結果を出せるリーダーは「仮説」をもっています。また、「シンプルな仮説」はチームをひとつにする力があります。26年間務めた花王で培った経験をもとに、現在は課題解決コンサルタントとして活躍する阿比留眞二氏が編み出したビジネス・メソッドを、著書『最高のリーダーは、この「仮説」でチームを動かす 』(三笠書房)で解説します。
ビジネスにおける問題と課題の違い
「仮説」は自分の課題を解決するためのものであり、問題を解決するためのものではありません。
どういうことかといえば、課題と問題には明確な違いがあるということです。
たとえば、あなたがあるサービス系の企業に勤めていたとして、会社が「顧客満足度を上げます」とうたっているのに、実際には毎日クレームの処理に追われているような場合。これは、あなたにとっての問題でもありますが会社全体の問題でもあります。
それに対して、課題とは、その問題を解決するために「あなた」がやるべきこと、できることです。「クレームが多い」という問題を解決するために、あなたが営業系のチームリーダーであれば、「商品説明をもっと丁寧に行なう」などが課題になります。リーダーは問題を自分事に落とし込んで課題にし、それを解決する「仮説」を立てて実行していかなければなりません。
問題を課題に変化させられないリーダーは「自分が何をすればいいのか」、そして、「部下に何をやってもらえばいいのか」を認識できていないということなので、チームをうまく動かしていくことができません。
会社の問題を自分の課題に落とし込むことで、本当に解決しなければならないことが明確になり、実行に移しやすい仮説を立てられます。
今、自分の目の前にあるのは、問題なのか、課題なのかを明確にしてください。
もし、それが問題ならば、まず課題へと落とし込む一工程が必要です。
“より信憑性の高い”仮説を見つけるための3ステップ
課題を明らかにしたところで、いよいよ仮説の立て方を見ていきましょう。3つの簡単なステップを踏めば、効果的な仮説を立てられます。
ステップ1 課題をあげて、障壁となっている事象を整理する
ステップ2 「真のテーマ」を設定する
ステップ3 「Why」を4回繰り返す
ステップ1 課題をあげて、障壁となっている事象を整理する
まずは、課題をあげます。あなたが営業部のリーダーなら、「顧客一人あたりの商品購入額を2割アップさせる」などです。
課題を明確にするのは「それ以外のことには手をつけない」ということでもあります。余計なことは考えず、とにかく課題を解決するために必要なことだけを実行していくのです。
次に、課題を解決するために、障壁となっている事象をあげます。
「顧客一人あたりの商品購入額を2割アップさせる」ために、障壁となっている事象をあげてみると、次のようになります。
- 新規開拓ばかりで、顧客のリピート率が低い
- 顧客のニーズに合った提案ができていない
- 書類作成の際のミスが多い
ポイントは「客観的に」あげることです。主観的な思い込みはなるべく排除して考えます。
結果を出せないリーダーは、
- A君は仕事ができず、他のメンバーの足を引っ張っている
というように、主観的な思い込みをあげてしまいます。あくまで事実にもとづいた事象をあげなければなりません。
ステップ2 「真のテーマ」を設定する
次に、「真のテーマ」の設定を行ないます。
ステップ1であげた、課題解決の障壁となる事象のうち、最大だと思われるものを探します。
どれを選ぶべきか。最も現実的かつ直接的だと考えられるものです。
今回の場合、「書類作成の際のミスが多い」ではなく、「新規開拓ばかりで、顧客のリピート率が低い」か「顧客のニーズに合った提案ができていない」を選ぶべきです。どちらかが「真のテーマ」です。
ステップ3 「Why」を4回繰り返す
真のテーマに対して、「Why」を最低4回、繰り返します。
なぜ、なぜ、なぜ…と繰り返していくことで、どんどん仮説を具体的にすることができます。
たとえば、「顧客のニーズに合った提案ができていない」が「真のテーマ」であったとして、それに対して、「Why」を4回繰り返すと、次のようになります。
【Why1回目】「顧客への説明が不十分だから」
【Why2回目】「新商品の情報を把握できていないから」
【Why3回目】「新商品の情報が発売ぎりぎりまで回ってこないから」
【Why4回目】「営業部門と開発部門の間で情報交換がほとんどないから」
全く予想もしなかったところに、原因が隠れていることがわかりました。
つまり、「顧客一人あたりの商品購入額を2割アップさせるためには、営業部門と開発部門の間で情報交換がほとんどないからではないか─」という仮説が立ったということです。
仮説に対応する解決策をみつける、6つの発想法
