岸田文雄首相は、2021年12月6日に行った所信表明演説で次のように述べた。

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「我が国を取り巻く安全保障環境は、これまで以上に急速に厳しさを増しています」

「(中略)こうした課題に対し、国民の命と暮らしを守るため、いわゆる敵基地攻撃能力も含め、あらゆる選択肢を排除せず現実的に検討し、スピード感をもって防衛力を抜本的に強化していきます」

「このために、新たな国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画を、概ね1年をかけて、策定します」

 三文書を本年内に改定する意向を表明した。三文書はまもなく公表されることになっている。

 岸田首相は、三文書を先取りするかたちで、11月28日、総合的な防衛費を2027年度に国内総生産(GDP)の2%程度に増額するよう鈴木俊一財務相と浜田靖一防衛相に指示した。

 さらに12月5日には、岸田首相は鈴木財務相、浜田防衛相と会談し、2023年度から5年間の防衛費総額について、 およそ43兆円を確保するよう指示した。現行中期防の約27兆47004億円から約1.7倍の規模となる。

 また、自民、公明両党は12月2日、政府の安全保障関連三文書の改定に向けた実務者協議で、敵のミサイル発射拠点などをたたく「敵基地攻撃能力」の保有を認めることで正式に合意した。

 また、同協議で、敵基地攻撃能力の名称について、自民が求めていた「反撃能力」とすることを決めた。

「反撃能力」について、11月30日、政府は2027年度までに米国製の巡航ミサイルトマホーク」を最大で500発ほど購入する検討に入ったと新聞各紙が報じた。

 他国の領土を攻撃する能力を持つことは、「専守防衛」を国是とする日本の抑制的な防衛政策の大転換となる。

 以下、「防衛費のGDP比2%への増額」と「敵基地攻撃能力の保有を巡る議論」について私見を述べてみたい。

1.なぜ今、防衛費GDP比2%への増額か

 結論から言えば、防衛費のGDP比2%への増額は岸田首相の国際公約である。一つは、NATO北大西洋条約機構)首脳会議における発言であり、もう一つは、アジア安全保障会議における基調講演である。

 さて、本年2月のロシアウクライナ侵攻を受け、政府・自民党は防衛費の大幅増を目指している。

 自民党安全保障調査会が現在の国内総生産(GDP)比1%程度から2%へ引き上げる案を今後の論点整理として示したのを受けて、岸田文雄首相は4月8日記者会見で、ウクライナ侵攻を受けた日本の防衛力について「あらゆる選択肢を排除せず検討し、スピード感を持って抜本的に強化していく」と明言した。

 防衛費を巡っては、1976年に三木武夫内閣が「1%枠」を超えないとする方針を閣議決定したが、1986年中曽根康弘内閣が「1%枠」を撤廃した。

 ところが、防衛費はほぼ1%程度で推移してきた。

 本年度当初予算で約5兆4000億円だった。NATO目標に合わせて2%に倍増しようとすれば、10兆円台の予算規模になる。新たに5兆円を超す財源が必要となる。今後、巨額の財源の確保が焦点となる。

(1)NATO首脳会議における岸田首相の発言

 2022年6月29日岸田首相NATO首脳会合に出席した。今回の出席は、NATOからの招待を受けたものであり、日本の総理大臣による出席は史上初めてである。

 岸田氏が出席したNATOパートナーセッションには、NATO加盟30か国、NATOの主要パートナー国・機関として日本、豪州、ニュージーランド、韓国、スウェーデンフィンランドジョージア、EUの首脳等が出席した。

 同会合では、ロシアウクライナ侵略や厳しさを増すインド太平洋地域の安全保障情勢を踏まえ、NATOパートナー国・機関との間での今後の協力等について議論が行われた。

 ストルテンベルグ事務総長の冒頭発言に続き、最初に岸田氏が発言した。日本の防衛力強化に関する発言は次とおりである。

「現下の国際情勢を踏まえ、日本は、本年末までに新たな国家安全保障戦略等を策定する」

「また、日本の防衛力を5年以内に抜本的に強化し、その裏付けとなる防衛費の相当な増額を確保する決意。日米同盟を新たな高みに引き上げながら、有志国・パートナーとの安全保障協力も強化していく」(出典:外務省

