武田梨奈が、吉村界人と共に主演・企画を務める映画「ジャパニーズスタイル/Japanese Style」が、12月23日(金)に公開を迎える。舞台は2019年の大みそか。「巨大な絵を完成させようとする男」(吉村)と「袋とじをきれいに開ける特技を持つ女」(武田)が空港で偶然出会い、とある事情によりトゥクトゥクに乗って横浜の街をさすらうことに。二人はその道中で引かれあっていくが、それと同時に互いの秘められた過去が徐々に明らかになっていく。2020年まであと数時間。互いにやり残したことを抱える二人は、どんな新年を迎えるのか――。大みそかを舞台に描かれる本作は、撮影も2019年の大みそかから2020年の正月にかけて実施。10月に企画が持ち上がり、準備期間はわずか2カ月で撮影された。無謀にも思えるスケジュールで作り上げられた同作の、製作の裏側や込められた思いを聞くと共に、武田の代名詞とも言えるアクションへの考えなどを語ってもらった。

【写真】アクション作品参加へ「自分で生み出そう」と前向きの思いを語った武田梨奈

■吉村界人から電話「大みそか空いているだろ」

――武田さんは今回の作品に企画から参加されていますが、どういう経緯があったのでしょうか?

かなり昔の話ですが、アベラヒデノブ監督と吉村界人くんと3人でご飯を食べた席で、「なにか面白いことやりたいよね」「いつかみんなで映画撮りたいね」と漠然と話したことがあるんです。それから会うたびにそういう話はしていたんですが、2019年の10月頃、ふと吉村くんから「あの映画撮るぞ。大みそか空いているだろ」って電話がきたんです。

確かに空いてはいたんですけど、その時は酔った勢いでアベラ監督と一緒に電話してきたんだろうなというくらいに思っていたんですが、後日改めてみんなで集まった時に、この熱量だったらみんなで面白いものを作れるんじゃないかと、それぞれが確信したんです。そこからは本格的に、どういう映画を作るのか、どうやって作るのかというように進んでいきました。

――吉村さんから電話がきた時点で、大まかな内容は決まっていたんですか?

全く何も決まっていませんでした。まずはどういう映画を撮るかという話になったんですが、どうせ大みそかに撮るんだったら、大みそかにしか撮れない画ってなんだろうということで、やっぱりカウントダウンじゃないかって。さらにカウントダウンをゴールにするんじゃなくて、そこからまた物語が始まるのが面白いよね、というところから始まって、次にそれぞれがこういうことがやりたい、ああいうことやりたいと、雑談のように意見を出し合いました。

夕方ぐらいから集まって、次の日の朝までずっと映画の話をするというのを何日か重ねて、やっと内容が固まってきたんです。

■「恋愛ものだけはやめよう」

――企画の発案者が複数人いると、それぞれの意見をまとめるのも難しいように思うのですが、そのあたりはいかがでしたか?

それぞれが、良くも悪くもすごく真面目に考えている感じではなかったんですよ。何をやりたいかを楽しみながらとりあえず言い合って、それを録音したり、メモを取ったりしながら、次の日にまとめて、という雰囲気でしたね。

出演者も私と吉村くんしか決まっていなかったんですが、男女の映画ってなると恋愛ものが多くあるので「恋愛ものだけはやめよう」というのは最初に決まりました。それで、年越しそばを食べるとか初詣に行くというような、日本の大みそかっぽい感じを取り入れつつ、「日本人だからできない」という言い訳を基に作品を作ったら面白いんじゃないかと。そういう小さなネタからどんどんと膨らんでいきました。

――最終的に完成された作品には、武田さんのこだわりも反映されていますか?

