日本の国民皆保険の影響を受けて成立した韓国の公的医療保険制度。しかし、日本の健康保険のように保障は手厚くありません。保険料の負担が少ない分、保障が手薄いなど現状の医療体制ではさまざまな課題があるそうです。本記事では、韓国の医療制度の実情について詳しくみていきましょう。

韓国の医療事情

オンライン診療に対して、真剣に検討する方針を示した韓国政府ですが、現状の医療体制ではさまざまな問題があります。改めて韓国の医療事情についてみてみましょう。

日本の「国民皆保険」の影響を受けた韓国の医療保険制度

韓国の医療保険制度は、日本の国民皆保険制度の影響を受けて成立しました。しかし、そのシステムは日本と異なっている部分もあります。韓国では1963年に公的保険制度を目指して「医療保険法」が作られましたが、当時の国民はいまより貧しく、保険料を払うことが厳しい状況でした。そのため、任意加入制度として開始されました。

1977年には強制保険制度が開始され、やはり日本を参考とした公的保険制度が導入されます。 当初は日本と同様に組合方式でしたが、2000年には統合されて、国民健康保険公団というひとつの団体で管理することになりました。

制度開始から12年で国民皆保険となりましたがこれは、日本はおろか、世界のほかの国よりも短い期間で実現しました。保険料を安く抑え、給付水準も低くする方法が取り入れたところが韓国の公的医療制度の特徴といえます。

日本の公的医療保険との大きな違い

韓国と日本では、保険料の負担額も違います。日本では健康保険組合によって異なりますが、会社員の場合は報酬月額の4~6%くらいが保険料として徴収されます。

一方、2013年の韓国の保険料は報酬月額の2.9%と、日本よりかなり低くなっています。2020年には所得の6.67%となり、毎年少しずつ引き上げられていますが、水準としては決して高くはありません。

このように保険料が安い韓国ですが、その分、公的医療保険の保障内容も日本より手薄といえます。また勤労者以外の人の場合、財産に応じて保険料が決まるため所得自体が少なくても家や車を持っていれば保険料が高くなってしまいます。これには国民もかなりの不満があるようです。

韓国の制度は、制度成立のスピードを優先したために、「低負担・低福祉」になったといわれています。そのせいで、保険料の負担が低いかわりに保障範囲が狭かったり、自己負担額が多かったりと不便を強いられている面が少なくありません。

自己負担が大きい国民健康保険

韓国の国民健康保険は、保険料は所得によって計算され、かかる医療機関によって自己負担額が30%~60%と幅があります。日本にある「高額医療制度」のようなものは韓国にはありません。そのため、MRIや精密検査など一部においては保険対象外になる可能性もあります。一方で、がん患者の自己負担率の設定は低いなど、重病患者に対するケアには定評があります。

OECDの調査によると、日本では全医療費に占める患者負担割合は16.3%ですが、韓国では33.8%と加盟国のなかでも特に高くなっています(日本や韓国と同じ社会保険方式を採用している国の医療費に占める家計負担は、韓国33.8%、日本16.3%、ドイツ12.4%、フランス7.6%、オランダ5.5%と続きます)。

自己負担率が6割になる病院も

韓国の自己負担比率が高くなっている理由は、先述のように病院により高い自己負担を求められることがあるからです。 韓国では、入院の場合どの病院でも自己負担2割ですが、外来(通院)は病院によって自己負担3~6割と差があります。

上級総合病院の診察料は全額自己負担でそれ以外の費用が60%負担、総合病院は45~50%負担、一般的な病院では30~40%の負担額となります。薬局では30~50%の負担が一般的です。

つまり、レベルの高い医療を行う上級総合病院や、規模の大きい病院にかかると、それだけ自己負担が増えるというわけです。日本では病院の規模や受診時間帯によって多少診療費が変わることがありますが、治療内容が同じならどこで治療しても同一の自己負担率(1~3割)となっています。ここが日本と韓国で大きく異なるところです。

