経営陣と株主の間で行われる委任状の争奪戦である「プロキシファイト」。その流れや事例をみていきましょう。

プロキシーファイトとは

プロキシファイトにより相当数の委任状を集められれば、株式の保有割合が低くても会社に対して大きな影響を与えられます。まずはプロキシファイトや委任状についての基礎知識を押さえましょう。

一般的に「委任状の争奪戦」と呼ばれる

会社の株式を保有する株主には、株主総会の議決権といった『支配権』が認められています。通常は、発行されている株式に対して保有している株式の割合が高いほど、株主の持つ会社への支配権が強まる仕組みです。

少ない持株比率でも、この支配権を確保するために行うのがプロキシファイトです。株主の持つ議決権の行使を任せるという内容の委任状を集めることで、支配権を強められます。委任状の取得数によって支配権の強さが決まるため、『委任状争奪戦』ともいわれる方法です。

委任状は議案に対する判断を委ねるもの

プロキシファイトで争奪戦が起こる委任状は、株主総会の議案に対する判断を株主が代理人に任せるために作成します。株主提案を実施する株主が、他の株主の委任状を全体の半数以上または2/3以上取得すれば、提案の可決が可能です。

株主総会の議案に対する賛否を記載し、提出する書面を『議決権行使書』と呼びます。株主総会に参加するときには入場券の役割を果たし、参加しない場合は郵送により意思表示できる手段です。

委任状の争奪戦の始まり

委任状の争奪戦は、株主の経営陣に対する不満から始まります。ただし手間のかかるプロキシファイトを実施する前に、株主と会社の間で交渉の場が設けられるのが一般的です。プロキシファイトがどのように始まるのか確認します。

「モノ言う株主」が経営陣に不満を抱く

経営陣が株主の利益を軽んじている会社は、株主の不満が高まりやすい状況にあります。特に積極的な動きが目立つ『モノ言う株主(アクティビスト)』は、そのような状況について黙っていません。

経営戦略への注文・増配・自社株買いなどを求め始めます。株主として意見するのはもちろん、委任状の取得により株主総会の議決権を掌握し、株主提案を実現させようとするでしょう。株主の不満と活発な動きにより、プロキシファイトが行われます。

具体的な要求について交渉をする

ただし、モノ言う株主も最初からプロキシファイトを実施しようとはしません。他の株主から委任状を取得するには、株主と個別に連絡を取り、自らの意見を説明し賛同してもらわなければいけないからです。

また他の株主も反対意見で委任状を集めていれば、株主を二分する争奪戦になる可能性もあります。手間と時間がかかるため、まずは会社の経営陣と交渉するケースが多いでしょう。

交渉は経営陣へ要求を伝え、妥協点を探す場です。うまく話がまとまればプロキシファイトを行う必要はありませんが、交渉が決裂すればプロキシファイトへと発展するかもしれません。特に株主提案が可決する見込みが相当程度ある場合、プロキシファイトが行われやすいでしょう。

交渉が決裂した場合

株主と会社との間で行われる交渉が決裂し、プロキシファイトが始まると、株主は委任状を集め始めます。株主の動きを静観していては、株主提案が可決しかねないため、会社側も委任状を集め対抗しなければいけません。

株主から委任状を集める争奪戦へ

他の株主から委任状を受け取るには、まず連絡を取り話を聞いてもらわなければいけません。そのために株主名簿の『閲覧権』を行使して、他の株主の名前と住所を調べ、この情報をもとにアプローチします。

実行するためには、ノウハウを持つメンバーで構成するチームが必要です。株主が委任状を集めるには、他の株主へ自らの提案の合理性を知らせ賛同してもらわなければいけません。そのために資料の作成・説明会の開催・プレスリリースなど、種々の手段を講じます。またさまざまな法律問題とも関わるため、弁護士のサポートも必要です。

会社側も委任状を集める

株主側だけが委任状を集めていると、株主提案が可決される可能性が高まります。そこで会社側も委任状を集めなければいけません。ただし会社が集めるのは、一般的には議決権行使書です。

株主へ議決権行使書を送付し、会社提案の議案への賛同を求めます。このとき株主の賛同を得られやすいよう、株主の利益を意識した経営方針へと転換する会社もあるでしょう。ただし株主の利益を重視し過ぎると、将来的な発展のために必要な投資を十分にできなくなる可能性があります。これではいつか他社との競争に負けてしまうでしょう。会社の成長に必要な施策と株主への還元とのバランスを意識しなければいけません。

プロキシーファイトのポイント

プロキシファイトは、単に多くの委任状を集めればよいわけではありません。法律で定められている内容にのっとって実施します。また裁判所への検査役選任の申し立ても必要です。

委任状勧誘、書面投票などの規制に従う

議決権の代理行使をするよう他の株主を勧誘することを『委任状勧誘』といいます。上場会社で委任状勧誘を行いプロキシファイトを実施する場合、金融商品取引法に定められている規制に従わなければいけません。

たとえば『委任状用紙の様式』『参考書類』『写しの提出先』『虚偽記載の禁止』などが定められています。このような規制があるのは、決議に株主の意思を反映させるためです。会社経営に無関心な株主の委任状を集め、不当に会社を支配させないようにする目的もあります。ただし非上場会社の委任状勧誘は規制の対象外です。

検査役選任を申し立てる

株主総会前に裁判所へ『検査役』選任の申し立てを行うのも、ポイントといえます。申し立てできるのは1%以上の議決権を持っている株主です。

検査役が選任されると、株主総会の招集や決議の方法を調査し報告書を提出します。この報告書は、正しいプロセスで開催された株主総会だという証拠となります。仮に『決議取消訴訟』の提起で決議の有効性が争点となったとしても、確かな証拠の提出が可能です。

プロキシーファイトの事例

プロキシファイトは株主の委任状を集め、自らの提案を可決させようとする動きと分かりました。過去に実際に起こった二つの事例を紹介します。

東京スタイルと村上ファンドの委任状争奪戦

国内初のプロキシファイトとして知られているのは、東京スタイルと村上ファンドの事例です。東京スタイルは保有していた大量の現金で不動産を購入する方針でしたが、これに対し村上ファンドが反対します。株主への大幅な増配と自社株買いを求めました。会社側は増配と自社株買いを実施しましたが、その規模は村上ファンドが求めるものには遠く及ばず、プロキシファイトへと発展します。結果は東京スタイルの勝利でした。

大塚家具の父娘間の騒動

大塚家具の騒動でも、プロキシファイトが行われています。大塚家具ではかねてからの経営状況の悪化により、父と娘の陣営に分かれ経営権が争われました。旧体制の刷新による経営状況の改善を期待し、娘が率いる現経営陣を支持する投資家が多く、娘側が経営権を取得しました。

しかしその後も経営状態は思わしくなく、「このままでは社員が離れてしまう」と父がプロキシファイトに向け他の株主を説得する方針を明らかにしたという経緯です。結果は娘側が勝利し、経営再建を目指しています。

委任状を巡り争う流れを理解しよう

会社への影響力を高めるには、他の株主からの委任状を集めるプロキシファイトが有効です。そのため経営陣の方針に異議を唱える株主がプロキシファイトを実施し、議決権を集約するケースがあります。

ただし手間も時間もかかるため、最初から実施するのはまれです。まずは会社と株主で交渉を行い、落とし所を探ります。交渉が決裂した場合にプロキシファイトへと発展する流れです。

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