今なお戦闘機として第一級の性能を持つF-22「ラプター」戦闘機ですが、その内の1機が退役したとか。F-15F-16よりも高性能な戦闘機がなぜ飛ばなくなったのでしょうか?

初飛行からすでに四半世紀が経過

2022年12月09日、フロリダ州ティンダル空軍基地において、1機のF-22「ラプター」戦闘機C-5ギャラクシー輸送機によって、ユタ州のヒル空軍基地まで輸送されました。

公開された画像を見ると、運ばれたF-22は全体が黒いカバーで覆われており、輸送機に収容するために主翼や機体先端のレドームが外されています。空軍の発表したプレスリリースによれば、この機体は退役したF-22だそうで、ヒル空軍基地内にある博物館で展示機となるそうです。

F-22といえば、ステルス性を持つ第5世代戦闘機に分類され、アメリカ空軍で運用されている「世界最強の戦闘機」というイメージがあります。そんな機体の中からもう退役機が出るというのは意外かもしれません。

今回退役したF-22はシリアルナンバー91-4002の機体で、1998年に初飛行したEMD(技術生産開発)機と呼ばれる試作機でした。EMD機は全部で9機が製造されましたが、91-4002号機は2番目に作られた初期の機体であり、機体の内部の構成は生産機とは異なるため実際の任務に使うことはできませんでした。その為、試験終了後の2006年からは飛行することはなくなり、地上で訓練教材として使われていました。

つまり、実際に任務で飛んでいるF-22とは性質の異なる機体であり、91-4002号機の退役がF-22全体の退役開始に繋がるワケではありません。

しかし、今回の退役機の出現とは別に、アメリカ空軍はF-22「ラプター」の一部を早期退役させるよう要求を出たことがありました。現在、アメリカ空軍はF-22を186機保有していますが、その内の33機がブロック20と呼ばれる初期モデルです。2022年現在、実任務にも投入可能なF-22ブロック30/35という新しいモデルであり、古いブロック20は訓練任務でしか使うことができません。

これら機体をブロック30/35にアップグレードするには長い期間と膨大な予算が掛かるため、アメリカ空軍では予算節約などの観点から、たとえ総数を減らしてでも実任務に投入可能なF-22に運用を絞るべく、古いブロック20は2023年度で退役させることを希望したのです。

F-22初期モデルを退役させたい米空軍の思惑

F-22の初飛行は1997年で、最初の機体が配備されたのは2005年です。すでに運用開始から20年近くも経っており、F-22は決して最新戦闘機とは呼べる存在ではありません。

ただ、高度なステルス性に、双発大出力エンジンと推力偏向ノズルによる高い機動性を兼ね備えていることから、F-22「ラプター」は戦闘機単体として捉えた場合、性能的にはいまだ世界トップレベルにあるといえるでしょう。

しかし、現代の航空戦は、人工衛星早期警戒管制機AWACS)、空母、イージス艦、さらにはサイバー部隊など、ほかのプラットフォームと連携することを前提とした、いわゆるネットワークが主体の戦いになっています。

F-22自身もネットワークとデータリンクの能力こそ持っているものの、その部分では後から開発されたF-35ライトニングII」の方が優秀な部分が多く、また運用面でも生産機数の多いF-35の方が有利といえます。

今月(12月)15日、アメリカ上院は2023年度の国防予算の大枠を決める国防権限法(NDAA)案を可決。この中でF-22の初期型であるブロック20の退役は認められず、アメリカ空軍は来年度もF-22を全数運用することになりました。今回のティンダル空軍基地から送り出されたF-22も、通常の運用スケジュールとは直接関係ない特別なものでした。

しかし、後継機の開発や装備の更新を進めるアメリカ空軍は、予算削減のために現役機や装備の見直しを常に行っており、再びブロック20が早期退役の対象になる可能性もあります。今回の91-4002号機のような姿は、近い将来に繰り返される可能性もあります。

アメリカ空軍のF-22「ラプター」戦闘機(画像:アメリカ空軍)。