(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)

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 北朝鮮ロシアに兵器を秘密供与していることを米国政府が正式に発表した。

 北朝鮮の兵器類はロシア民間軍事会社ワグネルグループ」に売却され、ウクライナでの戦闘で使われているという。

 同グループはロシアの悪名高い傭兵集団で、ウクライナでの戦闘ではロシアの正規軍よりも苛酷な戦いを展開してきたという。同グループの創設者はロシアのオリガルヒ(新興財閥)の一員で、プーチン大統領にもきわめて近い人物だとされる。

 ロシアウクライナ侵略では、すでにイランが攻撃用の無人機を供与したことが確実となったが、この北朝鮮の兵器支援でロシアイラン北朝鮮という「悪の枢軸」が浮かび上がる形となった。

ロシアの受刑者を戦闘要員に

 12月22日、米国政府の国家安全保障担当、ジョン・カービー報道官は「北朝鮮はこの11月、ロシアの傭兵企業のワグネルグループに多数の地対地攻撃用のロケットとミサイルを送り、同グループから代金を受け取った」と発表した。

 米国政府は11月に「北朝鮮ロシアに砲弾を供与しているようだ」と明らかにしていた。北朝鮮政府はロシアへの兵器売却を否定しているが、今回の発表はその確認という形となった。ロシアウクライナ侵略の軍事行動への兵器供与は、国連や米欧諸国の制裁措置に違反する。

 カービー報道官はこの発表で、「北朝鮮からワグネルグループへ売られた兵器によってウクライナの戦場の動向が大きく左右されることはないが、北朝鮮がさらなる兵器売却を計画していることを米国政府として懸念している」とも述べた。

 カービー報道官は、北朝鮮から兵器を購入したワグネルグループの動向について、「ロシアの民間傭兵軍事企業として現在、ウクライナ領内で約5万人の戦闘要員を動かし、ロシア軍を支援して、ウクライナを攻撃している。その要員のうち約1万人が外国を含めて民間からの傭兵であり、残りの約4万人はロシアの各地刑務所にいた受刑者だ」と述べた。

 同報道官の説明によると、現在、ワグネルグループはウクライナ東部ドンバス地域のバフムート市でロシア軍と一体となってウクライナ側に攻撃をかけ、人口7万人ほどの同市の制圧を目指している。ワグネルグループはバフムートでの戦闘で、この数週間の間に少なくとも1000人の戦死者を出したが、米側の情報では、その9割はロシアの受刑者だったという。

 バフムートでの激戦については、12月21日に米国連邦議会の上下両院合同会議で演説したウクライナゼレンスキー大統領も、前日まで現地を視察していたことを明らかにし、「きわめて残酷な戦いが続いている」と述べていた。

ウクライナ全域で残虐行為や人権侵害

 米国のバイデン政権はこうした動きに歩調を合わせる形で12月21日ワグネルグループに対する禁輸措置の強化策を発表した。

 同政権のアラン・エステベス商務次官(産業安全保障担当)は「ワグネルは世界で最も悪名高い傭兵組織の1つで、ウクライナ全域で残虐行為や人権侵害を行っている」と言明した。そしてワグネルグループへの技術や製品の供与禁止を改めて強化する一連の措置を明らかにした。

 ワグネルグループはプーチン政権の軍事行動を民間から支援する形で2010年代初めに創設され、2014年のクリミア軍事併合作戦で活動し重要な役割を果たした。

 同グループの創設者はプーチン氏にも近いオリガルヒのエフゲニー・プリゴジン氏で、現在も最高責任者とされる。ただしプリコジン氏は今年(2022年)9月まではワグネルグループとの関連を否定していた。

 ワグネルグループは、当初は合計5000人ほどの社員を擁しそのうちの約2000人が戦闘要員とされていた。戦闘要員には、ロシア軍や警察の出身者、チェチェンの元ゲリラセルビアの元大統領親衛隊の隊員らが多数含まれていた。その後、この戦闘要員は5万人にまで膨張したことになる。

ロシア軍がワグネルの指令に従うことも

 カービー報道官はワグネルグループの最近の動きについて、さらに以下の諸点を明らかにした。

・創設者のプリゴジン氏は、最近ではワグネルグループのウクライナでの戦闘のために毎月1億ドル相当の資金を使っている。同氏はロシア正規軍の将官らへの批判を表明し、プーチン大統領からの信頼を増している。

・バフムートなどウクライナ領内の最前線では、ワグネルグループの戦闘要員がロシア正規軍より重要な役割を果たすことも多く、ロシア軍ワグネルの指令に従うという現象も起きている。

 ウクライナ側にとっては、こうしたきわめて危険なロシアの傭兵集団に、北朝鮮が各種の禁輸措置を破って兵器を売るという行動をとっているわけだ。国際安全保障への北朝鮮の脅威を改めて立証する危険な展開と言えるだろう。

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