熊本市消防局が公開した、救急車サイレン使用に理解を促す動画が話題に。軽い気持ちで救急車を呼ばれることがあっても、その通報を無碍にすることはできません。では、消防側が促す救急車の適正利用は進んでいるのでしょうか。

後を絶たない「サイレンは鳴らさないで」要望

熊本市消防局が2022年11月に公開した動画が、複数のメディアで紹介されるなど話題を呼んでいます。「No Siren, No Ambulance.~サイレンは命のために鳴らしています~」との題で、緊急走行時のサイレンの使用に理解を求めるものです。

救急車サイレンを鳴らさず緊急走行することは法令上できません。それでも、近所迷惑になる、目立ちたくないなどの理由から「鳴らさずに来て欲しい」という要望が全国で後を絶ちません。

「おなかが痛いんです。サイレン鳴らさないで来て欲しいんですけど」
サイレンは一刻も早く、安全に現場に向かうために必要ですので」
「あ~…じゃあ自分で行こうかな~……お父さーん! 病院連れてってー!」

動画では、実際の記録に基づくやり取りが再現されており、本来は救急車を必要としない軽症での通報が、いかに多いかが伺えます。

一方で、「夫が息してないんです! 息してない、どうしよう」と動揺する通報者の声からは、本当に切迫した状況ではサイレンを鳴らす・鳴らさないどころではない、ということが伝わってきます。

「じゃあ自分で行こうかな~」な人も無碍にできない

こうした状況に、多くの消防本部が救急車の適正利用を促す観点からも、サイレンの必要性に理解を呼びかけています。「救急車はタクシーではありません」「本当に緊急性のある人のためにあります」といったメッセージをウェブサイトなどで掲げていることもあります。

ただ、熊本市消防局の動画では、「じゃあ自分で行こうかな~」と気が変わった通報者に対しても、指令員は「もし行っている途中に悪化したりすると危ないですから」と、救急車を出動させようとしています。もしかすると、一刻を争うケースの可能性もあるからです。

サイレンを鳴らさないでほしい」「救急車が必要かどうかわからない」といった理由で、救急要請そのものがためらわれてしまうと、救えるものが救えなくなる可能性も考えられます。そこで総務省消防庁は、「#7119」に電話して医師や看護師などのアドバイスを受けられる「救急安心センター」の活用などを推進しています。

総務省消防庁によると、近年、右肩上がりで上昇していた救急出動件数はコロナ禍で減少。2021年度は2020年度より増えたものの、5年前と比べると、出動件数で0.3%減となっていました。

搬送者の傷病の程度別では、入院が必要な中等症の患者の割合は増える一方、入院不要な軽症の割合は減少しているそうです。「#7119」の運用はまだ一部地域にとどまりますが、その活用を含め、救急車の適正利用が少しずつ進んでいる可能性もあります。

救急車のイメージ(画像:写真AC)。