12月21日より配信開始となったドラマ「カジノ」(ディズニープラス スター)は、映画「オールドボーイ」「シュリ」などで有名な名優・チェ・ミンシクの約25年ぶりのドラマ復帰作として話題だ。だがそれ以上に韓国ドラマ好きの女性たちのテンションを上げているのが、ソン・ソックの出演。2022年「私の解放日誌」で一気に女性の心を鷲掴んだ現在39歳の彼は、30歳を過ぎてからのデビューで、それまでの経歴も超ユニーク。今注目しておくべき彼の魅力に迫ってみたい。(以下、ネタバレを含みます)

【写真】カッコいい…!“気だるげ”な表情もイケメンなソン・ソック

フィリピンの警察に赴任するオ・スンフン役

「カジノ」は、お金もコネも無いながらもフィリピンでカジノ王になったチャ・ムシク(チェ・ミンシク)が、殺人事件に巻き込まれて全てを失い、一転、人生の崖っぷちに追い込まれた後、命がけの最後の賭けを始めることになるストーリー。初週に第1話第3話が配信され、以降毎週水曜日に1話ずつ追加、全8話で構成される。シーズン2も2023年に配信予定だ。

ソン・ソックが演じる“オ・スンフン”は、韓国で本庁外事課でデスクジョブをしていたが、犯罪率が上がるフィリピンに初代韓国人デスクとして派遣される警官。

最優秀警察官賞を2度も受賞したエリートだが、特に捜査能力が優れているわけでも身体能力が高いわけでもない。とても平凡な会社員のような心持ちで警官生活を送っていたしていた人物だ。そんな彼がたった1人で慣れない異国に投げ込まれ、孤軍奮闘しながら成長していく。

■スーパーコップではない平凡な警官

スンフンは、当初はスーパーコップのような警官として描かれていたんだそう。しかし、監督と相談しながら、視聴者が共感できるように現実的なキャラクターに変えたんだとか。ソックは「そんな設定なら上手く自然に演じられそうだと思いました。なぜなら、僕も今、それなりに覚醒して成長しているところだから」と説明した。

撮影で一番大変だったのは、「スンフンのセリフの70%が英語だった事」。留学経験もあり、外国生活が長かった彼でも苦労したようだ。また、フィリピンが暑すぎて、1時間もすれば汗ですべて洗い流されてしまう為、最初からすっぴんで撮影したとも語っていた。

フィリピンに居る間に韓国で人気爆発

「カジノ」は2022年の3月から6月にかけてフィリピンで撮影されたが、その頃、韓国では、彼が映画史上屈指とも言われる悪役を演じた「犯罪都市 THE ROUNDUP」と、寡黙で影のある使用人・ク氏を演じたドラマ「私の解放日誌」がほぼ同時期に公開されていた。

「犯罪都市ー」は1000万人超の動員を記録し、「解放日誌」は回を追うごとに視聴率を上げ、それに比例するようにソックの評価も人気もうなぎ昇りとなり、韓国女性たちの心を奪った。

シンドローム級の人気を得ていることを聞かされてもフィリピンからでは実感できないので、むしろ浮かれずに撮影に集中できて良かった、と語っていた。

■兵役中、イラクの部隊に志願

ソン・ソックの俳優になるまでの経歴は超ユニークだ。まず、中学の途中でアメリカに留学、その後、世界7大美術大学と呼ばれるシカゴ芸術大学に入学して、ドキュメンタリーを専攻した。だが、在学中に軍隊に行くことになり、卒業はしてない。

兵役中にイラクのザイトゥーン部隊に志願し、6カ月間滞在。彼は人生で一番幸せだった時期を「軍隊」と言う。「あまりにも悩みが多かった時期に軍隊に行きました。誰も知らないところから新しく始める―ゼロからやり直してがんばれば、それだけ認めてくれて、そんなシンプルな生活が良かったんです」と回顧していた。

除隊後、26歳の時、バスケットボール選手になろうと、弟が留学しているカナダへ。「今考えてみると、韓国社会に適応できなくて、逃げる名分でした」と明かし、練習が昼過ぎに終わってヒマなので演技塾に通うようになり、公演をしてみたら、演技が向いてると思ったんだそう。そしてビザを取り直して、バンクーバーの学校の演技科に再入学することにしたのだった。

その後、訪問販売のような仕事もしたが、1つも売れなかったんだとか。しかし、その経験が現在の仕事にも役立ったと語っている。そして、一時期は世界10か国以上に製品を輸出している年商5億円以上の製造会社を経営に参加していたこともある。(現在は俳優に専念する為、経営からは退き、株主となっている)。

ドラマ以上にドラマチックな人生を歩みながらも、俳優としてはなかなか成功しなかった。オーディションにも落ちまくり、「この人生は終わったな…」と、1日中天井だけ見て過ごした日々が続いた。もう諦めて、他の道を探そうとしていた時に、Netflixオリジナルのアメリカドラマ「センス8」のオーディションに合格。そこから彼の俳優の道が開き始めた。

コメディアンになりたかった

ソン・ソックは、韓国で初めて出たドラマ「マザー~無償の愛~」で演じたDV男を始めとして、悪役や暗い役が多めだが、素顔の彼は楽しいことが大好きで「一時期、夢がコメディアンで、今でもなりたい」そう。「年を取るにつれて口数が多くなるようです。時間がもったいないじゃないですか(笑)。面白い話ももっとして、もっとたくさん笑って楽しい時間を過ごしたいです」と、役柄からは想像つかない一面を見せている。そして、悪役よりロマンス物の方が自分には合っている、とも言っていた。

「色々と作品に出演しているうちに、今は以前よりずっとラクに、息をするように演技できるようになりました。でも、あまりラクになりすぎると良くないかもしれないので、注意しようとしています」と、「俳優が天職」だと言うソン・ソック。「自分の中にあったけど一度も表に出してこなかった感情を、演技で出しながら自分自身を知っていく」のだと語った。

■今後の目標は「多作俳優」

今後の目標として「流行は早いので、ピークの時期が以前ほど長くないと思うんです。今は自分が努力するほど結果が出る時期だと思うので、欲を出して多くの作品に出たい」と抱負を語っていた。

その言葉通り、「カジノ」以降も映画やドラマが続々と決まっており、2023年の夏頃には演劇にも挑戦する。俳優だけでなく監督もやり、演出の予定もあるが、俳優業が忙しく、なかなか実現できないんだとか。また、今回フィリピンでロケをして、セットでは感じられない臨場感に刺激を受けたようで、「あちこち歩き回る旅行者や、楽器を扱ったり歌を歌ったりする役も面白そう。演ったことのない演技をしてみたい」とやりたい事は尽きないようだ。

◆文=鳥居美保/構成=ザテレビジョンドラマ部

ソン・ソックが演じるオ・スンフン(「カジノ」より)/(C)2022 Disney and its related entities