こだわりというほどじゃないんですが、それぞれの大みそかのエピソードを話す中で、「私の出身地の横浜では、若者たちがカウントダウンをして花火を見るというのが定番だ」という話をしたんです。私は毎年、気持ち良く年を越せるような人間ではないんですが、私のように「今年は自分の思い通りにいかなかったな」と、何かしらを抱えながら年を越す人もたくさんいると思うんですよね。そういった時って、みんなが「ハッピーニューイヤー!」ってお祝いムードになっているのを横目に見て「いいなぁ」って思ったりして。そういうものを描けたらいいなと思っていました。

■大きなトラブルはいくつかあった…監督と連絡が取れない

――吉村さんから連絡があった年の大みそかに撮影されたんですよね。準備期間はかなり短かったのではないでしょうか?

「大みそかに映画を撮る」という電話が10月だったので、準備期間は2カ月くらいでした。こんな短期間で映画を撮るなんて、かなり無理に近い状況だったと思うんですが、それでも、みんなで集まって話していく内に、たぶんそれぞれが「これは撮らなきゃいけないな」って思ったんですよね。「無理だけど、やってみよう」という精神で、時間も予算もない中で、いろんな方を巻き込んで、キャストの皆さんにも集まっていただきました。

――結果的に、大きなトラブルも起きることなかったのでしょうか?

いえ、割と大きなトラブルはいくつかありました。撮影前に監督と連絡が取れなくなったり(笑)。

――どういうことですか?

最終的に、クリスマス前くらいまでに脚本を完全に完成させることになっていたんですが、その期限の日から音沙汰がなくなってしまって。「監督どこにいる!?」みたいなことになったんですが、数日間は音信不通。本番を迎えるのは難しいんじゃないか、となったことがありました。

――まさしくこの作品の吉村さんが劇中で演じる、締め切りに追われる絵描きのような。

本当にそうなんです。アベラさんもそれくらい期限に追い込まれていたんですよね。アベラさんに限らず、皆さん年末までそれぞれが別の現場を抱えていたし、それを抱えながらやっていたというのは、無謀に近いくらいのことでした。

■2022年は“学びの年”に「来年はアウトプットできたら」

――武田さんはこの撮影の時に大みそかが空いていたということですが、普段はどのように過ごすことが多いですか?

大みそかは実家でゆっくりとしていることが多いです。私は家族と過ごす時間が好きなので、大みそかは好きな時間ではあるんですが、毎年カウントダウン前になると「やり残したことがあったな」とか「来年はどんな年になるのかな」とそわそわするので、あまり落ち着いて年を越した記憶はないんです。目標を作るタイプなので、来年はこういう一年にする、というようなことを考えながら過ごしています。

――では、2022年はどんな年でしたか?

今年はすごく“学びの年”でした。本当にいろんなことを勉強させていただいた一年で、特に上半期は毎日のようになにかをインプットする時間があったんです。今までで初めてなんじゃないかなというくらい、学ぶことに対して集中することができたので、来年はインプットしたものをアウトプットできる年にできたらなと思っています。

――今回の作品に企画から関わったことで、製作に対する関心が高まるようなことがあったのでは?

そういうことに以前から憧れてはいたんですが、今までは自分に与えられた役に向き合うことで精いっぱいだったので「無理だな」と思っていたんです。でも今回、この作品に携わらせていただいたことで、改めてさまざまな部署の方々のプロの仕事を見て、作品作りの奥深さを学べたので、私も映画を企画して作りたいな、という気持ちはすごく大きくなっています。

――今作の撮影が2019年から2020年にかけてなので、それ以降はコロナ禍で思うようにいかない部分もあったのではないでしょうか?

ありました。私は海外でお仕事をしたい気持ちが強かったんですが、2019年以降は海外の作品もいくつか決まっていたんです。けど、コロナ禍でなしになってしまって。一気に自分のプランが崩れてしまったという出来事は、私の中ですごく大きいです。ただ、そういうことがあったからこそ、今まではやってこられなかったことをやれたということもあるので、意味はあったのかなと思っています。今までは時間がないことを言い訳に「いつかやれたらな」というふうに思っていたことも、「今だ!」と挑戦できました。

■アジアのアクションスター10人に…「常に準備はできています」

――2021年に香港の日刊英字新聞サウスチャイナ・モーニング・ポストで「今、活躍しているアジアのアクションスター10人」に選出されましたが、そこに添えられた「Having just turned 30 earlier in June, Takeda's future looks very bright indeed.」という言葉について、以前ツイートされていました。30歳になった武田さんの未来は明るい、というニュアンスかと思いますが、30歳という年齢は節目となったのでしょうか?

