この時期のスポーツ紙を賑わせるのが、移籍の話題です。FAの目玉選手の去就は常にSNSなどで大きな話題になりますが、ニュースを目にしたファンは自ずと来年のことを意識します。あぁ、あの人はどこへ。そして来季の我がチームはどうなるのかしら。

シーズン中もシーズンオフもスマホが手放せない山本が、本日は「移籍」についてお話させていただきます。

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流行語大賞にもなった村上宗隆選手の活躍などで今季のセリーグを制し、2連覇を達成したヤクルト。来季の他のチームは本腰を入れて「打倒ヤクルト」を目指すことは間違いなく、さらに厳しい戦いが待っていることでしょう。

今季のヤクルトと他チームの力はまさに紙一重でしたが、たとえ一つのチームが飛び抜けた力を持っていたとしても、いずれ均衡するのがプロ野球の常。近年では最下位だったチームが翌年に優勝することは珍しくなくなりました。

戦力アップをはかるにはいくつか選択肢はありますが、他チームからの有力選手獲得は最も有効かつ確実な手段。となると、移籍市場で目玉となるのは、やはりFA宣言した選手です。今年だと西武の森友哉捕手がオリックスへ移籍したことが大きな話題になりました。

日本のプロ野球では選手が移籍すると大きなニュースになりますが、MLBでは移籍が当たり前で、シーズンが変わるたびまったく違うチームになることもあるほど。そうすると弱かったチームが強くなることも期待できますし、またその逆もしかり。

MLBではなぜ移籍が盛んなのでしょうか。もしかしたらファンを飽きさせないための工夫なのかもしれません。年俸総額が高いチームはリーグから課税され、それが弱小チームに分配されたりと、弱いチームにも翌年には優勝のチャンスがあるのです。日本では、アメリカのように1年でガラッとチームが変わることはありませんし、まだまだ移籍が盛んとは言えません。

日本のプロ野球において、移籍という行為はあまり受け入れられていないような気がするのです。自分にも思い当たる節があって、FAで出ていく選手をこころよく送り出せなかったこともありました。我がヤクルトはいい成績を残した選手を放出する立場でしたから、多少の金銭補償があったとしても、中心選手を引き抜かれるとガクっと落ち込みました。

我が家には「バレンティン」という名の猫がいるのですが、彼の他球団への移籍が濃厚になったとき「巨人に行ったら名前を変えよう」と冗談まじりに言っていたオフシーズンが懐かしい(遠い目)。

連載を通して私自身、野球の魅力をさまざまな面から再認識しております
連載を通して私自身、野球の魅力をさまざまな面から再認識しております

もちろん、プロ野球選手はお金=評価ですから、他の球団に移籍した選手を責めるつもりは毛頭ありません。ただ、移籍した選手に活躍の場が与えられないことがとても悲しいんです。まるでキラキラしたカードを集めたいだけのわがままな子供みたいで......。

いい選手を集めて毎年真剣に優勝を目指すMLBでは、選手はその1年をチームのために捧げます。チームは家族なので、ファミリーのために1年間全力を尽くすのです。そして翌年はまた違うチームで全力を尽くす。

日本の場合、移籍した選手は外様と呼ばれたり、あるいは薄情だと思われたりと、いいイメージを持たれないこともあって、だからこそ移籍に二の足をふむ悪循環にあるのかもしれません。

では、日本もMLBのように移籍を盛んにすればいいかというと、それはまた違うような気もしています。日本の野球ファンのいいところは、長い目でチーム作りを見られることです。私たちは1年くらい弱くたって応援する球団を見捨てることはしません。いつか強いチームを作ってくれたらそれでいいと思っています。

日本人が得意とする我慢強さがそこにはあります。スター選手が巣立ったら、別のスター選手を獲得するのではなく、次の推しが育つまで待つ。それが、私たちプロ野球ファンの正しい楽しみ方なのかもしれません。

これから来る選手には、よろしくお願いします、巣立った選手には、これまで戦ってくれてありがとうと言いたい。いつかまた会いましょう、と。

移籍する選手には、これまで以上の活躍を期待します。敵味方関係なく、プロ野球を盛り上げて欲しいと心から思います。

それではまた来週!

★山本萩子(やまもとしゅうこ)
1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。
2019年より『ワースポ×MLB』(NHK BS1)のキャスターを務める。愛猫の名前はバレンティン

構成/キンマサタカ 撮影/栗山秀作

選手の「移籍」について山本キャスターが語る