韓国映画の総決算となる映画の祭典・第58回大鐘賞映画祭が、12月9日に開催された。『パラサイト 半地下の家族』(19)が席巻した2020年以降は開催が延期され、今年は1年ぶりのレッドカーペットと授賞式となった。開催地である建国大学は、かつて俳優を目指していたBTSジンの出身校でもあり、現在は世界の巨匠ホン・サンス監督が教鞭を振るう、韓国エンターテインメントの聖地とも言える場所だ。

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■オン・ソンウ、パク・ジェチャンからパク・ヘイルまで…今年の韓国映画の顔たちが勢揃いするレッドカーペット

まず登場したのは、今年の韓国映画界に彗星の如く現れた新鋭たちだ。ロングコートのようなストライプのジャケットを着こなすオン・ソンウ(元Wanna One)は、ミュージカル映画『人生は美しい(原題)』で一躍スターダムを駆け上った。本作については、「僕に始まりをくれ、最初の一歩を踏み出させてくれた映画」と喜びを口にしていた。

オン・ソンウに勝るとも劣らない存在感を放っていたのが、韓国BLドラマの新たな金字塔「セマンティックエラー」で大旋風を巻き起こしたDKZのパク・ジェチャン。若々しいからこそ着こなせるシンプルなスーツ姿の彼もまた、初主演作について「僕に自信を与えてくれて、ターニングポイントになった作品」と感慨深げに語った。

リュ・ジュンヨルと共演した最新作『フクロウ(原題)』も観客動員200万人を突破し、波に乗る『不思議の国の数学者(原題)』のチョ・ユンソは、透明感を演出する素材が印象的なオフショルダーのドレスで会場の視線を集めていた。

ブルドーザーに乗った少女(原題)』のキム・ヘユンは、母校である建国大学への“凱旋”に興奮気味だった。劇中ではタトゥーだらけの腕と下品な言葉遣いで権力に抗う強烈なキャラクターだったが、今日という晴れの日に選んだのはエレガントなブラックワンピースで、作品とはまた違う美しさを振りまいていた。また『犯罪都市 THE ROUNDUP』(22)で、シリーズ第一作に続きコミカルな演技がファンを楽しませた愛すべき小悪党イスことパク・チファンも、タキシードでドレスアップ。こうしたギャップで俳優たちの新たな魅力を発見するのも、映画祭のレッドカーペットの醍醐味だ。

ピョン・ヨハンは、黒の3ピースアイテムにジャケットだけ白を取り入れる大胆な発想で、重くなりがちな冬の装いに上品に映えていた。そんな彼とお揃いのように白いジャケットを合わせてきたのが、パク・ヘイルだった。『閑山:竜の出現(原題)』では敵同士だった二人の“双子コーデ”に、思わず頬が緩んでしまう。

『パーフェクト・ドライバー/成功確率100%の女』(2023年1月23日公開)も待ち遠しいパク・ソダムは、マーメイドを思わせる涼やかな水色のドレスにゴージャスなネックレスを合わせて登場。そんな彼女とバラエティ番組「三食ごはん – 山村編」で家族のような絆を結んでいたヨム・ジョンアもレッドカーペットに参加。『人生は美しい(原題)』で念願だったというミュージカル映画への主演を果たし、さらに高評価も得るなど、2022年は大成功の年だった。星空のようにスパンコールをちりばめたウォームトーンのドレスは、彼女の変わらぬ麗しさを一層際立たせていた。

■『別れる決心』が有終の美!監督賞は『キングメーカー 大統領を作った男』ビョン・ソンヒョン監督が受賞

レッドカーペットに引き続き行われた大鐘賞授賞式では、昨年10月から今年9月までに公開された映画253本の中から、19の分野に渡って選ばれた作品が競い合った。

青龍映画賞では6部門を制覇した『別れる決心』(2023年2月17日公開)は、主演男優賞(パク・ヘイル)、脚本賞(パク・チャヌク、チョン・ソギョン)、最優秀作品賞と3部門で栄光に輝き、有終の美を飾った。パク・ヘイルは「個人的に俳優として映画に接する時、好奇心が私にとって最大のエネルギーでした。 これからもその好奇心で、失敗しても役者を続けていきます」と今後のキャリアも期待させる抱負を口にした。

彼は今年、鬼気迫る武将から愛の苦悩に陥る刑事まで、凄みと繊細さを縦横無尽に行き来してスクリーンを沸かせた、まさに功労者と言ってもよいのではないだろうか。さらに主演男優賞のプレゼンターにイ・ビョンホンが登壇したことで、『天命の城』(17)で共演した二人のが睦まじさにも感激させられた。

監督賞を獲得したのは、『キングメーカー 大統領を作った男』(21)のビョン・ソンヒョン監督。ナイキのスニーカーでステージに上がる彼らしさを見せた一方、感想では「私の心の主演男優賞は、イ・ソンギュンさんです」と力を込めて語った。確かに大統領選挙参謀を演じたイ・ソンギュンは、共演者のソル・ギョングも舌を巻くほどの演技力でストーリーを牽引したにもかかわらず、百想芸術大賞や青龍映画賞、そして大鐘賞でも正当に評価されておらず、『キングメーカー』での役柄同様、大統領候補という光り輝く存在の“影”になってしまっている。短いコメントの中に俳優への敬意を言い表すビョン・ソンヒョン監督に、気骨を感じた瞬間だった。

