自動車の自賠責保険料が値上げされる見込みです。財務省による運用益の一般財源への借入に端を発した問題ですが、自賠責の本務である交通事故被害者の救済も強化へ。その試金石となり得る「ノート」を国交省が作成しました。

国民負担になる自賠責の“賦課金”値上げ前に

保険料賦課金の値上げを前に、自賠責保険制度を担当する国土交通省保障制度参事官室は、いっそうの被害者支援の強化に乗り出しました。交通事故被害者団体の要望を受けて「交通事故被害者ノート」を作成。事故直後や後遺症で苦しむ被害者家族や遺族の問題解決の一助として無料配布します。

「被害者支援の強化」を目的とする自賠責の賦課金の詳細は決定していませんが、2023年度にも1台150円程度で上乗せされる予定です。救済に充てられる自賠責の運用益を財務省が一般財源に繰り入れ(借り入れ)、約6000億円分が未返済であることから、救済事業のための資金が不足しているのが現状です。

自賠責保険の賦課金は現行では、加害者が定まらないひき逃げ被害者支援で約32円ですが、これとは別に、被害者救済事業をさらに充実して、安定的継続的に維持するために新たな賦課金が設定されます。

斉藤鉄夫国土交通相は12月6日の会見で、「交通事故被害者ノート」の作成の狙いを次のように話しました。

「交通事故被害者や家族、遺族が、事故直後で混乱している中でも、事故状況の記録を残せるよう、さまざまな支援制度を知ってもらえるよう作成した」

ノートは約70ページ。最初に、事故にあったときの心構えが短くまとめられています。その内容は、被害者であり支援団体としても活動するノート作成協力者の声をまとめたもの。《交通事故は人生の緊急事態です。不安や困りごとを相談し、一人でがんばらないでください》と、始まっています。

被害者にとって最も重要な「事故の状況」は、チェックリストを確認するだけで必要なことがわかるようになっているほか、ノートに記載された質問に答えるようにして記入すると、事故の記録が出来上がるようになっています。

国交省保障制度参事官室は、被害者救済対策のあり方を再定義する検討会を2020年夏~21年夏にかけて開催。療護施設や脊髄損傷や高次脳機能障害を抱える事故被害者のリハビリの機会確保を盛り込んだ報告書をまとめました。交通事故被害者ノートの作成は、この検討会の中で提案されたものです。

被害者支援制度を、事故に直面する人に届ける

打ち出された被害者救済対策の充実提言は新たな賦課金の議論につながり、約8000万台の自賠責保険料の実質値上げにつながりました。事故被害者の救済と自動車事故被害者対策費の確保議論が結びつけられたことについての困惑は、被害者の中にもあります。

交通事故被害者救済ノートには行政のさまざまな被害者支援制度が紹介され、家族の困りごとを記入する中で、どの制度が利用できるかが見えてくるようになっています。被害者が直面する課題について時系列と重要度に応じて章立てが整理され、

・被害者と家族について
自賠責保険制度について
・警察、検察、裁判について
支援者や窓口の連絡先
・利用できる制度の窓口について

と、続きます。

多くの被害者は混乱の中で支援制度を把握できないままでいます。ノートを開くことで、事故直後から始まる“闘い”の全体像を知ることができます。

作成に携わった保障制度参事官室の担当者は、「事故の当事者と支援団体がいっしょに書き込んでいくこともできるように作成している」と話します。

交通事故被害者ノートの作成を働き掛けた支援団体「途切れない支援を被害者と考える会」は、犯罪被害者の体験をもとに被害者ノートを作成。被害者の回復を手助けしていました。今回の「交通事故被害者ノート」は、その被害を交通事故に限定して、より詳しく対策を説明した内容です。被害の程度によって必要性は変わってきますが、困った時のために存在を知っておくことで役に立つかもしれません。

12月6日からは国土交通省自賠責ポータルサイトや自動車事故対策機構(NASVA)のサイトからダウンロードが可能です。12月19日頃からは、都道府県の犯罪被害者向けの総合窓口でも配布を予定しています。

自動車ユーザーの負担は、被害者救済対策のさらなる充実につながるのか。交通事故被害者ノートの活用は、その試金石になります。

ノートについて説明する斉藤鉄男国交相(中島みなみ撮影)。