京都を代表する花街「祇園」には、国内外から多くの観光客がやってくる。中でも「花見小路」(京都府京都市東山区)は風情のある街並みを堪能できるほか、芸妓・舞妓の姿がみられることもある。

今年10月、雨の日に足を運んだ記者は、濡れた石畳や建物の美しさに見惚れた。スマホを取り出し、写真を撮影しながら散策していると「私道での撮影禁止」と書かれた立て札が目に入った。見渡すと、同じようなものがいくつもみられる。

立て札には「許可のない撮影は1万円申し受けます」との記載もあった。なぜ、このようなものが設置されているのか。

●「やりたい放題」の観光客、トラブルのたびに対策追われ…

立て札を設置したのは、地元の自治組織「祇園町南側地区協議会」だ。担当者は、観光客に対して「こんなこと言うのはあれですけど…できたら、『ここ来んな』って言いたい」と話す。これまで、観光客に「やりたい放題」されるたびに、その対策に追われてきたためだ。

担当者によると、立て札の文言にはいくつか種類があるという。初めて設置したのは2016年ごろ。内容は「柵にもたれかからないで」「飲食禁止」などの警告を促すものだった。トラブルが起きるたびに盤面の文言を入れ替えてきた。

もっとも新しい「撮影禁止」と書かれた立て札は、2020年ごろに設置された。芸妓・舞妓に対するパパラッチが問題視されたためで、特に海外から訪れる外国人観光客によるトラブルが目立っていたという。

修学旅行生や観光客が風景や友人同士の写真を撮ることは、なんら問題ないとは思うんですよ。ただ、置屋や茶屋で出待ちしたり、写真を撮ったりする行為は、できるだけ排除したいと考えました」(担当者)

帰宅中の芸妓・舞妓を自宅まで追いかけるなどのストーカー行為も頻繁にみられたという。対策の必要性に駆られ、立て札の設置に至った。

「特に外国人観光客の場合は、帰ってしまえば、それで終わりになってしまうんです。被害届を出しても意味がありませんから」(担当者)

立て札を設置後、メディアに取り上げられたことで周知につながった。観光客の問題行為は「目に見えて減った」とは言えないものの、立て札が抑止力となり、少なくなった実感はあると語る。

●団体客はエスカレートする傾向に

撮影が禁止されているのは、私道だ。私道と市道が混在しているため、観光客からすれば、私道が具体的にどこをさしているのかは分かりにくい。担当者によると、私道にあたるのは「花見小路通り以外の石畳化されている道」。罰金の文言が書かれている立て札は、私道にのみ置いているとのことだ。

立て札は「抑止力」のために設置されたもので、法的効力はない。そのため、写真を撮影したとしても罰金刑が科されることはなく、実際に観光客に1万円の支払いを求めたこともないという。

水際対策の緩和もあり、国内外から観光客が戻ってきている。新幹線は旅行客とみられる人たちの姿で、ほぼ満席だった。

協議会の担当者は、特に団体客を警戒している。これまでも、団体客によるトラブルが目立っていたからだ。

「団体旅行でかたまると気が大きくなってしまうのか知りませんけど、やりたい放題が過熱するというか…。個人旅行の人たちはそんなに無茶はしないのですが、旗を持っている集団が一番危ないと感じています」(担当者)

祇園は、芸妓・舞妓の姿や美しい建物があってこそ。足を運ぶならば、地域の人びとが守る歴史的な町並みや伝統文化を傷つけるようなことがあってはならない。

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