功労賞には、血液がんの闘病中であるアン・ソンギが選ばれた。ビデオ映像で登場した彼は、受賞の感想と共に映画人とファンへの愛を穏やかな口調で語った。作品規模の大小にかかわらず精力的に活躍し続けてきたアン・ソンギは、韓国映画界の伝説的存在だ。世界的にも評価されたインディペンデント作品『よりそう花ゝ』(2023年1月13日公開)の日本公開も決まった今、一日も早い回復が待たれる。

■波乱含みの大鐘賞は変われるのか?独自の視点には今後も期待

韓国映画賞の中で最も歴史が長い大鐘賞映画祭だが、かつては疑惑の作品選考が乱発し、波乱の映画賞として批判された。今年も、開催の契約を巡り映画祭委託会社と対立するなど、早くから暗雲が立ちこめたことも事実だ。“国民が見る 世界が見ている”’というスローガンを掲げて開催され、選考の厳格さと透明性、公平性を強調した今回、新たに国民参加型の投票による審査方法を設けた。コピーが出来ないNFT投票権を保有した人は誰でも6つの賞に投票することが出来、専門家による審査団と1:1の割合で判定に使用された。多数の投票権を買うことでレッドカーペットへの招待などの特典が与えられるという点などについては、一部から「特典欲しさに投票権を買うのはいかがなものか」「金を積めばどんな作品でも賞を与えてもらえる」と揶揄された。

一方で、大作に隠れがちな作品をすくい取ろうという視点には、一定の評価を与えてもいいように思う。「大鐘が注目する視線」賞を受賞作したシン・スウォン監督『オマージュ』は、昨年の東京国際映画祭で上映された際、中年の女性映画監督の映画愛を巡る繊細な描写がシネフィルからも評価されていた。ノミネート作の『妊娠した木とトッケビ』もまた、元米軍慰安婦だった一人の女性の生涯を実験的手法で綴るユニークなドキュメンタリーで、釜山国際映画祭に始まり、日本を含む世界の独立映画祭で紹介されていた佳品だ。さらに、傑作ドラマシリーズを配信会社によって改ざんされる理不尽さと闘った「アンナディレクターズ・カット版のイ・ジュヨン監督をシリーズ映画監督賞として称えてくれたことも、ファンにとっては嬉しかった。

今年のホームページには、「大鐘賞を国民の懐に返す」という文言がある。1962年から続く伝統の映画賞が真の意味で生まれ変わり、国民にとって意義深い映画祭として復権してほしい。

■第58回大鐘賞映画賞 受賞結果

大鐘賞が注目する視線賞:シン・スウォン監督『オマージュ

ドキュメンタリー賞:イ・イラ監督『モア(原題)』

編集賞:キム・ソンミン編集監督『犯罪都市 THE ROUNDUP』

衣装賞:クォン・ユジン、イム・スンヒ衣装監督『閑山:竜の出現(原題)』

照明賞イ・ソンファン照明監督『ハント』

視覚効果賞:チェ・カルスン視覚効果監督『宇宙+人(原題)』第一部

撮影賞:チュ・ソンリム撮影監督『犯罪都市 THE ROUNDUP』

ピープルズアワード男優賞:パク・チファン『犯罪都市 THE ROUNDUP』

ピープルズアワード女優賞『おそらくロマンス(原題)』

ニューウェイブ賞男優部門:オン・ソンウン『人生は美しい(原題)』、パク・ジェチャン『セマンティックエラー』

ニューウェイブ賞女優部門:パク・セワン『6/45(原題)』、『不思議な国の数学者(原題)』チョ・ユンソ

美術賞:リュ・ソンヒ、イ・ハジュン美術監督『宇宙+人(原題)』第一部

音楽賞:キム・ジュンソク音楽監督『人生は美しい(原題)』

脚本賞:パク・チャヌク、チョン・ソギョン『別れる決心』

新人監督賞:パク・イヨン監督『ブルドーザーに乗った少女』

新人男優賞:ム・ジンソン『ジャンルだけロマンス』

新人女優賞:キム・ヘユン『ブルドーザーに乗った少女』

助演男優賞:ピョン・ヨハン『閑山:竜の出現(原題)』

助演女優賞:イム・ユナ『共助2:インターナショナル(原題)』

主演男優賞:パク・ヘイル『別れる決心』

主演女優賞:ヨム・ジョンア『人生は美しい(原題)』

監督賞:ピョン・ソンヒョン監督『キングメーカー 大統領を作った男』

作品賞:パク・チャヌク監督『別れる決心』

文/荒井 南

大鐘賞レッドカーペットを華やかに彩るスターたち/[c]大鐘賞