MRICTスキャンは保険適用にならない

では、「大きな病院に行かず、小さな近所の医院を受診すれば、そんなに医療費はかからないのではないか?」となりますが、小さな病院では、公的医療保険の対象範囲が日本に比べて狭いために自己負担額が大きくなってしまうことが多いのです。

たとえば、日本ではMRICTスキャンでの検査は公的保険の対象ですが、韓国では保険対象外のため全額自己負担になります。徐々に保険対象が拡大されているようですが、日本に比べて、その範囲はまだかなり狭いようです。

「混合診療」は使えるも、自己負担額はさらに増える

日本で原則禁止されている混合診療(※保険対象の診療と、保険対象外の診療を一緒に行うこと)が行われていることも、自己負担額を上げている大きな一因です。混合診療を行った際に保険対象分が保障してもらえるというメリットはあるものの、保険対象外の治療が増えれば、結果的に自己負担額が増えてしまいます。

生活保護を受けていて医療費が無料になる人でも、保険対象外の診療については自己負担です。そのため、医療費が払えないという事例がいくつも発生しています。 ただしその一方で、がんなどの重病患者、難病の患者に対しては、自己負担率が5~10%で済むという手厚いケアもあります。

医療費を気にして病院から逃げる患者

韓国の疾病管理本部の調査でも、病気にかかったにもかかわらず病院に行かなかった人のうち21.7%が、「診療費が高いために病院に行けない」ことを病院に行かなかった理由として挙げています。低所得者層のなかには医療費が払えず病院にかかることを諦めたり、入院中に病院から逃げ出す人もいるのです。

リタイア後の高齢者も若者と同じ負担率

韓国と日本の公的医療保険制度では、子供や高齢者に対する医療費の自己負担額も大きく異なります。日本だと70~75歳は自己負担2割、75歳以上は自己負担1割と、高齢になるほど自己負担の割合が下がりますが、韓国では、高齢でも若いときと同じ自己負担を求められます。

韓国は日本よりも高齢化が遅れていたために、高齢者の医療負担について重要視されてこなかったことが原因のようです。

6歳未満の子供にも自己負担額が発生

また、日本では中学生までは医療費無料としている自治体も多いのですが、韓国では6歳未満の子供にも自己負担があります。入院した場合、大人20%に対し、6歳未満の子供では10%です。一般外来の場合でも、大人が30%なのに対し、6歳未満の子供は10%の自己負担が発生します。

韓国でもいま少子高齢化が喫緊の課題となっていますので、医療費負担についても改革が求められることになるでしょう。

民間医療保険へのニーズが高い

国民皆保険制度はあるもののこのような状況ですから、韓国では自己負担額をすべて補償してくれるタイプの民間の医療保険の普及が進んでいます。韓国政府は公的保険での費用負担を改善してゆく方針ですが、まだまだ先がみえない状況です。そのためなんとか医療費の自己負担分を補填しようと民間の医療保険に入る人がたくさんいるのが現状です。

人気の民間医療保険「実損型医療保険」

日本でも医療保険やがん保険が人気ですが、韓国も日本や台湾と同様にがん保険の人気が高いようです。

日本では、いくら医療費がかかったかに関わらず「この手術には10万円、この通院には1日1万円」などと給付金額が一定のタイプが多いのですが、韓国で人気のある医療保険は、「実損型医療保険」というものです。これは、患者さんが実際に負担した医療費を補償してくれるタイプの保険です。日本でも損害保険会社から販売されています。公的保険料は安いけど、あれは対象外、これも対象外ばかり。だから自己負担額全額補償の民間保険に入っておかなければいけない。

コロナによる混乱のなか、このように自己負担に悩む韓国の国民にとって、オンライン診療が少しずつ普及して行くことになります。しかし、そこにもさまざまな壁があるようです。

鈴木 幹啓

すずきこどもクリニック院長  

(※写真はイメージです/PIXTA)