個性豊かな“超人”たちが、リング上でさまざまな技を出し合って戦う漫画『キン肉マン』。1979年から始まったキン肉マンは現在も『週プレニュース』で毎週無料配信、『週刊プレイボーイ』でも同時連載中で、40年以上の長きにわたってファンに愛されているロングヒット作品だ。

【写真】バッファローマンの角も再現して掲載!ファンである編集担当ならではのこだわり満載

キン肉マンに登場する超人は700種類以上と、ほかの漫画にも類を見ないほどのキャラクターの豊富さが魅力の1つ。そんな数多の超人たちを1冊の図鑑にまとめた『学研の図鑑 キン肉マン「超人」』が株式会社Gakken(以下、Gakken)より2019年に刊行され、初版10万部が売り切れてしまうほどのベストセラーに。ファンの間やSNSなどで大きな話題となった。そして、2022年9月にはファン待望の2作目『キン肉マン「技」』が発売。本編に登場する1400以上の技を網羅した1冊で、こちらもファンを中心に話題となっている。

しかしキン肉マンといえば集英社、学研の図鑑といえばGakkenが刊行しているが、異なる出版社の作品のコラボレーションはどのようにして実現したのだろうか。今回は、この図鑑の編集担当を務めた株式会社Gakken コンテンツ戦略室の芳賀靖彦さんに、企画が実現した経緯や図鑑制作の際のこだわり、そして最新刊の『キン肉マン「技」』の見どころを聞いた。

ゆでたまご先生のお墨付き!幸運が重なってできた『超人』

編集担当の芳賀さんは、小さい頃からキン肉マンの大ファン。キン肉マンには読者が考えたキャラクターが本編に採用される「超人募集」というコーナーがあるが、芳賀さんは自らが考えた「ジャンクマン」という超人が採用された実績を持つ、自他共に認めるキン肉マンマニアだ。そんな芳賀さんが『キン肉マン「超人」』を制作することになったのは、小さい頃にたくさん登場するキャラクターを自分なりに分類していたのが原点にあった。

「漫画に登場する超人はとても数が多く、子供の頃からバッファローマンマンモスマンを『哺乳類系』、ベンキマンタイルマンを『道具系』といった感じで自分で分類をしていました。そして当時から図鑑が好きだったこともあり、『これらの超人をいつか図鑑にまとめたい』という夢を密かに抱いていました」

芳賀さんは大人になって「いつかは図鑑を作りたい!」という思いを持ってGakkenに入社したが、最初は辞書を作る部署に配属された。しばらくは辞書の編集業務に勤しんでいたが、ある日辞書と図鑑の部署が合併したことで図鑑の制作にも携わることができるようになったという。これが夢をかなえるターニングポイントとなる。

「大チャンスが舞い込んできたと思いました。図鑑編集室の責任者として、図鑑を今以上に世間に広めたいという気持ちがありました。そして『超人』の図鑑を出せば、大人にも子供にもに楽しく読んでもらえる、インパクトのある書籍ができるのではないかと考えて企画しました」

そしてさらなる幸運が。仕事の関係でキン肉マンの作者であるゆでたまご氏と知り合う機会があり、芳賀さんが企画・編集を行った『スター・ウォーズ英和辞典』をストーリー担当の嶋田隆司氏に見せたところ、「キン肉マンもこういうのができたらいいね」とひと言。芳賀さんは「ぜひ!」と、その発言にここぞとばかりに飛びつき、ついに念願の企画が実現することになった。

■こだわりは「分類方法」と「リアリティの追求」

数々のタイミングが重なって企画が実現した『キン肉マン「超人」』。ただのキャラクター図鑑ではなく、学研の図鑑ブランドとして出版される“学習図鑑”として、ページ構成やレイアウトなどが動物図鑑を参考にして制作されている。そして図鑑を作るうえで最も重要になったのが「分類」。キャラクターたちをいかに種類分けするかが、図鑑としておもしろくなるかどうかのカギだったという。

「漫画に出てくる超人すべてを、見た目や身体的特徴などから“生物”として分類を行いました。そのため、項目は『魚類のなかま』や『哺乳類のなかま』といった、まるで動物図鑑のような構成になっています。目次を見ただけでもワクワクできるような作りを意識しました」

一般的な動物図鑑に登場する種数はおよそ700〜800ほど。今回の図鑑ではそのような本格的な図鑑に匹敵するおよそ700体もの超人を分類して掲載している。また、キン肉マン自体は現在も連載中なため、図鑑の制作中にもキャラが増えて当初見積っていたページ数から大幅に増えてしまい、「上司から『予算がかかりすぎている』と怒られてしまいました(笑)」と芳賀さん。

学研の図鑑には「本当の大きさ」という、動物や植物の実寸大の写真が掲載されているコーナーがある。『キン肉マン「超人」』でもセルフパロディとしてウォーズマンのベアクローバッファローマンのロングホーンなど、超人の身体の一部を実物大のイラストで掲載。学研の図鑑らしい世界観作りが徹底的に行われているのも、ファンを唸らせるポイントだ。

「1冊の学習図鑑として科学や歴史に則した作りにしているので、現実とフィクションが織り交ざって『本当に実在するかも』と錯覚できるような内容になっています。そのため超人たちが現実世界で生きているようなリアルさを感じられるのが、この図鑑の大きな特徴です」

さらに、図鑑内のイラストはすべて描き下ろしという力作ぶり。描写力のあるイラストレーターを集めて漫画内のデータをスキャンし、リアルな塗りでキャラクターを再現している。超人の体についている羽や鱗などは実在の生き物の写真を参考に、まるで生きているような質感でイラストに仕上げたのもこだわりの1つだ。

このような制作の準備もすべて芳賀さんが1年半をかけて行ったという。その間は作業机がキン肉マンの漫画で埋めつくされ、ほかの社員からは冗談で「漫画ばかり読んでないで仕事してください(笑)」と言われ続けたそうだ。

■大人気のあまり2作目『技』が登場!

