認知行動療法(CBT):「感情」の問題を引き起こしている「認知(考え)」と「行動」の悪循環を、良循環にもっていくようにバランスをとる心理療法。
(注2)不安症(不安障害):不安が過剰になり、日常生活に支障を来す精神疾患(分離不安症、限局性恐怖症、社交不安症など)の総称で、正式には「不安症群」と呼ぶ。
(注3)スペンス児童用不安尺度(SCAS):子どもの不安症状を測定する目的で開発された、38項目の自己記入式質問紙。
(注4)子どもの強さと困難さアンケート (SDQ):情動や行動に関する25の質問項目からなる、子どものメンタルヘルス全般をカバーするスクリーニング尺度。
  • 論文情報
タイトル: School-based cognitive behavioural intervention programme for addressing anxiety in 10- to 11-year-olds using short classroom activities in Japan: a quasi-experimental study
著者: 浦尾 悠子1, 吉田 理子2,佐藤 泰憲3, 清水 栄司1,2
所属:
1千葉大学子どものこころの発達教育研究センター
2千葉大学大学院 医学研究院 認知行動生理学
3慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室 佐藤 泰憲准教授
雑誌名: BMC Psychiatry
DOI: https://doi.org/10.1186/s12888-022-04326-y

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