山寺宏一いたずらの王者をめざすゾロリを演じる『かいけつゾロリ』の劇場版『映画かいけつゾロリ ラララ♪スターたんじょう』が、12月9日より全国公開中だ。


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本作は、原作『かいけつゾロリ スターたんじょう』をベースに、TVシリーズの人気キャラクターたちも総出演する映画オリジナルストーリー。ゾロリがプロデュースするスターの卵・ヒポポの声と歌を生田絵梨花が演じている。


ヒポポは、山寺曰く「本作のすべてはヒポポにかかっている」というほどの重要なキャラクターである上に、スターダムを駆け上がるヒポポの歌声を段階的に変化させなければならないことや、幼少期のヒポポも演じ分ける必要があることなどから、様々な技術が求められる“難役”。


山寺を「どうしてこんなにできるの!?」と驚かせた生田の役作りや、山寺の声優論、本作の展開に絡めた二人のオーディションの思い出話などを、山寺と生田に語ってもらった。

山寺宏一、生田絵梨花の声優演技は「想像をはるかに超えた出来栄え」

──『かいけつゾロリ』の映画は、山寺さんが声優を担当した作品としては6本目です。今作の内容についてはどのように感じましたか。


山寺:ストーリーは原ゆたか先生の原作が元なんですが、僕も大好きな作品だったので、それが劇場版になるということで非常に楽しみにしていました。アニメならではのシーンも追加されて、キャラクターも増えています。さらに良い作品になっているんじゃないかなと思います。ただ、すごく良い話ではあるんですが、僕はすべて生田さんの演じるヒポポにかかっていると思っていたんです(笑)。


生田:えー!(笑)


山寺:生田さんがミュージカルで活躍しているのも知っていたし、歌が上手なのも聞いてはいましたが、想像をはるかに超えた出来栄えでした。生田さんのおかげで、素晴らしい映画になりました。鳥肌が立ったし、泣いた


生田:すごく嬉しいです!本当ですか。


山寺:ヒポポは大変だなと思っていたんですよ。「どうしてこんなにできるの!?」って聞きたかった。


生田:本格的に声優のお仕事をさせていただくのは初めてだったので、「ヒポポにかかっている」という言葉はアフレコ前に聞かなくて良かったと思っています(笑)。


山寺:僕の中ではそう思っていましたよ。ピュアじゃなければいけない役で、とっても難しいと思います。ヒポポは最初から歌は上手なんだけど、コンプレックスがあって、大きい声で歌えないんですが、それが少しずつ強くなって、最後はすごい歌声になる。こんなに難しいことはないですよ。そういう筋書きを書くことはできても、それを実際の声で演じるのは、セリフも難しいし芝居も難しいし、歌も難しい。ところが生田さんは、歌詞のない「ラララ」の歌だけでも、人を惹きつけられる。びっくりでした。お世辞でもなんでもないですよ。


生田:私はずっと「これでいいのかな」と思いながらアフレコをしていたので、そう言っていただいて初めて「良かったんだ」と安心しています。


山寺:みんなもそう思っていると思うんだけど、一言「素晴らしいよ」と言ってくれれば良かったのにね(笑)。

レコーディングの工夫で歌声にリアリティが生まれた

──生田絵梨花さんご本人として歌を歌う機会はこれまでにたくさんあったと思いますが、ヒポポとして歌うことは、それまでとはまた違う難しさがあったのではないでしょうか。


生田:そうですね。最初にいただいた映像を見て、ヒポポちゃんがどういう表情しているのか、どういう思いなのかを軸にして、成長に合わせて歌声をどう変えていくのか、全体で考えてから調整していくようにしていました。


山寺:すごい。


──山寺さんほどの方から見ても、ヒポポはやはり難しい役なんですね。


山寺:難しいですね。声優の仕事をしている仲間はいっぱいいますが、適役は他に思いつかないくらいです。生田さんは本当にベストなキャスティングとしか思えない。どうしてここまでできるのか、不思議でならないですよ。ヒポポはピュアだったり優しかったりモジモジしていたりと表情も豊かですが、それに見事に声を合わせている。僕は収録に立ち会っていないからわからないけど、歌のレコーディングとかはどうしていたんですか?ディレクターさんと細かく調整して?


生田:この曲ではヒポポの歌声はまだこの段階で、という風には擦り合わせました。最初は、セリフのアフレコの前に歌のレコーディングをすると言われていたんですが、その後、やっぱりアフレコの後に歌をレコーディングすることにしてもらったんです。先に全体の流れをつかみたいと思って。


山寺:役を、自分にしっかり入れてから歌うということね。


生田:それはすごく良かったです。そうじゃなかったら、きっとただの歌として歌ってしまっていたかもしれない。


山寺:そうだよね。ストーリーに沿った録り方をしたのが良かった。


──声優経験はあまりなかったという生田さんですが、今作のヒポポは歌だけでなく、声の演技も幅が広くて難しそうな役でした。幼少期のヒポポも演じ分けていますよね。


生田:音響監督さんが「今はこういう心情だから、こういうことを言うんじゃないかな」とか、「今はこういう目的でこういうアクションを起こそうとしてる」というようにきちんと説明してくださったので、それらしい声を出そうとするというよりも、そのシチュエーションをイメージしてやってみたら、それが声になったような感じですかね。だから今、同じ声を出してくださいと言われても、たぶんできないシーンは多いです。


