◆連覇を狙うタイ、痛いチャナティップの不在

 タイにとってこの大会は、常に頂点を目指すことを求められる。前回大会まではAFFスズキカップとして知られてきた同大会は、新たなタイトルスポンサーのもとでAFF三菱電機カップと名を変え、今回で通算14回目を迎える。タイは前回まで大会最多となる6度の優勝を誇り、準優勝も3度と過去13大会中9大会で決勝まで駒を進めるなど、最も安定した力で東南アジアをリードしてきた。

 特にJリーグでもその実力を証明したMFチャナティップ・ソングラシンやDFティーラトン・ブンマータンらが主力として台頭した2014年大会以降は充実期を迎え、4大会中3大会で優勝。2018年大会では当時Jリーグプレーしていたチャナティップ、ティーラトン、ティーラシン・デーンダーといった海外組の主力を招集できずにベトナムに王座を譲ったが、ベストメンバーで臨んだ近年の大会ではすべてタイトルを獲得している。

 しかし、連覇を懸けて臨む今大会のタイは決して盤石とは言えない。優勝を逃した前々回大会と同様に、今大会もチャナティップとスパチョーク・サラチャートという2人のJリーガーが不参加。直近でタイが優勝を飾った3大会はすべてチャナティップがMVPに輝いており、特にチャナティップの不在がチームに与える影響は大きい。

 さらに、近年は急成長を遂げたベトナムを筆頭に他の東南アジア諸国も力をつけており、タイの優位性は絶対的なものではなくなっている。実際、タイ、ベトナムマレーシアインドネシア東南アジア4カ国が同居したカタールワールドカップのアジア2次予選でタイはベトナムに2分け、インドネシアに1勝1分け、マレーシアに対しては2戦2敗という結果に終わっている。現在の東南アジアの勢力図において、エースを欠いたタイが王座を死守することは決して簡単ではないだろう。

東南アジアの王座死守は険しい道のり

 昨年9月に西野朗前監督が退任したあと、タイ代表の新監督にはタイリーグでの監督経験が豊富なブラジル人のアレシャンドレ・ポルキンが就任した。コロナ禍の影響で開催が延期され、昨年末から今年1月にかけて行われたAFFスズキカップがポルキン体制での初陣となったが、準備期間の短い中で2大会ぶりに王座を奪還。準決勝では前回王者のベトナムを直接対決で下しており、新体制は好スタートを切ることに成功した。

 しかし、2年連続での開催となる今大会は選手招集の面で前回よりも難しい状況となった。前述したようにチャナティップ、スパチョークJリーグ組の不在に加えて、現在レスター・シティに練習参加中のブリーラム・ユナイテッド所属の選手たちも招集することができず。今季のタイリーグで10ゴールをマークして得点ランクのトップに立つ新エース候補のスパチャイ・ジャイデッド、スパチョークの弟であるFWスパナット・ムアンター、右サイドバックのナルバディン・ウィーラワットノドムといった主力級が参戦できないのは大きな痛手だ。

 一方で、前々回大会ではJリーグプレーしていたたため招集されなかったティーラトンとティーラシンの2選手は今大会のタイ代表に名を連ねている。今月11日に行われたミャンマーとの強化試合ではティーラシンが2得点を上げるなど健在ぶりを見せて、6ー0の快勝に貢献。ベストメンバーを招集できなかった今大会では、ティーラトン、ティーラシン、サーラット・ユーイェンといった経験豊富な選手たちに頼る部分も大きくなりそうだ。

 タイはグループステージでブルネイフィリピンインドネシアカンボジアと対戦する。前回大会の決勝で対戦したインドネシアとともにタイが準決勝進出の有力候補であることは間違いないが、本田圭佑が実質的な監督を務めるカンボジアに加え、フィリピンも侮れない存在だ。準決勝以降ではカタールW杯予選で2敗を喫したマレーシア、前々回大会王者のベトナムら難敵との対戦が予想され、タイの連覇への道のりは険しいものとなりそうだ。

文=本多辰成

[写真]=Getty Images