この『キン肉マン「超人」』は出版社の垣根を越えた珍しい企画として、発売前からSNSや口コミで大きな話題となった。特にコアなキン肉マンファンからの待望はとても熱く、驚きと期待にあふれた声がたくさんあがった。

「発売前からファンの喜びの声が集まり、とてもうれしかったです。図鑑にはアンケートハガキが入っていたのですが、普通の図鑑に比べても圧倒的な枚数のハガキが届きました。ハガキいっぱいに感想をびっしり書いてくれる読者も多かったです。『こんな図鑑が実現するとは』『出版してくれてありがとう』という感謝の言葉が多く、とてもびっくりしました」

学習図鑑は一般的に年間を通して安定的に売れる書籍のため、爆発的に売れるということはあまりないそうだ。しかしこの図鑑は初版10万部が発売3カ月でほぼ売り切れ状態に。図鑑とは思えない瞬発力ですぐに在庫切れとなる人気作となった。

そんな本作の人気ぶりを受けて、2022年9月に発売したのが2作目の『キン肉マン「技」』だ。キン肉マンの醍醐味といえば、リング上での超人たちの技の掛け合い。しかし1作目では個体を網羅することで精一杯で超人たちの技に触れることができなかったため、2作目では技を中心に取り上げて図鑑にまとめることになった。

「1作目刊行の完成打ち上げの時に、嶋田先生に『今度は技の図鑑を作りませんか?』と提案すると、『いいですね!やりましょう』と返事をいただいて企画が実現しました。しかし企画が動き出した当初、技といえば動きが中心で紙面にどのように載せたらよいかわからずに苦戦し、制作に2年以上もかかってしまいました」

そんな折、1冊目の図鑑について作画担当の中井義則氏から「キン肉マンの教科書になるね!」とコメントをもらったことをヒントに、「教科書を参考にしてみたらどうだろうか」と思いついたという。体育の実技教科書を参考にし、技をかけて決まるまでの連続写真的なレイアウトに落とし込んだ。その結果、すべての技が躍動感のある動きの図鑑になった。

「超人たちの強さの象徴である技を打撃技、投げ技、打ち付け技、超人技など9項目に分類しています。体育の教科書を参考にしたおかげでとても動きのあるページになりました。2作目は『永遠に読んでいられる』『時間を持っていかれる』という意見を多くいただきました。2022年秋に発売して7万部が売れるなど、出だしも順調です。読み応えも抜群なのでぜひ手に取ってみてください」

■大人も子供もワクワクできる図鑑作りを

芳賀さんの担当した学研の図鑑シリーズにはもう1作、『キン肉マン「超人」』と『キン肉マン「技」』の間に制作された『スーパー戦隊』がある。これは1作目が話題になっていた時期に他作品やシリーズのファンから「キン肉マンのファンはこんな図鑑を作ってもらえてうらやましい」といった声があがったことを受けて、「ほかの作品でも同じように図鑑を作ったらおもしろいのでは?」と企画をしたのが始まりだ。

「古くからの知人がスーパー戦隊の制作業務をしていたこともあり、スーパー戦隊で図鑑を作れないかという相談をしたところ、快く東映株式会社さんと繋げてもらえました。この図鑑は、放送順ではなく組織でまとめています。スーパー戦隊には世界組織や民間組織、侍・忍者などの伝統的な組織が出てくるため、このカテゴリで分類を行いました」

スーパー戦隊』もSNSで話題となり、ファンの間で人気を博している。現段階では『学研の図鑑シリーズ』で制作が決定している続編企画はないそうだが、芳賀さんは「これからも昔ながらの学研の図鑑のテイストが合う、懐かしい作品の図鑑を作っていきたい」と話す。昭和や平成に活躍した懐かしのヒーローたちが図鑑になる日も近いかもしれない。

「図鑑とは、収集した情報を分類して掲載している書籍です。自分の好きなものを分類して追求していくというアプローチは、まさに科学そのもの。現実のものであれフィクションであれ、好奇心と探究心を持って追求をしていくのが子供にも大人にも大事だと考えています。これからもドキドキをワクワクを提供できる図鑑を作り続けたいです」

学研の図鑑といえば、6つの丸があしらわれた表紙デザインを思い出す人も多いのではないだろうか。『キン肉マン「超人」』や『キン肉マン「技」』、『スーパー戦隊』が昔の学研の図鑑をリバイバルしたデザインになってるのは、大人が懐かしい気持ちに浸り、童心に戻って好奇心や探究心を持ってほしいとう気持ちが込められている。

これからも大人も子供も楽しめる図鑑を作ってくれるだろう。次回作が今から楽しみだ。

取材・文=福井求(にげば企画)

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