 さて、日本はNATOのグローバルパートナー国である。NATOと域外国との関係には、NATOロシア理事会(NRC)、平和のためのパートナーシップPfP)国、グローバルパートナー国などがある。

 NATOのグローバルパートナー国にはアフガニスタンイラクオーストラリア、韓国、コロンビア、日本、ニュージーランドパキスタンモンゴルが含まれる。

 安倍晋三元首相が、2007年に日本の首相として初めてベルギーNATO本部を訪問した。

 2013年4月には、NATO事務総長ラスムセン氏が来日し、安倍氏との間で「日本・NATO共同政治宣言」に署名した。

 さらに、2014年5月には、安倍氏が再びNATO本部を訪問し、「日・NATO 国別パートナーシップ協力計画(IPCP:Individual Partnership and Cooperation Programme)」を策定した。

 同計画の第1項には「日本とNATOは、自由、民主主義、人権および法の支配という共通の価値並びに戦略的利益を共有する、信頼できる必然のパートナーである。具体的には、サイバー、海洋安全保障、人道支援・災害救援、女性・平和・安全保障等の危機管理・国際協力分野における実務的な協力を重ねてきている」と記載されている。

 さて、NATOマドリード首脳会合(2022年)では、NATO加盟国は2024年までに国防費を対GDP比2%水準へ引き上げるという誓約を再確認している。

 国際政治で、援助や責任などを各国が分担することはバーデン・シェアリング(burden sharing)と呼ばれる。

 かつて、1970年代後半、NATO加盟国が国民総生産(GNP)比3~5%を防衛費として支出しているのに対し、日本は1%程度しか支出しておらず「安保タダ乗り論」が米議会を中心として噴出、日本は米政府から防衛力の増強と防衛費の増額を要求された事例もある。

(2)アジア安全保障会議における岸田首相の講演

 岸田首相は、6月10日シンガポールでのアジア安全保障会議で基調講演し、「GDP比2%」を念頭に、「日本の防衛力を5年以内に抜本的に強化し、その裏付けとなる防衛費の相当な増額を確保する」と表明した。

 岸田氏は、米欧やアジア各国の国防相らが集まる場で、日本の防衛力の抜本的な強化を打ちだしたわけであるが、こうした国際会議での講演内容は事実上の国際公約になるとされている。

 11月28日、防衛費を2027年度に国内総生産(GDP)の2%程度に増額するよう岸田氏から指示された浜田氏によると、「財源がないからできないということではなく、様々な工夫をした上で必要な内容を迅速にしっかり確保する。防衛費とそれを補完する取り組みを合わせ、現在のGDPの2%に達するよう予算措置を講ずる」よう指示があった。

「補完する取り組み」とは、

①防衛力強化に役立つ研究

②空港・港湾などの整備

サイバー安全保障

④国際協力の4分野で、さらに海上保安庁の予算なども合算するものとみられる。

(3)「財源の確保」に関する有識者会議の提言

 本年9月から防衛力強化に向けた防衛費や財源のあり方を検討する「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」が開催された。

 11月22日、座長の佐々江賢一郎元外務次官が報告書を岸田首相に提出した。同報告書の「財源の確保」の項目には、次の事が提言されている。

①防衛力の抜本的強化のための財源は今を生きる世代全体で分かち合っていくべきだ。

②財源確保の検討に際しては、まずは歳出改革により財源を捻出していくことを優先的に検討すべきだ。

③防衛関係予算は非社会保障関係費に属することから、政府の継続的な歳出改革の取り組みとしては非社会保障関係費が対象となる。

④過去のコロナ対策で国民の手元に届くことなく独立行政法人に積み上がった積立金の早期返納などを財源確保につなげる工夫も必要だ。

⑤歳出改革の取り組みを継続的に行うことを前提として、なお足らざる部分については国民全体で負担することを視野に入れなければならない。

⑥国債発行が前提となることがあってはならない。

⑦持続的な経済成長実現と財政基盤確保とを同時に達成するという視点に立ち、国民各層の負担能力や現下の経済情勢へ配慮しつつ、財源確保の具体的な道筋をつける必要がある。