そうですね。10代、20代は本当にがむしゃらに生きてきたので余裕がありませんでした。自分の生真面目さが悪い方向にいっていたことも多くて、面白みのない人間だっただろうなと思うんですが、30歳になってからは肩の力も抜けてきて、自分の意見を自分の言葉でちゃんと言えるようになったので、少し生きやすくなりました。

――海外からアクションを評価されることも多いと思います。今作にはアクションはありませんが、国内、海外でアクションの有無を含めた作品選びを意識しているところもあるのでしょうか?

いえ、国内でもアクションはやりたいんですが、なかなかご縁に恵まれなくて…。毎日のように体は鍛えていますし、今でもアクションチームに行って練習したりもしているので、常に準備はできています。ただ、今までは「なんでアクション作品ができないんだろう」と思ってしまうところもあったんですが、今は「ないんだったら自分で生み出そう」という気持ちになれました。前向きにいろいろと考えています。

2019年に韓国の映画祭で、各国のアクション業界に携わる方たちが集まる国際会議があったんですが、そこに日本代表で呼んでいただいたことがあったんです。その時に「日本はもったいないよ」「日本には空手などの伝統的な武道があるのに、なんで千葉真一さんとか倉田保昭さんとか、志穂美悦子さんのように今の時代もやらないんだ」って言われたんです。「ハリウッドはやっているよ」って。「確かに!」と思いました。

香港だったら、ジャッキー・チェンさんとか、ジェット・リーさん、ドニー・イェンさんといった方々がいますが、日本には今いない。そういった意味で、「武道を極めて自分の体で映画を表現できるのは梨奈だと思っているから頑張れ」と、その場の皆さんに背中を押されたことで、「自分のやるべきことってこういうことなんだな」と思わされました。

私がその場に呼んでもらったきっかけとなったのは「ハイキック・ガール!」という作品だったんですが、私はその当時16歳なんですよ。すごくうれしいんですけど、自分の“時”が止められている気がしたんです。うれしい反面、「このままじゃダメだな」「名前を挙げてもらっているのに、私は何にも残せていない」という気持ちになって。だから、ジャパニーズアクションを世界でもっと見てもらえたらいいなという気持ちがあります。

■リスペクトするからには超えなきゃいけない

――武田さん自らが発信するアクション作品も見られる機会も遠くないかもしれないですね。

そうですね。本当に早く、皆さんにそれを形にして届けられる日が来ればいいなと思っています。

――武田さんは取材でジャッキー・チェンさんの名前をよく挙げられていますが、そうなればいよいよジャッキー・チェンさんに近付いているようにも思えます。

いえいえ、まだまだです。でも「本当にリスペクトするからには超えなきゃいけない」と思っているんです。10代の頃からアクションを教わっている監督に「師匠に追いつけるように頑張りたいです」と言ったことがあるんですが、「追いつくんじゃなくて、追い起こさなきゃ」って言われたんです。だから「追いつけるように頑張ります」という生半可な気持ちではなく、尊敬しているからこそ、追い抜いてみせますと言えるくらいにならなきゃいけないなと思っています。

ジャッキー・チェンさんもブルース・リーさんにすごく憧れていましたが、今では唯一無ニの存在ですよね。ジャッキー・チェンさんはブルース・リーさんではないし、ブルース・リーさんもジャッキー・チェンさんにはなれない。私も、誰かになりたいというより、自分にしかできないものを作って、唯一無二を目指したいです。

◆取材・文=山田健史、ヘアメーク=堀奈津子、スタイリスト=RYUSEI MORI

武田梨奈が主演・企画を務める映画「ジャパニーズスタイル/Japanese Style」について語った/撮影:山田健史