コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、1959年のアメリカを舞台に夢を追う青年たちの人間模様を描いた漫画『いとしのベティ』をピックアップ。

【漫画】「人生の無情が凝縮されたよう」夢を追う若者の数奇な人生に反響続出

作者である川松冬花さんが11月26日にこの作品をTwitterに投稿したところ、2.2万以上の「いいね」が寄せられ大反響を呼んだ。この記事では、川松冬花さんにインタビューを行い、創作の裏側やこだわりについてを語ってもらった。

■80ページにわたり描かれる人間模様…片田舎で必死に生きる青年たちの“夢追い”物語

1959年、売春とドラッグ売買が横行するアメリカ・ミシガン州の田舎町。幼い頃、この町で父親に捨てられた少年・オリバーは、売春宿に住み込みで働きながら学校に通う日々を送っていた。同じ店で働くエミリーも、父親に無理やり店に連れられ家族のために体を売って生活しながら、オリバーのことを幼い頃から弟のようにかわいがり面倒を見ていた。

小説を読むことが好きで、将来小説家になることを夢見るオリバー。もっと勉強したいと思った矢先、オリバーは先生から“問題児”である同級生・ベティの世話を命じられる。この町一番の美人ながら、母を亡くしたショックでちゃんと話せなくなったと思われていたベティ。しかし、オリバーの書いた小説を読んだことで感化されたベティは、これまでの奇行はすべて男の人に襲われないための演技だったことを明かす。さらに大人になったらニューヨークミュージカル女優になるというベティに、二人はともに同じ舞台に立つことを夢見るようになっていた。

そんな中、ベティから勧められた小説の公募に応募していたオリバーは、出版社からの電話で自身の作品が入選したことを知る。すぐにニューヨークに行くことになり、驚きと嬉しさを隠せないオリバーはベティに思いを伝えると、ベティは涙を流しながら告白を受け入れ、二人でこの街を出ることを決意する。その日の夜、これまで家族のように慕ったエミリーにすべてを明かし別れを告げるオリバーエミリーオリバーを抱きしめて逃亡に協力することを約束し、ついに出発の日を迎える。しかし当日、ベティを待つオリバーの元に現れたのはベティではなくエミリーで…。

アメリカンドリームを追うオリバーとベティ、そしてエミリー、3人の交錯する人間模様が80ページにわたって描かれた本作。時代背景が影響し、数奇な人生を生きるオリバーたちの物語に、Twitter上では「感動しました」「切ない」「本当に胸を打つ漫画」「人生の無情が凝縮されたような話に涙が出た」「刺さる」「泣いた」など多くのコメントが寄せられ注目を集めている。

■“嫉妬”で人はどうなってしまうのか?を裏テーマに 作者・川松冬花さんが創作の裏側を語る

――『いとしのベティ』はどのようにして生まれたのでしょうか?創作したきっかけや理由があればお教えください。

中学生の時に授業で観たスタンドバイミーに感動してこの話の原案を思いつきました。なので、オリバー小説家を志しているのもその影響です。当時思い描いていたのは青春もので友情をテーマにしたものだったのですが、なんだかしっくりこなくてそこから色々模索して最終的にベティに辿り着きました。

――本作では、夢を追いかけるオリバーとベティ、そしてオリバーの姉的存在であるエミリー、3人の交錯する人間模様が80ページにわたって描かれています。それぞれのキャラクターはどのように生み出されたのでしょうか?

オリバーとベティに関してはあまり悩まず、漫画で描いた通りの性格や人生そして見た目だったのですが…苦労したのはエミリーでした。

この物語は夢を追いかける若者二人の愛の物語が表立ってのテーマなのですが、裏のテーマとして、どんなに善良な人間でも嫉妬や自分だけが不幸になる状況で人はどうなってしまうのか?をテーマに描いたので、エミリーの人物造形や物語のポジションがかなり重要で、ここを外すと訳のわからない物語になるので慎重に慎重に考えていきました。

だけど最初彼女がどう言う行動を起こすのか?誰に怒り何を恨むのかが見えて来ず本当に苦労しましたし、本当に彼女は恨んでいるのか?と何度も設定や見た目を試行錯誤し、あのエミリーに辿り着いた時は本当に嬉しかったです。

――1959年のアメリカを舞台にした本作は、登場人物のファッションやヘアスタイルも時代背景にあわせてとても華やかに描かれているのが印象的です。川松冬花さんにとって作画する際のこだわりや、物語を創作する際に意識している点はありますか?

読みやすさを一番に考えています。ですが、実は私は大人になってから漫画を描き始めたので正直作画には自信がありません(笑)。とにかく分かりやすく今誰が喋っていてどこにいて何をしているのかをしっかり描ければ良いなと思ってきましたが、これからは作画にもしっかり取り組んでいきたいです。

昔、海外を一人で散策している時に間違えて娼婦街に迷い込んだことがあったんです。その時にその街が別に汚くもなくそれどころかそこで暮らす女性達が疲れてはいるのですが、綺麗でこざっぱりしているのを目の当たりにしてこの人達は色々な事情があるにせよちゃんとここで働いていて、こちらが勝手に想像する可哀想な人達では全くないんだ、と…。私のほうがTシャツに長ズボンのきったない変なアジア人じゃん!と、思い、あの街そして彼女達を思い今作を描き上げました。だから貧困街でも華やかで見窄らしい感じにならなかったのだと思います。

そして、1960年代のファッションや髪型が大好きなのでそこは描いてて楽しかったです。

――本作の中で、川松冬花さんが特に思い入れのあるシーンやセリフがあれば、理由と共にお教えください。

ベティが夢を語った次のページです。“強烈だと思った”のベティの表情に命をかけました(笑)。この表情で彼女の賢さと勝ち気さそして強烈な自信とポジティブさを表現し、彼女が魅力的なキャラクターだと思って貰えないともう誰も読んでくれないので、あのページの表情だけは何度も何度も描き直しました。正直辛かったです。

―― 川松冬花さんは本作以外にも、読み切り作品『タンデム・ファッション』や『卒業写真と変わらぬ君へ』などで、“夢”を追いかける若者の物語を描かれていらっしゃいます。夢をテーマにされる理由やこだわりがあればお教えください。

私が小さい頃からフラメンコというダンスをしていて、今自分の教室を持ったりするくらいまぁ夢を叶えたと言って良いのか分かりませんが、そういう感じなので、何か目的があってそこを目指す過程の地獄の様な日々を描いたら面白いんじゃないか?と、思って夢追い漫画を描くのかもしれません。

でも、正直たまたまな気もしていて、今描いてるのはだいぶ系統の違う夢のゆの字も出て来ない絶望感漂う話なのでその時々かもしれません。

――最後に作品を楽しみにしている読者やファンの方へ、メッセージをお願いします。

元々は漫画原作者になりたくて漫画を描き始めたので描きたいストーリーやキャラクターがまだまだ沢山あります!頑張って描きますので、また読んで頂ければ嬉しい限りです。

そして、サイコミさんで私が描いた読み切り『タンデム・ファッション』が無料で掲載されています。良かったら読んでいただけると嬉しいです。

夢を追う青年たちの数奇な人生を描く。川松冬花さんの『いとしのベティ』が話題/画像提供/川松冬花さん