⑧政府は多角的な検討を速やかに行い、本年末に方針が決定される23年度予算編成・税制改正において成案を得て具体的な措置を速やかに実行に移すべきだ。

(4)筆者コメント

 防衛費を巡っては、1976年に三木内閣が1%枠を超えないとする方針を閣議決定し、政府を縛ってきたが、1986年中曽根内閣により同閣議が撤廃されたため、現在、防衛費については政府を縛るものはない。

 従って、政府は、何ら手続きを経ずに、防衛費を2%程度に増額することを決め、すでに国際公約としている。

 NATO目標に合わせて2%に倍増しようとすれば、新たに5兆円を超す財源が必要となる。巨額の財源をどうやって確保するのか。岸田首相は財源の当てもなく、国際公約をしたのであろうか。

 憲法65条で、「行政権は、内閣に属する」となっている。閣議というのは内閣法第4条に「内閣がその職権を行うのは、閣議によるものとする」というふう規定されている。

 また、我が国は、安全保障に関する重要事項を審議する機関として、内閣に国家安全保障会議を設置している。

 筆者は、防衛費のGDP比2%増額は、安全保障に関する重要な事項であると考える。従って、政府はまず防衛費GDP比2%増額を国家安全保障会議で審議し、その後、閣議決定すべきであると考える。

2. 敵基地攻撃能力の保有を巡る議論

 敵基地攻撃能力の保有を巡る議論に大きな影響を与えたのは地上配備型迎撃システムイージス・アショア」の配備停止とロシアウクライナ侵攻であろう。

イージス・アショア」の配備停止は、代替の抑止力としての敵基地攻撃能力の必要性を増大した。

 また、ロシアウクライナ侵攻の教訓の一つは「自衛力の重要性」である。すなわち自分の国は自分で守るという意思と能力を持つことである。

 もう一つは「国際社会の支援の重要性」である。自分の国を自分で守るという意思を明確にした国に対しては、国際社会が支援してくれることが明らかになった。

(1)経緯

 今回の反撃能力の保有に至る議論は、「イージス・アショア」の配備停止を契機に一気に高まった。以下、「イージス・アショア」の配備停止の決定以降の主要な経緯を時系列で述べる。

①2020年6月15日河野太郎防衛大臣は「イージス・アショア」の秋田と山口への配備停止を表明した。

 これに伴い、自民党国防部会では、代わりの抑止力として敵基地攻撃能力を保有すべきだとの意見が相次いだ。

②2020年6月18日安倍首相(当時)も記者会見で、「イージス・アショア」の配備撤回に伴い、敵基地攻撃能力の保有を含む新たな戦略を検討する意向を表明した。

 これを受け2020年8月4日自民党政務調査会・国防部会・安全保障調査会は、「国民を守るための抑止力向上に関する提言」を発表した。

 同提言では、「相手領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力の保有を含めて、抑止力を向上させるための新たな取組が必要」とされた。

 この提言を受け取った当時の安倍氏は、政府として議論を深めたいと述べたが、その後9月16日に辞任した。

③2020年12月18日菅義偉政権は、「新たなミサイル防衛システムの整備等及びスタンド・オフ防衛能力の強化」と題する閣議決定で、「敵基地攻撃能力」という表現を使わず、「抑止力の強化について、引き続き政府において検討を行う」とした。

2022年4月3日、安倍元首相は、山口市内で講演し、政府が保有の是非を検討する敵基地攻撃能力に関し「(対象を)基地に限定する必要はない。向こうの中枢を攻撃することも含むべきだ」と主張した。

 安倍氏2月27日テレビ番組でも、日本が持つべき能力に関し「相手の軍事的中枢を狙う反撃力だ」と発言している。

4月21日自民党安全保障調査会(会長・小野寺五典元防衛相)が、「新たな国家安全保障戦略等の策定に向けた提言」案を取りまとめた。

 この中で、自衛目的でミサイル発射基地などを破壊する「敵基地攻撃能力」の名称を「反撃能力」に改めた。

4月27日自民党安全保障調査会は、「わが国の防衛力の抜本的強化を政府に求める提言」を岸田総理と岸信夫防衛大臣に申し入れた。

 提言では、わが国周辺国が配備を進める弾道ミサイルの技術進化により「迎撃のみではわが国を防衛しきれない恐れがある」と指摘。

 専守防衛の考え方の下、弾道ミサイル攻撃を含むわが国への武力攻撃に対する反撃能力の保有を政府に求めた。

 また、わが国の防衛関係費について、中国の軍備増強やロシアによるウクライナ侵略等を踏まえ、NATO諸国における防衛予算の「国内総生産(GDP)比2%以上」とする目標も念頭に、「5年以内に必要な予算水準の達成を目指すこと」が明記された。

