Kis-My-Ft2藤ヶ谷太輔主演の映画『そして僕は途方に暮れる』が2023年1月13日に公開を迎える。


【他画像】藤ヶ谷太輔、劇中メイキング写真


主人公は、些細なことをきっかけにあらゆる人間関係を断ち切り、逃げて逃げて逃げまくる一人のフリーター、菅原裕一。2018年にシアターコクーンで上演された舞台版でも同役を演じた藤ヶ谷が、ばつが悪くなるとすぐに逃げ出してしまう“クズ男”を体現し、俳優としての新たな魅力を放つ。

10月に開催された東京国際映画祭での上映前に行ったインタビューで、藤ヶ谷が最も多く口にしたのが、本作を手掛けた三浦大輔監督の名前。三浦監督の繊細かつ粘り強い演出に「小さな針の穴に糸を通すよう」に応えていったという彼に、作品の見どころを聞いていくと、アイドルと俳優を両立することの奥深さが見えてきた。

三浦大輔監督作品への出演、映像化は「財産」


──本作の舞台版に出演されてから、今作の撮影までに3年が経過したということですが、舞台と映画ではどういう違いを感じましたか。


裕一が外に逃げていくシーンが舞台と違って本当に外に出るので、ものすごい距離を実際に逃げたなという記憶があります(笑)。舞台でもとことん稽古をしましたが、その経験があるからといって、三浦監督から簡単にOKをもらえるようことはないんです。舞台を経験していなかったらどうなっていたんだろうと思うくらいでした(苦笑)。


──三浦監督の作品はどのような難しさがあるのでしょうか。


舞台の時もそうでしたが、三浦監督独自のOKラインがあるんです。例えば、「今のセリフをもう二間、遅くしてください」と言われることがあるんですが、自分なりに二間、遅くしてみると、「今のテイクだと一間半でよかった」と言われたりするんです。本当に小さな穴に針を通していくような作業でした。印象に残っているのは、初日の本読み。「軽くやります」と言われていたんですが、8時間くらいやったんですよ。「軽く」で8時間って、この先どうなるんだろうと思ったことをよく覚えています。


出来上がった作品も、俯瞰では見ることができなかったですね。楽しい思い出が一個もないので(笑)、「このシーンは50回以上やったな」とか、そういうことを思い出している内に見終わってしまいました(笑)。


ただ、三浦組でやったものが映像として残せたというのは財産だし、本当にうれしいです。自分がMCをしている『A-Studio+』などで、松坂桃李さんとか岡田将生さんとか、三浦組を経験してきた方とお会いすると、多くを語らなくても「あの三浦組をよくぞ」というように、何か通ずるものがあるんですよ(笑)。後輩の髙木雄也が三浦監督の舞台をやると聞いた時も、どこか気にしていましたね。髙木も「三浦監督ってどういう人ですか」って聞いてきました。ジャニーズで三浦監督とタッグを組んだのはたぶん僕が初めてだったので、僕の時には「三浦監督ってどういう人ですか」と聞ける相手がいなかったんですよ。髙木には「死ぬと思うよ」と言っておきました(笑)。


“姉さん”香里奈との姉弟役「香里奈さんだからこそぶつかっていけた」


──前田敦子さんや中尾明慶さんは舞台版からの続投ですが、香里奈さんや原田美枝子さん、豊川悦司さんは映画版から新たに参加となりました。


裕一のお姉さん役の香里奈さんとは、僕がデビュー前に『美咲ナンバーワン!!』というドラマでご一緒して、その後も『PRICELESS〜あるわけねぇだろ、んなもん!〜』という木村拓哉さん主演のドラマでご一緒しました。テレビ局でもよく会う方なので、自分の中では“姉さん”的存在なんです。今回は本当にお姉さんになったみたいで面白いなと思ったし、香里奈さんだからこそぶつかっていけたなとも感じました。裕一の両親を演じてくださった原田美枝子さんと豊川悦司さんにも、お芝居の面ですごく助けていただきました。


