資産運用には、主な株式投資や不動産投資のほか、企業が発行する債券を購入するという方法があります。投資とは特性の異なる債券を運用ポートフォリオに組み込むことで、リスクを軽減する作用が期待できます。本記事では、債券について具体的事例を交えて、資産コンサルティング業務の専門家である田邊陽吉氏が解説します。連載第3回目となる今回は、債券単価について抑えておきたい3つのポイントについて見ていきましょう。

3種類の社債

社債は主に3種類に分けられる。

(社債の種類)

1 シニア債

2 劣後債

3 CoCo

各社債の種類は、「もし企業が破綻した際に、どの債券から返済するか?」という「弁済順位」によって区分される。

シニア債は弁済順位が最も高く、劣後債、CoCo債と弁済順位が低くなっていく。劣後債やCoCo債は、資本性をもつ債券ということでハイブリット証券とも呼ばれている。

実は、これらの違いを正確に理解して債券を選んでいる方は非常に少ない。劣後債やCoCo債は高い利回りを期待できるが、その分、元本棄損のリスクが高くなる。

特にCoCo債に関しては、発行体(社債を発行している企業)の自己資本比率が一定の水準に抵触した場合、元本の一部または全部の削減、または、強制的に普通株式への転換が発生する可能性がある。

これは「トリガー条項」と呼ばれる、あらかじめ決められた一定条件を満たした際に発動される条項で、発行体によって定められている。

利回りが期待できる一方、危機に弱いハイブリット証券

債券とは、ひと言で表現すると「お金を貸すこと」である。借り手の都合により、貸したお金が強制的に返されなくなったり、株式で返ってくることが決定されるきまりなのだ。

例えば、劣後債は弁済順位が上位ではないため、マーケットショックが起こった際には、流動性が低下し、価格が大きく下がったり、売却できなくなったりする可能性が生じるということである。

過去30年間における、世界株式の平均リターンは約5%と言われている。ハイブリット証券(劣後債、CoCo債)にはそれと同じか、それ以上の利回りを得られるものもあるのが魅力の一つだ。上記のようなリスクを理解したうえでなら、利回りのよさを優先して、ポートフォリオに組み込むのも、また一案である。

しかし、私が実際の業務でご相談いただくなかには、必ずしもそういうご意向ではない投資家の方たちも少なくない。値動きに振らされず、元本の棄損リスクをできるだけ抑えた、利金収入の安定が見込める運用を求め、専門家に相談する方が多い印象である。

こうした意向であれば、シニア債の購入が適していると考える。もし社債の発行体である企業が破綻しても、比較的元本の回収が期待できるからだ。

企業の財務体制などから破綻のリスクがあるかどうか検討することも大切だが、債券の種類をきちんと理解することも、破綻リスクの備えに大いに役立つ。

債券単価について抑えておきたい3つのポイント

債券のあまり知られていない要素の1つに、債券単価という概念がある。これは、株で言うところの株価のようなもので、発行時に比べ、現在は何%の価格がついているかを表すものである。発行時に100%で発行され、満期時には100%で償還されるが、償還までの間に110%になったり、90%になったりと変動する。

この債券単価をうまく利用すれば、債券をより効果的に運用できるようになるのだ。ここからは、債券単価について抑えておきたい3つのポイントを紹介したい。

ポイント① 販売する証券会社によって債券単価は異なる

まず、1つ目のポイントについて。債券は販売する証券会社によって単価が違うということである。なぜかというに、売買における「手数料」に関して、株式や投資信託は、取引金額の何%という形で別途支払うような仕組みであり、その手数料は開示されていることがほとんどである。

一方、債券は「手数料」が単価に内包されている仕組みであり、開示されていないケースがとんどである。別途「手数料」を支払う必要がないため、一見すると、シンプルで明快だが、「手数料」にいくら支払っているのか不透明であることは、デメリットでもある。

同じ商品(債券)でも、販売している各証券会社によって「手数料」は異なるため、購入先によって、しばしば条件は変わる。債券単価は債券の利回りに直結するため、複数の証券会社の債券単価を比較し、もっともよい条件で購入できるよう努めることは、非常に大切なことだと考える。

ポイント② 債券単価が100%超えのものを活用する

次に、2つ目のポイントについて。債券単価が100%を超えている債券をうまく使うということだ。既出のとおり、債券は100%で発行され、満期時には100%で償還されるため「100%より大きい単価が付いている債券を買うのは損じゃないの?」という声をよく聞く。しかし、実はそうではない。100%を超えることによるメリットがあるのだ。