11月22日、「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」の報告書を座長の佐々江賢一郎元外務次官が岸田文雄首相に提出した。

 報告書は防衛費の増額や相手のミサイル発射拠点などをたたく「反撃能力」の保有を求めた。「財源の確保」に関する有識者会議の提言については既述したとおりである。

12月1日公明党は、党外交安全保障調査会を開き、反撃能力の保有を大筋で了承した。

12月2日、新聞各紙は、政府が保有を検討する反撃能力(敵基地攻撃能力)の政府見解(または定義案)が判明したと報じた。

 政府見解は、日本の安全保障環境について、

①中国や北朝鮮などを念頭に、「ミサイル戦力を質・量ともに強化し、関連技術と運用能力を向上させている」と分析。

②「ミサイル防衛網だけで完全に対応することは困難だ」と指摘した。

③そのうえで、反撃能力の行使は憲法と国際法の範囲内で、専守防衛を堅持し、「先制攻撃は許されないとの考えに一切変更はない」と強調した。

④反撃能力は「万やむを得ない必要最小限度の自衛措置」で、その対象は、攻撃を軍事目標に限定している国際法を順守しつつ、「個別具体的な状況に照らして判断する」とした。

 自民党は4月の提言で対象として、敵の司令部などの「指揮統制機能」も挙げたが、政府見解では、対象の例示は見送り、敵の攻撃着手をどう判断するかについても言及しなかった。

(2)敵基地攻撃能力の必要性

 北朝鮮および中国は着実に核・ミサイル能力を向上させ、相当数のミサイルを配備している。

 例えば、北朝鮮は日本を射程に収める弾道ミサイルを数百発保有するとともに、極超音速ミサイルと称するものや、変則軌道で飛翔する弾道ミサイルなどを保有し、さらに複数発の同時発射等による飽和攻撃といった実戦的な能力向上を図っている。

 中国は、日本の南西諸島の一部も射程に入る短距離弾道ミサイルを多数台湾正面に配備していると見られ、また日本を含むインド太平洋地域を射程に収める中距離弾道ミサイル等により、周辺地域への他国の軍事力の接近・展開を阻止し、この地域での軍事活動を阻害する能力の強化に取り組んでいる。

 最近では、極超音速滑空兵器の開発を急速に推進していると見られる。

 すなわち、わが国の現状のミサイル防衛体制では、わが国を攻撃する北朝鮮及び中国の弾道ミサイルを迎撃することが困難となっている。

 日本が自らのミサイル防衛(迎撃)能力を強化することを通じて北朝鮮および中国からのミサイル攻撃を抑止する、というのが今までの基本的な防衛戦略であったが、その抑止力の有効性が揺らいできている。

 そこで、こうしたミサイル防衛能力強化以外に、もう一つの抑止力の選択肢として考えられたのが敵基地攻撃能力の保有・強化である。

 さて、抑止力には拒否的抑止と制裁的抑止がある。拒否的抑止とは、攻撃者の特定の目的達成を拒否する能力を持つことにより、目的達成が不可能であることを認識させ、攻撃の意図を起こさせない。

 制裁的抑止とは、報復力により、耐えられない制裁を加えるという脅しによって、攻撃を自制させる。

 敵基地攻撃能力の保有は、耐えられない制裁を行ない得るだけの十分な軍事能力を持つことで、制裁的抑止を成立させようとするものである。

(3)敵基地攻撃と自衛権の行使の関係

 本項は法政大学法学部准教授田中佐代子氏著「敵基地攻撃能力と国際法上の自衛権」(2021年1月18日)を参考にしている。

 仮に日本がミサイル攻撃への対応として自らの判断で敵基地攻撃を行うとすれば、国際法上は、自衛権の行使としての正当化を図ることになるであろう。

 国際法上の自衛権を行使するための要件としては、まず、国連憲章第51条に「武力攻撃が発生した場合(if an armed attack occurs)」と規定されている。

