河野太郎デジタル大臣・内閣府特命担当大臣(デジタル改革、消費者及び食品安全)のインタビュー記事「デジタルから日本を変える」(聞き手・青山和弘)の一部を転載します(「文藝春秋2023年1月号より)。

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 ――まず旧統一教会問題への対応について伺います。河野さんは消費者担当相として、岸田文雄政権が解散命令請求と被害者救済法案の策定に向かう流れを主導したと思います。そのカギとなったのが、河野さんが消費者庁内に設置した「霊感商法等の悪質商法への対策検討会」です。検討会は8月12日の大臣就任後初の記者会見で立ち上げを宣言するという電光石火の対応でしたが、どういう考えだったのでしょうか。

 河野 消費者担当相になるのは2015年以来2回目なので、やるべきことはある程度わかっていました。最初の時は、オーナー商法で問題になった「ジャパンライフ」の件で、消費者庁明らかに後手に回った。もっと早く動いていれば被害は小さくて済んだのではという思いがあったので、旧統一教会への対応は「ちょっとのんびりしすぎている。すぐやるぞ」と言いました。直ちに第三者の検討会を作って「消費者庁としてちゃんと対応していたのかの検証と、これからどうすべきかの提案をしてください」と。また消費者庁は消費者安全法第三十九条で、他の役所にもモノを言えるわけですから、メンバーには「検討会は消費者庁に立ち上げるが、他の役所に不十分なところがあれば、それはそれで言ってください」と言いました。

 ――検討会のメンバーに長年教団と闘ってきた紀藤正樹弁護士と、元野党議員の菅野志桜里弁護士を入れました。この人選には、消費者庁内にも慎重意見があったそうですが、2人を選んだ理由は?

 河野 菅野さんは、国会議員としての仕事ぶりを見て、能力のある方だと思っていました。紀藤さんはこの問題に一番詳しい方です。詳しい人が入って議論してもらわないと、意味がないと考えました。

 ――この人選ですと、旧統一教会に厳しい結論が出るのは想像がつきますね。当初から、解散命令請求の提言も視野に入っていたのですか?

 河野 僕がああしろ、こうしろと言うつもりはありませんでしたし、実際に言いませんでした。専門家の皆さんに、「過去の消費者庁の対応がどうだったのかと、これからどうすればいいのかを言ってください」とだけお願いしました。

岸田総理「いいんじゃない」と

 ――検討会について、岸田総理に報告や相談はしたんですか?

 河野 「こういうメンバーで行こうと思います」というところから、岸田総理とは話をしています。実は僕と岸田さんは1997年、2人で遺伝子組み換え食品の表示問題を担当した頃から、消費者問題に深く携わってきたんです。紀藤さんも岸田さんをよくご存じです。だから一応、「こういうメンツで行こうと思います」と報告して、「おお、いいんじゃない」という感じでした。

 ――10月に入ると検討会は、政府が解散命令請求を視野に宗教法人法に基づく質問権を行使するよう提言します。岸田総理はそれまで旧統一教会への解散命令請求には慎重な姿勢を見せていましたが、検討会の報告書が出た衆議院予算委員会の初日に、一転して質問権の行使を表明しました。岸田総理とはどんな話をしたのですか?

 河野 (報告書が出る)前に検討会の議論の方向性を伝えました。「文化庁がこれまで、質問権を行使してこなかったのは甘いんじゃないかという意見が大半でした」と。たぶん、それから岸田さんが文化庁を呼んで話を聞いたりして、「じゃあ予算委員会で言うか」と決めたんだと思います。

 ――岸田総理は、河野さんに慎重な反応は見せなかったのですか?

 河野 まったく。

 ――一方、専門家や政府与党の一部からは、「民法の不法行為」によって解散命令を出すのは、無理筋ではないかという意見も出ています。どう受け止めますか?

 河野 最後は裁判所、司法の分野でお決めいただくことでしょう。政府としてはできることはやります。

 ――また報告書では被害者救済のための法整備も求めています。法案を巡って野党側からは、「マインドコントロール下の寄付の規制」や「寄付の上限設定」など、ハードルの高い内容が提案されていて、憲法で保障されている財産権の侵害や、寄付で成り立っている宗教界全体を揺るがすとの懸念も出ています。こうした状況をどう見ていますか?

 河野 消費者庁は、検討会の報告書で「これはやろう」と言ったものを粛々とやります。そこから先は与野党協議で、必要なら議員立法などでやることになるでしょうから、そこでしっかり議論してもらえばいいと思います。

 ――自民党内には旧統一教会と関係の深い議員が多くいますし、一部の議員が選挙前に政策協定を結んでいた問題も浮上しています。今の党の対応を十分だと思いますか?

 河野 党のことは党で考えてやっていることですので、あまり私がとやかく言う話ではないと思います。

一体化に2年の期限のワケ

 ――自分の職務以外の事は口を挟まないということですね。ではデジタル化の話に移りたいと思います。岸田総理は河野さんの突破力に期待して、デジタル相に任命したと伺っています。一方で、「担当を特化した大臣にした方がいい」という考えがあったと聞いています。河野さんはどのように受け止めていますか?

 河野 「やれ」と言われたことをしっかりとやるのが仕事だと。

 ――そんな中で、マイナンバーカードと健康保険証との一体化について、2024年秋までにという期限を切りました。思い切った期限を設定したと思うのですが、どういう狙いなのですか?

 河野 例えば僕はこの5年間で、閣僚としての担当省庁が変わるたびに保険証が切り替わりました。転職するのが当たり前の時代で、保険証の切り替えが頻繁になっています。だからマイナンバーカードとの一体化で、切り替えが一切要らなくなるのはメリットだと思います。また薬の情報を共有できるし、将来的には匿名化した情報をビッグデータで分析して、どういう医療が最適かという標準治療も変わっていくでしょう。データに基づいた医療が進むことで、医療の質は格段に上がります。そういう意味で、個人にも日本人全体にも大きなメリットがあると思います。

 ――メリットは分かるのですが、なぜ2年の期限を設けたのですか?

 河野 ダラダラやるよりは、ピシッと目標を掲げてご説明したほうが、世の中が自分ごととして受け取ってくれると思います。要するに、「2年のうちに保険証をマイナンバーカードに切り替える」と言うと、「寝たきりの高齢者はどうしたらいいんだ?」とか、「赤ちゃんは2年で大きくなっちゃうのに、写真を撮らなきゃいけないの?」とか、いろんなことが気になってくる。今、そうした懸念を「どんどん寄せてください」と申し上げたら、もう5000件ぐらいご意見が来ています。すると行政側もやるべき課題がはっきりするので、非常に良いと思います。

河野太郎デジタル大臣インタビューデジタルから日本を変える」全文は、月刊「文藝春秋2023年1月号と、「文藝春秋 電子版」に掲載されている。

(河野 太郎/文藝春秋 2023年1月号)

河野太郎氏 ©JMPA