具体的にどういうメリットがあるのか。例えば、単価110%で購入した債券を満期まで保有すると、100%で償還されるため、10%分の償還差損が出ることになる。この償還差損は、向こう3年の運用益と損益通算(※)することができるのだ。

※【損益通算とは】

■概要

損益通算とは、各種所得金額の計算上生じた損失のうち一定のもの(損益通算の対象となる所得の範囲)についてのみ、一定の順序にしたがって、総所得金額、退職所得金額または山林所得金額等を計算する際に他の各種所得の金額から控除することです。

■損益通算の対象となる所得の範囲についての注意点

申告分離課税の株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上生じた損失がある場合は、株式等に係る譲渡所得等以外の所得の金額との損益通算はできません。

(引用元:国税庁ウェブサイトhttps://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2250.htm#:)

運用益に対しては、通常20.315%の税金がかかるため、100万円の運用益が出ても実際の手取り金額は約80万円分となる。

だが、もし債券の償還差損が50万円出た場合には、損益通算をすることで、税金は損を引いた分の利益のみにかかるため、100万円の運用益に対して手取り金額は約90万円になる。単価が100%を超えている債券をうまく組み合わせることで、より多くの手取り金額を得ることができるのだ。

インカムゲインとキャピタルゲインを同時に得るには

ポイント③ 債券単価の上昇を狙う

最後に、3つ目のポイントについて。単価の上昇を狙うことができるということである。債券の話をすると、「インカムゲイン(株式や債券などの資産を保有中に得られる収益のこと)がメインの金融商品なんでしょう?」と言われることがよくある。

ところが実は、債券も株式と同じようにキャピタルゲイン(株式や債券などの資産を保有中に得られる収益のこと)を狙える商品なのだ。債券単価は変動するが、その変動要因は、主に金利であり、ここでの金利とは国債の利回りを指す。

運用の世界では、国債が最もリスクが低いと考えられており、社債の利回りは、その国債の利回りに企業の破綻リスクを載せたものになる。

そのため、新しく発行される国債の利回りが上がると、社債を持っている人々は、リスクの高い社債を保有している魅力が減るため、持っている社債を売って、リスクの低い国債を買おうとする。そうすることによって社債が売られ、債券単価が下がっていくという仕組みである。

金利が下がったタイミングについても同様であるため、一般的に、金利が上がると社債の単価は下がり、金利が下がると社債の単価は上がる。この債券単価の変動はデュレーションが長ければ長いほど大きくなる。

デュレーションとは、債券の投資元本の回収に要する期間のことを表す。端的に言うと、償還までの年数と考えていただければいいと思う。要するに、デュレーションが長期である債券の方が債券単価の変動が大きいのだ。

そのため、単価の上昇を機に利益を得るには、長期の債券を金利が上がったタイミングで購入し、金利が下がった債券を売却するのがよい。

コロナショックによる米国の利上げを利用した好事例

「実際に債券でキャピタルゲインはどれくらいとれるの?」というところが気になるところだと思う。

実際に債券単価の上昇で益を得た事例を紹介させていただく。2018年から2020年コロナショックにかけて、アメリカ長期金利が3.2%から一気に0.5%まで急低下した時期があった。

その時期に私がおすすめしていた債券にゴールドマンサックスの社債がある。この時期は、金利の急低下に合わせて、ゴールドマンサックスの社債単価が101.57%から、155.94%まで上昇した。

本期間は約1年半である。わずか約1年半で約55%ものキャピタルゲインが獲れたのだ。尚且つ、この債券のクーポン「5.75%」が1年半分入ってくるため、約8%のインカムゲインを得ながら、50%以上のキャピタルゲインを獲れたという好事例である。

このように世の中の金利が上がっているタイミングでは、長期の債券をもつことで債券単価の上昇を狙うことができる。現在、アメリカの金利は急激な利上げにより、ピーク時に比べてやや下がってきてはいるものの、非常に高い水準にある。これからおとずれると予想される景気後退局面を鑑みると、今後金利が引き下げられる可能性は高い。

そうなると、2018年から2020年の時期のように債券単価の上昇を狙える可能性は高い見通しである。ここまで、長く説明をしてきたが、難しい相場環境のなかにおいて、長期の債券は非常に有効な投資戦略ではないだろうか。

(※写真はイメージです/PIXTA)