 この「武力攻撃」の要件については、武力攻撃が現実に発生する前に、その脅威に対して自衛権を発動することが許されるか否かをめぐって、激しい論争がある。

 武力攻撃の脅威がまだ急迫しておらず時間的余裕が残されている段階での自衛権発動に対しては否定的な立場が有力であるが、急迫した武力攻撃に対する先制的自衛の合法性/違法性については見方が分かれている。

 これに対して日本政府は、「自衛権は武力攻撃が発生した場合にのみ発動し得るものであり、そのおそれや脅威がある場合には発動することはできない」として、先制的自衛は認められないという立場を示している。

 したがって、これまで日本政府が法理的に可能としてきた範囲にとどまる限り、敵基地攻撃は、武力攻撃が発生した後にのみなされうるのであって、先制的自衛をめぐる論争とは関わらないものだとひとまず理解できる。

 そうすると、武力攻撃が発生したとみなす時点が問題となる。

 日本政府は、「武力攻撃が発生した場合とは、この侵害のおそれがあるときでもないし、また我が国が現実に被害を受けたときでもないし、侵略国が我が国に対して武力攻撃に着手したときである」としている。

 国際法上の自衛権発動の要件としての「武力攻撃の発生」について、被害が実際に生じるまで待つ必要はなく、武力攻撃が開始されればよい、という考え方は、国際法学においても一般的に受け入れられている。

 そうした考え方と、武力攻撃の着手をもって発生と捉える日本政府の立場とは整合的である。

 ただし、武力攻撃の開始ないし着手をどのように判断するかは、決して容易ではない。

 日本政府としては、武力攻撃の着手は、その時の国際情勢、相手国の明示された意図、攻撃の手段、態様等により、個別具体的な状況に即して判断するとしている。

 これらの事項を考慮して判断することは、一般論としては、国際法に照らして何ら問題ない。とはいえ、敵基地攻撃能力の保有を議論するのであれば、武力攻撃の着手の判断の仕方について、より具体的な検討が必要となる。

 かつて、わが国は憲法の解釈から先制攻撃はできない。では、敵基地を攻撃できるのは攻撃を受けてからなのか、いや、準備に着手したら敵基地を攻撃できるといった議論があった。

 その時、石破茂防衛庁長官(当時)は国会で次のように答弁している。

「他国が日本を標的にミサイルを発射する意図を宣言した上で、ミサイルの直立、燃料の注入といった発射準備を行っている場合は、一つの(準備に着手したという)判断材料になりうるのではないか」(発言のURLhttps://kokkai.ndl.go.jp/txt/115615053X01120030604/208

 その石破氏は、最近、メディアインタビューに次のように述べている。

「あの時点では、そういう判断は成り立ちました。当時は液体燃料が中心で、ミサイルに燃料を注入するのに2時間から3時間はかかった」

「(車両型の)移動式発射台も多くはなかった。しかし、今は(事前にセット可能な)固体燃料が中心で、どこから撃つかも分からず、こういう理論は成り立たなくなったと思います」(出典:朝日新聞デジタル12月2日

 では、現時点で、日本はどのように“攻撃の着手”を判断するのだろうか。

 政府・自民党は、状況を詳しく示してしまうと、「日本の手の内を明かす」ということで、武力攻撃の着手の判断の仕方を説明・公表していない。

(4)筆者コメント

 筆者は、日本には“攻撃の着手”を判断できる情報能力があるかと言えば、残念ながらないと言うしかない。

「着手」の判断は日本にとって死活的に重要である。その判断を誤れば敵に日本が「先制攻撃」したとの口実を与え、日本が国際法に違反したとして国際社会の支援を受けられなくなる可能性がある。

 さらに敵が攻撃に「着手」したように見せて日本を挑発し、日本に攻撃させてから、それを大義名分に本格的戦争を仕掛ける可能性もある。

 従って、日本は、第1波の敵からの攻撃を甘んじて受けてから、間髪を入れず、すなわち第2波の攻撃を阻止するために大規模な敵基地攻撃を行うべきであると筆者は考える。

 ところで、敵基地を攻撃するには攻撃兵器システムを有効に使用するための攻撃目標に関する情報(ターゲット情報)が必要である。

 ターゲット情報の収集・分析・蓄積には長い時間が必要である。早急に取り掛からなければならない。

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