仮説を立てたら、それをどう解決するか、改善するかを考えていきましょう。
そのための、6つの発想法をご紹介します。これらを使えば、効果的な方法を考え出すことができるでしょう。
1 代用する
2 組み合わせる
3 適応させる
4 修正する
5 その他の使い方をする
6 並び替える
それぞれ解説しましょう。
1 代用する
代用することで解決策を導き出す方法です。単純に「代わりに何かを使って」解決できないかを考えます。
この何かというのは、ものでも、お金でも、システムでも、人でもいい。何かしらを代わりに使ってみるということです。
たとえば、
「営業部門と開発部門の間で情報交換がほとんどない」
→「新商品の情報は書類ではなく、会議の場で直接共有する」
というように考えてみるのです。
この方法は、すでにあるもので代用できるので、簡単に実践できるというメリットがあります。
何か代わりに使えるものはないか、という視点を持って考えてみてください。
2 組み合わせる
これは、何かと何かを組み合わせ、新たなものを生み出すという手法です。たとえば、ドラッグストア業界第3位のコスモス薬品は、医薬品以外に食料品を販売し、売上を伸ばしてきたことで有名です。
薬の市場と食品の市場を組み合わせて売上を得ているのです。また、食品を販売することで、薬が必要ない人にも足を運んでもらい、集客につなげています。
この方法を使えば、
「営業部門と開発部門の間で情報交換がほとんどない」
→「営業のついでに、顧客のニーズを聞き出し、新商品開発に生かす」
などがパッと思いつくはずです。これは、従来の「商品営業」に「ニーズ調査」を組み合わせているので、より仕事の価値を高める効果が期待できます。
まずはたくさん書き出してみて、そのなかから組み合わせてうまくいくものはあるか、という手順で考えてみると、思いがけないアイデアが浮かんできます。
3 適応させる
「アイデアが何も思いつかない…」というときに、使い勝手がいいのが、適応させるという方法です。
たとえば、成功事例をそのまま自分の状況に当てはめるのです。
この方法を利用すると、
「営業部門と開発部門の間で情報交換がほとんどない」
→「他部署でうまくいっている情報交換の方法を取り入れる」
のようになります。
この方法では、すでにある成功事例を当てはめていくので、失敗の可能性を下げることができます。
また、誰かに説明するときにも、実例をあげながら伝えられるので、イメージを共有しやすいというメリットもあります。
4 修正する
単純ですが、現状を修正してみるというのも効果的です。
「営業部門と開発部門の間で情報交換がほとんどない」
→「開発部門から情報を得たときはメンバー全員で共有する」
このような修正をしていくだけでも改善に向かう可能性はあります。
なぜなら、現状をよりよくするということは、部署のメンバー誰もが考えていることでもあるからです。メンバーと一緒に考えるのもいいでしょう。リーダーの視点では思いつかないようなアイデアが出てくるかもしれません。
5 その他の使い方をする
皆さんが使っているふせんですが、これは面白い発想から生まれました。
実験に失敗して生まれた、力の弱い接着剤を「はがせるメモ紙」として商品化したことがはじまりなのだそうです。
このように、他の使い方をしてみるというのも、解決策を考えるときの参考になります。ものだけではなく、人材配置においても有用な考え方です。
「営業部門と開発部門の間で情報交換がほとんどない」
→「営業部門と開発部門の間で人材交流の制度をつくる」
こうすることで打開策が見つかることがあります。
行き詰まりを感じたら、一度発想をガラッと変えてみる。それによっていい方法が見えてくることがあるのです。
6 並び替える
結果がうまく出ないときに、物事の順番を変えると、すんなりうまくいくということがあります。
たとえば、クラウドファンディングは商品が完成する前にお金を払ってもらうという、通常の売り買いとは逆のモデルになっています。
この方法を使えば、
「営業部門と開発部門の間で情報交換がほとんどない」
→「営業部門から開発部門へ情報を聞きに行く」
というように、順番を入れ替えることで、新たな効果を生むプロセスができあがることがあります。
突飛な発想はなかなか生まれませんし、効果的でないことが多いものです。もっと簡単に考えて、プロセスを並び替えるというのを試してみてください。
ご紹介した6つの発想法をうまく使いながら、「仮説→実行」の流れをつくって、よりよいチームをつくっていってください。
阿比留 眞二
株式会社ビズソルネッツ 代表取締役
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