「オールドボーイ」「シュリ」など、日本でもヒットした数々の映画で主演を務めているチェ・ミンシク。彼の約25年ぶりのドラマ復帰作「カジノ」が12月21日より配信開始となった。“演技は死んでこそ終わる勉強”“演技からお金の匂いがしてはいけない”と語る名優チェ・ミンシクと本作について解説する。

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■“カジノ王”の波乱万丈な人生物語

「カジノ」は、お金もコネも無いながらもフィリピンでカジノ王になったチャ・ムシク(チェ・ミンシク)が、殺人事件に巻き込まれて全てを失い、一転、人生の崖っぷちに追い込まれた後、命がけの最後の賭けを始めることになるストーリー。ディズニープラス スターにて初週1話~3話、以降毎週水曜日に1話ずつ追加され、全8話で構成。シーズン2も2023年に配信予定だ。(以下、ネタバレを含みます)

一挙配信となった第1話から第3話までで、ムシクの生い立ちが丁寧に描かれている。

刑務所に出入りを繰り返すDVでクスリ漬けの父親と、そんな男と離れられず食堂を細々と営む母親を持つ幼いムシクは、捕まえたオタマジャクシを売って、お金を稼ぐ喜びを知り、道行く人々に5部売るのも大変だと言われる70ウォンの新聞を100ウォンで売った上に100部完売させるという金稼ぎに卓越した才能を発揮していた。

小学4年生まで読み書きを習ったことがなく、学校の勉強についていけなかったが、文字を習ってからは上位の大学を狙える成績を修めるまでになっていた。が、劣悪な家庭環境のせいで、学年のボスとして君臨し、大学進学は無理だと諦めていた。そんな彼に可能性を見出していた高校の担任が手を差し伸べ、ムシクは一心不乱に勉強し一流大学への進学を目指す。

しかし、新たに担任となった教師が一流大学への志望を許さず、本意ではない地方の三流大学へ進むことになってしまう。当然、ムシクにとって授業は物足りず、次第に大学にも行かなくなる…。このことが、ムシクの後の人生を大きく曲げることになった。

後輩との再会からムシクは賭博場をいくつも経営するようになり、大金を手に入れるが、国税庁の査察が入り、彼は友人を頼ってフィリピンへ逃亡。一度はフィリピンのカジノで持っていた大金をほとんど失うが、持ち前の才覚を発揮し、紆余曲折を経てカジノ王への道を進む。

■最新のAI技術を使用

この第3話までで、視聴者は、ムシクの生い立ちや、義理を重んじ何事も諦めない性格を理解し、彼に対してどこか好感を持つはずだ。また、波乱万丈な人生に、この先どんな運命が彼を待ち受けるのか期待を高める。

ムシクの過去パートで、学生時代から20代の若い頃をイ・ギュヒョン(「弁論をはじめます。」「刑務所ルールブック」など)が演じているが、最新のAI技術を使ってチェ・ミンシクとイ・ギュヒョンの顔を連結させ、不自然に見えないようにしてるんだそう。出来上がった映像を見たチェ・ミンシクは「まあ満足してます(笑)」と言い、「イ・ギュヒョンさんが、幼い頃から20代、そして私が演じた30~40代…と、延長線上のキャラクターをうまくキャッチして演じてくれました」と苦労をねぎらっていた。

■「誰もが持っている欲望を激しく追いかけ」

ムシクについてチェ・ミンシクは「とても平凡な人だ。だが、誰もが持っている欲望を激しく追いかけ、知らないうちにカジノという世界に足を踏み入れる。そこで多くの人に会って右往左往する。ムシクを演じながら、“誰に会って、どこに行って、何に接するかによって自分自身も知らないうちに人生がドラマチックに流れていくんだな”と感じました」と説明した。

チェ・ミンシクが「カジノ」に出演するきっかけは、今作のカン・ユンソン監督と別の映画を撮る予定がなくなり、その間に監督から見せられた脚本に興味を持ったから。彼にとってドラマ出演は1997年の「愛と別れ」以来、約25年ぶりとなる。「ドラマ出演が25年ぶりだということに、今回撮影しながら気づきました。でも、映画でもドラマでも、私が演技する、ということは変わらないです」と、今回の出演が特別な事ではないと語った。また、「映画は密度は高いが2時間という大きな制約があるので、残念な気持ちがいつもありました。余裕を持って、話したい話や表現を全部できるシリーズ物が恋しかった」と話した。

彼は、今回の撮影で三重苦を経験したそう。「1つ目はコロナ感染。3月に感染して、治まるや否やロケ先のフィリピンに出発したんですが、後遺症で苦しかったです。そして、寒い韓国からフィリピンへ行き、夏の天気と暑さで苦労しました。そこに加えて、膨大なストーリー、切迫感、そのようなものが調和して、熱い経験をしました」と打ち明けた。

■「演技からお金の匂いがしてはいけない」

チェ・ミンシクは韓国映画界を代表する最高レベルの俳優だ。数々の映画賞を受賞し、主演を務めた日本水軍と韓国水軍の戦いを描いた2014年の「バトル・オーシャン 海上決戦」は、約1761万人を動員して韓国映画歴代動員数1位を記録し、いまだに破られていない。すごい記録を打ち立てたにもかかわらず、本人は「本当に申し訳ない話だが、実は全て忘れた」と、興行成績を気にしないと語っている。

「一生懸命作ればいいんです。しきりにそろばんを弾かずに、演技に対して振り返り、何が足りなかったのかを考えてアップグレードしなければならないし、観客数に執着してはいけません。ハン・ソッキュが言ってたんですが“演技からお金の匂いがしてはいけない”。私もそう思います」と、作品に集中する姿勢を見せた。

「毎回、撮影をしながら学んでいます。演技は死んでこそ終わる勉強なので、全部したようでも分からないことがもっと見えて、まだ知らなかったことを知っていく。途方もない作業なので、面白くない時も大変な時も多い。それでも人生や人間について知っていく勉強だと思います。時には何だろう?と思う事も多いけど、そういう時はもっと理解しようと努力します」とも語っている。

「観客と信頼が形成されるには、たった1つ、上手な演技で作品にうまく溶け込むこと」と語るチェ・ミンシク。圧倒的な存在感と演技で魅了しながら、チャ・ムシクの人生に私たちを釘付けにしている。

◆文=鳥居美保/構成=ザテレビジョンドラマ部

ムシクを演じるチェ・ミンシク(左)と彼の右腕となるジョンパル役のイ・ドンフィ(右)/(C)2022 Disney and its related entities