本記事は、東洋証券株式会社の中国株レポートから転載したものです。

小売売上高の前年割れに現実味…中国経済に黄信号

中国の10月小売売上高は前年同月比0.5%減となり、5月以来のマイナス成長に沈んだ。新型コロナの感染拡大懸念から国慶節連休中に各地で移動自粛ムードが高まったほか、共産党大会前後に各種イベントが控えられたことなどが影響したようだ。

1~10月期累計では前年同期比0.6%増とかろうじてプラスだったが、事実上の都市封鎖ロックダウン)状態にある都市も多く、11月と12月の消費に大きな期待はできないだろう。通年では20年(前年比3.9%減)以来の減少に陥る可能性もある。

年初からの累計を都市別で見ると、北京市は前年同期比4.8%減、上海市は同9.7%減とマイナスが続く。2020通年が前年比20.9%減だった武漢市ほどにはならないとしても、消費の戻りが遅いため、中国の2大都市の数字が揃って前年割れになるかもしれない。11月下旬時点でほぼ都市封鎖状態となっている重慶市や広州市の消費も年内は厳しいだろう。北京、上海、重慶、広州の4都市を合わせた小売売上高は中国全体の13%を占めており(21年)、経済への大きな影響が懸念される。

行動制限によるダメージが大きいのは外食産業だ。飲食業の売上高は、8月に前年同月比8.4%増と1~2月以来のプラス成長を回復したが、9月は同1.7%減、10月は同8.1%減と不振に逆戻り。消費マインドの低下に加え、店内飲食規制、密を避ける(濃厚接触者認定を避ける)行動心理などから年内は厳しい状況が続きそうだ。

現地で人気のスターバックスケンタッキーフライドチキン、味千ラーメンの既存店売上高は、上海ロックダウンなどが一段落した7~9月期にやや改善したが、10~12月期は予断を許さない。見通しは必ずしも明るくなく、マイナス幅が拡大する可能性さえある。

コロナ感染急拡大に中国政府は後手後手の対応

消費を支えるバロメーターとなるヒトとモノの流れを鉄道輸送量で比較してみる。

貨物は19年以降、安定推移しており、新型コロナ禍に伴う生産調整やサプライチェーン寸断などのダメージから脱却しつつある。一方、旅客はアップダウンが激しい。感染が落ち着いた21年春から夏にかけて輸送量が増えた一方、感染再拡大に伴う都市封鎖実施、政府による行動制限(春節時の帰省自粛要請「就地過年」など)が移動の大きな妨げになっている。「モノは動くがヒトは動かない」状態とでも言えよう。

一方、政府も対策を打っている。ゼロコロナ政策の一部調整(11/11発表、濃厚接触者の隔離期間短縮など)を受ける形で、文化旅遊部は同15日、省を跨ぐ旅行の規制緩和方針を示した。

同18日にはコンサートなど大型イベントの人数制限取り止めを発表したほか、劇場や娯楽施設などのコロナ対策を改めて規範化し、旅行・文化芸術分野の活動正常化を後押しする方向に舵を切った。

ただ、時を同じくしてコロナ感染が急拡大し始めた。全国の1日当たり新規感染者数は、11月10日に1万人、15日に2万人の大台を突破し、23日には3万人を超え過去最多を更新。各自治体はやむを得ず、大規模PCR検査の実施や行動制限の再強化に動いている。

上海市は11月24日から、市外からの来訪者に対する行動制限(来訪5日未満の者はレストランや商業施設など公共施設への立ち入り禁止など)を開始した。安徽省、江西省、河南省、湖南省などの一部都市でも同様の措置が取られている。現地では出張や観光機運が急速にしぼんでおり、移動には細心の注意が求められるようになった。

このような措置がいつまで続くかは未知数だが、仮に春節(旧正月、今回は23/1/22)前後まで解除されない場合、今冬の消費はかなり冷え込むことが予想される。悪い話ばかりになってしまうが、これが中国の現状である。

中国消費リバウンドのカギは「春節の政策動向」か

もっとも、コロナの感染状況が落ち着きさえすれば、消費は「リベンジ」とまでは行かなくとも「リバウンド」は見られるだろう。海南島の免税品販売は20年後半から22年初頭にかけて大きく成長しており、旺盛な消費ニーズはうかがえる。

足元では都市封鎖や行動制限で観光客・販売額ともに減退しており、現地視察を行った10月下旬時点でも消費の戻りは緩慢との印象を受けたが、書き入れ時の春節シーズンの販売が今後の試金石となろう。その意味も含め、前述した各地での規制動向が大きなカギになってくる。

奥山 要一郎

東洋証券株式会社

上海駐在員事務所 所長

(※写真はイメージです/PIXTA)