ブロードウェイミュージカル『CHICAGO』が2022年12月14日(水)、東京国際フォーラム ホールCで開幕した。

トニー賞最優秀リバイバル・ミュージカル作品賞に輝き、2021年でブロードウェイでのロングラン25周年を迎えた『CHICAGO』。アメリカ(ブロードウェイ)作品としては、歴代1位のロングランを誇り、これまでにトニー賞6部門、ローレンスオリヴィエ賞2部門、グラミー賞、そして幾千回ものスタンディングオーベーションの賞賛を受けてきた。日本を含む36か国、500以上の都市、12言語での公演が行われている。

日本では1999年から今までで合計9回の海外カンパニーにおける来日公演、2回の日本人キャスト公演、そして2回の宝塚歌劇団OGたちによる公演が行われ、合計350公演以上、55万人以上の動員を記録している。
 
今回は「25周年記念ジャパン・ツアー」として、3年ぶりの来日公演。当初出演を予定していた米倉涼子は、ドクターストップのため、残念ながら降板してしまったが、ロンドンウエスト・エンドのキャストを中心に世界ツアーを続ける実力派メンバーが集結した。初日を前に行われたゲネプロ(総通し舞台稽古)の様子を写真とともにお伝えする。

ブロードウェイミュージカル『CHICAGO』ゲネプロの様子

ブロードウェイミュージカル『CHICAGO』ゲネプロの様子

ブロードウェイミュージカル『CHICAGO』ゲネプロの様子

ブロードウェイミュージカル『CHICAGO』ゲネプロの様子

最初にストーリーを説明しよう。

舞台は、1920年代のアメリカ・イリノイ州シカゴ。夫と浮気相手の妹を殺害した元ヴォーヴィルダンサーヴェルマ・ケリーが現れ、虚飾と退廃に満ちた魅惑的な世界に観客を引き込む(「All That Jazz」)。曲の途中、ナイトクラブで働く人妻ロキシー・ハートが、浮気相手の常連客フレッド・ケイスリーに銃弾を放つ。

お人好しの夫エイモスは、ロキシーの身代わりとして出頭。愛すべき夫への想いを吐露するロキシーだったが(「Funny Honey」)、死んだのは妻の浮気相手だと気づいたエイモスは憤慨し、警察に真実を話す。そして、ロキシーは殺人犯監房へ。そこにはヴェルマをはじめ、自らの犯した罪にそれぞれの「解釈」を加えて、無実を高らかに訴える女性殺人囚たちがいた(「Cellblock Tango」)。女看守ママ・モートンは「見返りをくれれば、そのお礼をするよ」(「When You're Good To Mama」)とロキシーに「ギブ&テイク」の精神を説く。

ブロードウェイミュージカル『CHICAGO』ゲネプロの様子

ブロードウェイミュージカル『CHICAGO』ゲネプロの様子

無罪を勝ち取ってショービズ界へのカムバックを目論むヴェルマは、マスコミの注目を奪ったロキシーが気に入らない。

ヴェルマの代理人を務める凄腕弁護士のビリーフリンは、金や名声より「愛こそがすべて」(「All I Care About」)だとうそぶき、ロキシーの弁護を引き受ける。手始めにビリーは、お涙頂戴ドラマに弱いタブロイド紙の記者メアリーサンシャインを利用しようと画策(「A Little Bit Of Good」)。記者会見を開き、ロキシーの偽りの過去と正当防衛の作り話を大胆にでっちあげる(「We Both Reached For The Gun」)。

ビリーの話を信じたマスコミや世間の注目を浴びて大喜びのロキシーは、スターになった自分の晴れ姿を夢見るのだった(「Roxie」)。

ブロードウェイミュージカル『CHICAGO』ゲネプロの様子

ブロードウェイミュージカル『CHICAGO』ゲネプロの様子

焦ったヴェルマはロキシーに手を組もうと持ち掛けるが(「I Can't Do It Alone」)、またも衝撃的な事件が起き、2人へのマスコミの関心は薄れてしまう。

ロキシーヴェルマは「頼りになるのは自分だけ」と自らに言い聞かせ(「My Own Best Friend」)、ロキシーは「実は妊娠している」と告白。新ネタに狂喜したマスコミは、再び彼女に無数のフラッシュを浴びせるーー。