──皆さんとは現場でどのようなお話をされましたか。


裕一はすぐに逃げるので、彼女や親友、お母さんとのシーンなど様々な場面があるんです。皆さんは主に裕一とのシーンを演じるわけですが、僕は逃げた先に次の人がいるので、豊川さんも、原田さんも、「藤ヶ谷くんはこれを全員分やってるんでしょ?すごいね」と言うんですよ。中尾くんも「俺は一人分でもう無理、限界だ」と言っていました(笑)。

芝居では“ジャニーズフィルター”を外す


──裕一のような“クズ男”を演じることについては、どう表現しようと思われていましたか。


“クズっぽさ”を表現するのは難しかったです。三浦監督の演出も、感覚がなかなか掴めずにいたんですが、ある日「裕一は三浦監督自身なんだ」と思ったんですよ。三浦監督に話を聞いてみると、「僕も締め切り前になると携帯の電源を切るんだ」と言っていました(笑)。それから三浦監督を観察するようになって、だんだんと自分も役にハマるようになってきました。


──普段のアイドルとしてのオーラを消していくような作業になるのでしょうか。


僕はジャニーズのアイドルって、素晴らしいものだと思っているんです。だけど、26歳の時、ストレートプレイの舞台をパルコでやらせていただいたんですが、演出の田村孝裕さんに、振り返る動作で「“ジャニーズっぽい”のじゃなくて」と言われて衝撃を受けたことがありました。ただ振り向いただけなのにキマってしまうというか、“ジャニーズフィルター”のようなものがかかっちゃうんです。それ以降、芝居の上では“ジャニーズっぽく”しないことが自分の中で課題になっていたんですが、三浦監督に出会ってからは完全に“ジャニーズっぽさ”を外してもらえたような感覚がありました。けど、三浦監督の現場が終わって、自分たちのライブになると、今度は「ジャニーズっぽく」いなくちゃいけないんですよね。


今まで必死に格好良くなるよう、キマるようにかき集めてきたものを、「芝居の時には外していかなきゃいけないんだ」と気付いて、三浦監督の現場で完全に外し切って。でも、次の日のライブではまたそれを身に着ける。この仕事ってすごい大変だな、と思いました。三浦監督と出会って、「ジャニーズっぽさ」は外れたけど、その分、アイドル業がしづらくなったという感じですかね(笑)。でもそれはそれとして、色々な方と出会って変わっていく自分も面白いなと思います。


裕一は“クズ男”?「『自分もそうかも』と思った瞬間に笑えなくなる」


──改めて、本作の見どころはどんなところにあると思いますか。


“クズ男”に見えますが、裕一は真面目ではあると思うんです。ふと、「嫌だな」「面倒くさいな」「怖いな」というように拒否反応を起こしたら逃げてしまいますが、それって実は格好良いやつなんじゃないかなとも思えるんです。僕も撮影中に逃げたいくらいでしたが、そうなると色々なことを考えるじゃないですか。多くの人に迷惑をかけると思うし、自分の場合だったら、芸能界で仕事ができなくなってしまうかもしれない。彼はそういうことを考えるよりも、瞬発的に、その時の素直な気持ちで行動するんです。


映画の前半は滑稽に見えるだろうし、「こいつクズだな」というように笑いながら見ると思うんです。舞台の時も相当笑われましたけど、後半になると、「あれ?自分ももしかして、こういうところがあるかも」というように、皆さんに突き刺さっている感じがあったんですよ。鼻で笑っていたはずが、「自分もそうかも」と思った瞬間に笑えなくなる。だから、逃げた先にどうなるのかを見たくなるし、応援したくなるんだと思います。僕自身も、自分が演じている役を見て「頑張れ」と思ったのは、初めてかもしれないです。自分というよりも、裕一として見ることができました。


取材・文:山田健史


■『そして僕は途方に暮れる』
2023年1月13日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2022映画『そして僕は途方に暮れる』製作委員会


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