山寺:ちゃんとなりきっているんだよね。作っている感じがまったくない。今作の音響監督は気持ちを大切にする方なんです。合わせるとか合わせないとかというよりも、どういう思いで何を言うかを大事にされる方。そこを引き出すのがとにかく上手いんですが、やっぱり感性がないとそれには応えられないんですよ。それをちゃんと理解して、自分の中で落とし込まないといけない。そう簡単にできることではないですよ。


山寺宏一、声の芝居は「映像と台本があってのこと」

──素人質問で申し訳ないのですが、山寺さんに聞いてみたいことがありまして...。山寺さんはこれまで膨大な数の声を担当されてきていますが、生田さんが先ほど「同じ声を出すことは難しい」とおっしゃったように、山寺さんはかつて演じた役柄の声を再現するのに苦労するようなことはないのでしょうか。


山寺:何にもないところで、急にやれと言われたら、やっぱりなかなか難しいです。ゾロリに関しては長年やらせていただいているから、ある程度はできますが、あくまでも映像と台本があってのことですから、自分で好き勝手にしゃべるというものではないんです。ゾロリのセリフとして書かれているからできるのであって、何もないところで「ゾロリをやってみろ」と言われても、自分でセリフを紡ぎ出しているわけではないので、それは難しい。そのセリフをどうゾロリとして言うか、という仕事なんです。


生田:ゾロリの声はこれでいこう、というのは、初めてブースに入った時に、音響監督さんたちと打ち合わせをして決めるものなんですか?


山寺:まずは自分でやってみて、「もうちょっとこう」と修正されるというのがよくありますね。でも実は僕は、たくさんの声質をコロコロと変えているように思われているけど、そうではないんです。人柄やキャラクターの喋り方、考え方に合わせていく中で、おのずとそういう声になる。自分の持っている役でも出番があまり多くないキャラクターだったら、自分とかけ離れた声で表現することもできますが、ゾロリのようにメインで出ていて、喜怒哀楽の全部を出さなきゃいけないようなキャラクターをやるなら、無理をして出した声では、感情の細かいところまではなかなか出せない。それでは勝負できないんです。途中からは理屈じゃなくなってくるので、あまり考えてやるようなものではありません。ただ、長く声優をやっているから、老けちゃいけないなというのはありますね。山ちゃんが年をとったらゾロリも年をとっちゃった、とは思われないように気をつけています(笑)。


生田:たしかに役は年齢が変わらないですもんね。

山寺宏一&生田絵梨花、オーディションの思い出は?

──ところで、今作ではヒポポがオーディションで自信を失ってしまう場面が描かれますが、お2人は過去にオーディションで苦労をした思い出はありますか。


生田:ミュージカルのオーディションでは、課題曲を貰うんですが、最後まで歌える人とサビ前で切られる人がいるんです。私もよくサビ前で「ありがとうございました」と切られていました。「これは落ちたな」と、その時点でわかるんです。


山寺:サビまで行かずに「これはいける!」という意味で切られるようなことはないんですか?


生田:私はそういう経験はあまりなくて、切られた時はダメだということが多かったです。そこはすごくシビアでしたし、落ち込みますね。


──そんな時はどうやってモチベーションを立て直すのでしょうか。


生田:それはもう、「次!」と思うしかないですかね。


──どこかで自信がついたタイミングはありましたか。


生田:私はいろんなオーディションを受けていましたが、なかなか思うようにはいかなくて。そんな中で受けた乃木坂46のオーディションに合格し、それからミュージカルは一度離れていました。でも、ダメなところもさらけ出しながらステージに立ち続けていく内に度胸がついたり、自分の良さを教えてくれるファンの方がいたりしたことで、その後改めてミュージカルにトライする時にも、怖くなくなったり、割り切ったりできるようになりました。


──もしかしたら、なにかに行き詰まった時には向かう方向を一度変えてみるのも一つの手かもしれませんね。


生田:そうかもしれないですね。きっと、今はダメでも進んだ先に合流地点があったり、全然違うジャンルに行っても、生かせることがあったりすると思うので、無駄にはならないんだと思います。


──山寺さんは駆け出しの頃のオーディションの思い出などはありますか。


山寺:アニメの声優はオーディションで選ばれることが多いので、若手の頃はとにかく、本当にたくさん受けました。僕もメインの役はなかなかもらえなかったです。若手の頃に「絶対にやりたい」と思った作品があったんですが、原作をすごく読み込んでいたし、良い役をもらい始めていた時期でもあったので、ちょっと自信があったんですよ。ほぼ自分に決まりかけていると聞いていたんですが、その後にもっと役にぴったりの人が見つかったから、やっぱり無しということになって、ものすごく落ち込んだことがあります。でもその後、もっとやりたい役がたまたま舞い込んできて。最初の役が決まっていたら、その話は来なかったんじゃないかなと思うんです。それからは、何かをうまくいかないことがあっても、次にはもっといいものが来るはずだと思うようになりました。


生田:それは素敵な話ですね。


山寺:そうして後に決まった役が、僕が今でも大好きな作品になったんですよ。「あっちの役をやっていたら来なかったんだろうな」と思います。ところが最近、すごくやりたい作品のオーディションで、僕、立て続けに2つくらい落ちたんです。自信も手応えもあったんですが、この年で落ちるのは痛手が大きいですね(苦笑)。昼間からステーキをやけ食いしました(笑)。


──貴重なお話をありがとうございました!


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取材・文・撮影:山田健史


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