ブロードウェイミュージカル『CHICAGO』ゲネプロの様子

ブロードウェイミュージカル『CHICAGO』ゲネプロの様子

転んでもただでは起きないライバルに呆れながらも感心すら覚えるヴェルマ(「I Know A Girl」)と、いもしない赤ん坊を想像して上機嫌のロキシー(「Me And My Baby」)。一方、周囲から忘れられたエイモスは、自分がセロファンのように透明で目立たない存在だとつぶやく(「Mister Cellophane」)。

ブロードウェイミュージカル『CHICAGO』ゲネプロの様子

ブロードウェイミュージカル『CHICAGO』ゲネプロの様子

名声に溺れて強気になったロキシーに対し、ビリーは自分こそがすべてを巧みに操る「スター」なのだと自信たっぷり(「Razzle Dazzle」)。彼の筋書き通り、法廷で社会の被害者を演じるロキシーの様子を聞いたヴェルマとママ・モートンは、道徳や品位など地に落ちた今の世のありさまを嘆く(「Class」)。

そして、判決のとき。ロキシーは見事無罪となるが、その瞬間スキャンダラスな殺人事件のニュースが舞い込み、マスコミは彼女に目もくれず飛び出していく。茫然自失となるロキシー、そして同じくマスコミから見放されたヴェルマだったがーー。

ブロードウェイミュージカル『CHICAGO』ゲネプロの様子

ブロードウェイミュージカル『CHICAGO』ゲネプロの様子

ブロードウェイミュージカル『CHICAGO』ゲネプロの様子

ブロードウェイミュージカル『CHICAGO』ゲネプロの様子

「ブロードウェイミュージカル」の代名詞的存在である『CHICAGO』。

舞台装置は実にシンプルで、舞台上には階段になっているセットがあるのみ。その階段の上部には常にオーケストラのメンバーがいて、ときどき、階段中央部分のはけ口から出入りするキャストとコンダクターが絡む。照明のカラーバリエーションはあれど、衣装は基本的に黒一色で、余分なものを削ぎ落とした演出だ。

なぜこんなに『CHICAGO』に惹かれるのかと改めて考えたが、やはり楽曲の完成度の高さなのだと思う。一度聴いたら、なかなか頭から離れない名曲ぞろいであるし、フォッシースタイルの官能的でスタイリッシュな振付もたまらない。身体の動きを見れば、がんがんに踊る部分もあれば、単に肩の関節を一回回した“だけ”、手首を曲げた“だけ”だったりするのだが、その適度な緊張感と間合いとが絶妙で、色っぽい。タバコを加えながらステップを踏む何気ないシーンですら見惚れる。

話の筋を冷静に追えばなかなかに「ヤバイ話」なのだが(笑)、極上の歌とダンスで、見事にエンターテインメント作品に昇華している。まさに「All That Jazz」(なんでもあり)なのだ!

キャストについても少し触れておこう。ロキシー・ハート役のサラ・ソータートは全体的にとてもキュートなのだが、芝居の端々で退廃的なオーラも感じる(だから放っておけない!)。ヴェルマ・ケリー役のソフィーカルメンジョーンズは全体的に姉御肌でさっぱりとしているヴェルマを演じていたが、「I Can't Do It Alone」のパフォーマンスでは茶目っ気も感じられた。ビリーフリン役のキャヴィン・コーンウォールは、自信に満ち溢れた「敏腕弁護士」を好演した。

アカデミー賞6部門を受賞し、日本では2003年に公開された映画版を観たことがある方も多いだろう。映画版は映画版でとても良くできているのだが、ぜひ生の舞台での『CHICAGO』を体感して欲しい。今年の観劇納めの1本としてもおすすめしたい。

ブロードウェイミュージカル『CHICAGO』ゲネプロの様子

ブロードウェイミュージカル『CHICAGO』ゲネプロの様子

会場にはフォトスポットもあるので、ぜひ来場の記念に一枚!

会場にはフォトスポットもあるので、ぜひ来場の記念に一枚!

取材・文・撮影=五月女菜穂 

ブロードウェイミュージカル『CHICAGO』ゲネプロの様子