ベスト8入りを逃すも、ドイツスペインに勝利し、日本中に感動と興奮を巻き起こしたサッカーカタールW杯。日本はグループステージ最終戦のスペイン戦に勝利し、グループ1位で決勝トーナメントに進んだ。一方、ドイツコスタリカに4対2で勝利したものの、日本の勝利によってグループステージ敗退が決定。そんなドイツで、スペイン戦で決めた日本の決勝ゴールがいまだに物議を醸しているという。
 
 日本の決勝ゴールは三笘薫選手がゴールラインギリギリのボールを折り返し田中碧選手がゴールを決めたもの。このボールの折り返しがゴールラインを出ていたか出ていないかがポイントとなったわけだが、VARによりボールは出ていなかったと判定。ゴールが認められた。

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 しかし日本の決勝ゴールが認められず、日本がスペイン引き分けていればドイツの決勝トーナメント進出が決まっていた。ドイツ国内では“日本のボールがゴールラインを出ていた”と主張する人が多数いるのだ。テレビやネットメディアで“ボールは出ていた”と主張するコメンテーターなどもいたが、議論が行き過ぎ、日本人を差別するメディアまで出てきている。

 ドイツの大手ニュースチャンネル『WELT』は、約150万人の登録者がいる公式YouTubeチャンネルで、日本の決勝ゴールについて議論。そこに出演していた元プロサッカー選手ジミー・ハルトウィグ氏が、ボールはゴールラインを割っていたと主張するとともに、その流れで日本人に対していきなりおじぎをするポーズをしながら「Ching Chang chong(チン・チャン・チョン)」と発言したのだ。

 「Ching Chang chong」とは特に意味はなく、アジア人をばかにするときに使う言葉。だいたいのドイツ人やヨーロッパの人はアジア人差別の発言として知っているそう。さらに別の動画でもハルトウィグ氏は「Reisabteilung(ライスアプライルング)」とも発言。これは日本人をばかにする、“米ばかり食べる人種”といった意味の言葉である。

 この動画を見た在独日本人がネットを中心に猛批判。批判を受けてか「Ching Chang chong」発言の動画は削除されたが、動画の一部がネットを中心に出回り、現在も物議を醸している。在独日本人からは怒りの声がほとんどだが、ドイツ人からは「言葉のあや。日本人が敏感になりすぎ」という声や「差別は何があっても恥ずかしい」「カタールに対して人種差別を訴えていたのに結局自分たちが人種差別をしているなんて先進国のすることではない」という声、また「VARで判定が出ているのにいまだに感情的になって議論していることに呆れかえる」という声までさまざまだ。

 とはいえ、日本人には少なからず影響が出ているようだ。小学校低学年の日本人とドイツ人のハーフの息子を持つ在独日本人の母親は、息子が学校で友達に「Ching Chang chong」と言われたと明かしていた。母親によると、小学校世代では「Ching Chang chong」を知らない子どもも多いのに、動画のせいか「Ching Chang chong」という言葉が使われ始め「息子はショックを受けていた」と話していた。

 またドイツ人とネットのオンラインゲームをしていた日本人は、日本人だと正体を明かすと相手のドイツ人に「Ching Chang chong」と、からかわれたそうだ。W杯直後の出来事だったため「少なくとも動画での差別発言が影響していると思う。それにW杯でドイツが決勝トーナメントに行けなかったことも恨んでいる」と分析していた。

 別のドイツに住む日本人女性は、W杯関連のYouTube動画やSNSに上がっている動画の中に、「Ching Chang chong」と書き込む人がいて悲しいと語った。書き込んでいる人がドイツ人とは限らないものの、日本対スペインハイライト映像があると特にコメントが目立つといい、「削除されたものもあるが、日本人としてつらい」と明かしていた。

 ドイツ人の間で、今回の「Ching Chang chong」は日本人が話題にするほど話題にはなっておらず、大きく取り上げられているわけではない。だが騒動を知ったドイツ人からは「日本人に謝罪すべき」「日本人のW杯での試合はどれもフェアだった」「日本人が逆の立場だったら同じことはしないと思う」という擁護の声も挙がっている。

 優勝国候補と言われていた国がグループステージで敗退したことは非常に残念で国民の悔しさも想像以上だろう。しかし差別は決して許されることではない。

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