緊急事態宣言が解除されて以降、富裕層をターゲットにした「国外財産に関する税務調査」が急増しています。税理士法人ベリーベスト・佐下谷彩代税理士が「富裕層を狙い撃つ税務調査の実態」についてみていきましょう。

近年急増する「富裕層への税務調査」の実態

11月24日に、2022年6月までの1年間(2021事務年度)の所得税などの調査結果が国税庁から発表されました。今回、筆者自身の調査立ち合いの経験を踏まえ、調査傾向などをまとめていきたいと思います。

1年間の調査概況は?

では、今回の国税庁からの発表はどのようなものだったのでしょうか。

実地調査全体の件数は回復傾向にあるが、コロナウイルスの影響により、依然として低水準である、としながらも、「富裕層」に対する調査実施の結果、1件当たりの申告漏れ所得金額は3,767万円で、富裕層対象の統計を始めた09年度以降で最高額となり、また、申告漏れ所得金額の総額は839億円にのぼると発表しました。

国税当局としても、資産運用の多様化・国際化が進んでいることを念頭に、積極的に調査を実施していると明言しています。つまり全体調査件数のうち、いわゆる「富裕層」にターゲットを絞り、調査割合を増やしていることが明らかなのです。

※「富裕層」:ここでは有価証券・不動産等の大口所有者、経常的な所得が特に高額な個人、海外投資等を積極的に行っている個人などを指します。

現場を知る税理士が感じる「富裕層」への狙い撃ち

実際に現場で調査対応する税理士として感じていることは、2021年後半から2022年にかけて、いわゆる富裕層といわれる方の所得税消費税を含む)の通知を、多数受けるようになりました。

もちろん法人に対する調査も緊急事態宣言前後で比較すると、増えたと感じていますが、個人所得税の「富裕層」に対する調査通知とは比べ物にならない、と実感しています。

また、通知を受けたがどうしたらいいか、これまでお付き合いがなかったお客さまからご相談いただくケースも、かなり増えたなという印象があります。

調査対象となる「富裕層」に共通する事項とは

では、その方々に共通している事項とはなんだったのでしょうか。 もちろん、いわゆる「富裕層」と呼ばれるだけに、一定額の所得水準を超えていることは共通していますが、それ以外は職業も違えば住む地域も違い、投資方法もさまざまでした。

しかし、すべての人に共通していたのは、「国外財産を所有していること」、ただそれだけでした。そして、調査に際して指摘された事項については共通しており、投資に際する国外送金の履歴、またCRS(※)情報から得られた国外口座の残高・履歴などがあることでした。

CRS:各国が非居住者の金融口座の情報を、他国の税務当局との間で自動的に交換する仕組みで、経済協力開発機構(OECD)が策定してスタートしたものです。口座保有者の個人情報や口座残高などが対象になっています。

今回、国税庁の発表のなかでも、特に海外投資等を行っている「富裕層」に対しては、調査件数は昨年と大きく変化がないにも関わらず、1件当たりの追徴税額は2,953万円で、所得税の調査全体の追徴税額323万円に比べ9.1倍と高額となっている、との発表がありました。

コロナ禍、実地調査ができない間、CRS情報の精査にかなり時間をかけたことは確かであり、それをもとに調査対象を絞り、人員、工数をかけているのだろうと実感しました。

まずは「国際税務の専門家」に相談を

贈与税相続税を一体化とする議論など、「富裕層」をターゲットした税制改正も多く聞かれる今日このごろ、「富裕層」包囲網が張りめぐらされてきていると実感しています。

これら国外財産に関する税務調査に関しては、特殊な対応が必要とされるケースが多々あります。国際税務、国際資産税に精通した専門家へのご相談をおすすめいたします。

佐下谷 彩代

税理士法人ベリーベスト 税理士

一般社団法人海外財産を守る会 コンサルタント

(※写真はイメージです/PIXTA)