アムンディ・ジャパン12月8日、東京で機関投資家や投信の販売会社を対象とした2023年の市場見通しに関するセミナーを開催した。アムンディ・ジャパンの代表取締役社長であるローラン・ベルティオ氏(写真:左)は、「2022年は、ウクライナで戦争が勃発するという予想外の出来事によって市場のボラティリティ(価格変動率)が高まり、事前の予想とは異なる経済・市場になった。23年は、インフレピークアウトするのか? 中央銀行の金融政策は? 景気後退はどれほど深刻なのか? 企業の収益見通しは? 地政学リスクは? などなど注意深く見守る要素が多くあり、見通しが難しい1年になっている」と語り、グループCIO(チーフインベストメント・オフィサー)に2022年2月に就任したヴァンサン・モルティエ氏(写真:右)を紹介した。モルティエ氏はCIOに就任した後では初めての来日となり、「2023年の投資見通し 嵐の後にいくらかの光明が見えてきた」をテーマに講演した。

 モルティエ氏は2022年を総括して「トランジション(移行/過渡)の年」と表現した。各国の中央銀行による継続的な利上げによって債券のボラティティが急上昇するとともに、過去100年間で最悪のパフォーマンスを記録。世界的な株安も進展し、特に、ハイテク株は激しく下落した。このため、株式と債券の逆相関を利用した分散投資が機能しなかった。株式や債券、コモディティや通貨など30種類のアセットクラスの年間パフォーマンスは、24資産クラスがマイナスで、しかも、22年10月時点で16資産が2ケタのマイナスになるなど、「2008年のリーマンショック(世界金融恐慌)当時よりも分散が効かない最悪の1年になった」と、運用には非常に厳しい1年だったと振り返った。

 2023年のメインシナリオ(70%程度の確率)は、世界経済が潜在成長率である3%を下回る2.2%成長という弱い成長の中で、インフレが高止まりする状況が継続すると見ている。メインシナリオは、米FRBが23年5月、ないしは、6月にターミナルレート(最終到達点)5.25%程度で利上げが停止され、年末にはFFレートが低下していくというもので、年後半にはインフレ率も抑えられて株価は上昇に転じるという見通しだ。一方、15%の確率で起こり得るダウンサイドシナリオは、インフレが収まらず、FRBの金融引き締めによって米国が景気後退に陥り、中国も景気後退期入りするというもの。反対に、ウクライナ戦争が停戦し、インフレ率が急激に下がるようなことがあれば、15%程度のシナリオで年後半に大きな上昇相場に転じることもあり得るとみている。インフレ率がどの程度抑えられるかによって、中央銀行の金融政策が左右され、それによって市場もフレることになるため、引き続きインフレの動向には注視していく必要があると語った。

 この中で、日本株式については、比較的ポジティブに評価している。「日本経済は、インフレを抑えながら緩やかな回復基調に徐々に転じていくだろう。長らく続いたデフレの悪循環を断ち切るためには、上向いている賃金が上がってくるかどうかを見極める必要がある」と語った。また、新興国インフレと金融政策のかい離が大きくなっており、「全体としてまとめて考えるのではなく、個々の国をそれぞれ見ていくことが重要」と指摘した。中でも、中国は大きなドライバーになり得るとして株式市場の動きに注目していると語っていた。中国の不動産危機は制御されつつあり、ゼロコロナ政策で止まっていた経済も徐々に再開される方向にあり、株式市場の回復も期待できるという見通しだ。

 2023年の投資先としては、債券にはポジティブな評価をしている。特に、信用力の高い米国やドイツ、英国といった中核国の国債は魅力的な水準にあるとする。そして、株式についても1974年オイルショック以来、過去5回の大幅な株価下落(年に20%以上の下落)が起こった翌年は、5回とも翌1年間で大きな反発を実現している。2022年は最大下落率(ピークから大底まで)で24%という大きなマイナスになっていることから、市場は翌年に大きく回復する可能性があり、株式への投資は継続することを勧めていた。ただし、現在のバリュエーションは収益期待が景気後退懸念を反映していないため、高すぎるバリュエーションの銘柄は避けるなど、銘柄を選別する必要があると語っていた。

 一方、株安と債券安で分散投資の機能が失われた状態は、債券の利回り上昇によって分散効果が回復すると考えられる。たとえば、米国で株式60%、債券40%という配分で運用すると過去20年の平均で年5%程度のプラスリターンを得られているが、2022年は、リーマンショック時以来の年間2ケタのマイナスになりそうだ。過去2ケタマイナスの翌年には平均で15%程度の高いリターンを記録しているため、伝統的な株式60%、債券40%の資産配分にもポジティブなリバウンドが期待されるとしていた。

 なお、ESG投資については、2023年は引き続き重要な取り組みとなり、むしろ、次のステップに進むことが期待されるという。2021年~22年は、世界的に規制や枠組みが不明瞭だったり、企業の情報開示が不十分なこともあって、多くの国においてESG投資に関する混乱があった。ただ、そこから学ぶことも多く、特に、投資家はESGについてその目的が様々に異なることが見えてきたという。そこで、これからのESG投資は、エリアや対象、投資目的などをより明確にした商品が出てくるようになろうと見通した。また、「ベスト・イン・クラス」のアプローチで、テーマやセクターなど様々な切り口を統合した商品をコアとして求める動きも強まるとした。モルティエ氏は、ESG投資の視点として「足りない企業やセクターを排除することなく、全ての企業のESGへの取り組みを改善させるエンゲージメントが重要だ」と語っていた。(情報提供:モーニングスター社)

「嵐の後」で大幅下落した資産が反発、株式と債券の分散効果も復活=アムンディが2023年の市場を展望