(藤原 修平:在韓ジャーナリスト)

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 あの「反日」歴史教育者の本が平積みになっているではないか!

 今年(2022年)、韓国で驚いた出来事の1つは、ソウル市内にある「教保(キョボ)文庫」という大手書店に立ち寄ったところ、中高生の歴史科目のコーナーでこの人物の著書がどっさりと積み上げられていたことだ。なんと、“復活”していたのだ。

 その著者とは、ソル・ミンソク氏。2年ほど前、本コラム「論文盗用者を擁護、韓国社会の困った“快感のツボ”」で紹介したことがある人物だ。

 当時、テレビでこの人に韓国史世界史を語らせたら、必ずと言っていいほど視聴率がアップしたという。それこそテレビ局から引っ張りだこで、多い時には週に2本のレギュラー番組を持っていた。

 どの番組も、多くの人がテレビを見る時間帯での放送だったこともあり、教養番組をよく視聴する家であれば、ソル氏の顔を見ない週はなかっただろう。その頃の韓国では、ちょうど日本不買運動が宴もたけなわで、そうした社会風潮も彼の人気を後押ししたと思われる。

荒唐無稽な歴史歪曲

 ソル氏が登場する番組は、基本的にソル氏が講師となって、数名の芸能人がその話を聞いてコメントや質問をするというスタイルだった。番組ではおのずと講義の臨場感が生まれ、ソル氏の巧みな話術やストーリーテリングの技術が活かされる。

 とりわけ韓国近代史を語る際、ソル氏は感情を込めながら、宗主国・日本を血祭にあげんとばかりに攻撃する。その語り口は、韓国人の琴線に触れた。番組では、目に涙を浮かべて講義を聞く聴講者もいたほどだ。

 ところが、ソル氏の話を聞いていると、いろいろとおかしいところがある。

 例えば2019年11月のテレビ番組では、統一新羅時代の華厳仏教を現代に伝える世界遺産「石窟庵」について、その姿に嫉妬した日本に傷つけられたと解説した。この荒唐無稽な歴史歪曲については、中央日報がすぐに報じている。それにもかかわらず、番組に出続けていた。

 ところがその1年後に修士論文での盗用が発覚すると、本人はそれを認めて、2020年12月末にすべての番組から降板。表舞台から姿を消した。

YouTube番組に「胸が熱くなる」のコメント

 12月21日の報道によれば、教保文庫の2022年ベストセラー作家の一人はソル氏だという。表舞台から姿を消して姿を見せなくなっても、人気は根強く、著書は売れ続けていた。ソル氏の著書はとりわけ韓国の中高生に人気があると言われ、中でも『ソル・ミンソクの大冒険シリーズ』はこれまでに600万部を売り上げている。

 書籍だけではない。ソル氏の著作物はさまざまな形に姿を変えて出現する。『ソル・ミンソクの韓国史大冒険』はミュージカルになっているし、『ソル・ミンソクの世界史大冒険』はWebアニメにもなっているというのだ。

 そんな喜ばしい状況となったソル氏が、自粛生活を送れるはずはない。1年前には1回約10分ほどのYouTube番組で、古代以来の韓国史の講義を開始した。日本統治時代(韓国語では「日帝強占期」)の講義は、5カ月ほど前に8回にわたって行った。韓国の歴史教育ではこの時代を他の時代よりも詳細に教えるので、8回という回数はそうした状況を反映している。

 ソル氏が講義で取り上げた人物のラインナップは蒼々たるものだ。ハルピンで伊藤博文を暗殺した安重根(アン・ジュングン)、3.1独立運動に参加して獄死した柳寛順(ユ・グァンスン)、日本人商人に対して強盗・殺人を犯したのちに韓国独立戦士となった金九(キム・グ)、その金九の命を受けて昭和天皇の暗殺を試みて爆弾を投げつけた李奉昌(イ・ボンチャン)らが名を連ねる。視聴者からは、「胸が熱くなる」「ファンです」「尊敬します」などのコメントが寄せられている。

態度を変えても変わらない反日感情

 それでも、最近はソル氏の語り方に疑問をもつ者も少なくない。論文盗用疑惑以前の日本攻撃が災いしたのか、反日歴史講師を代表する人物だとの指摘もブログなどで見られる。ソル氏の強烈な反日思考は、韓国の40代の特徴だと指摘する声も見られる。そう言われてみれば、ソル氏が発信するYouTube番組を見る子どもの親は主に40代である。

 賛否両論のあるソル氏だが、熱狂的なファンがいることは否定できない。衰えない人気に支えられて、ソル氏は今年(2022年)9月にテレビへの復帰を果たした。かつてレギュラーを持っていたMBN(毎日放送)で、ギリシャローマ時代の話をしたという。

 この番組についてスポーツ京郷(キョンヒャン)が報じたところによると、番組終了の5分前に、ソル氏は突然日本の話を始めた。日本は韓国にとって、被害の賠償を請求する対象ではあるものの、東北アジアの経済を引っ張っていくパートナーでもあると述べた。その上で、「感情的な部分は熱い胸にしまっておいて、頭を冷やして実際にあった歴史を冷静に批判しなければならない時代」だと持論を展開したという。

 さすがにこの言葉に対しては、スポーツ京郷の記事も「誰よりも感情に訴えていた人物が、突如として態度を変えた」と皮肉っている。

 とはいえ、日本を賠償の対象とみなし続けるソル氏の言葉からは、1965年日韓基本条約が完全に消し去られており、その点からも反日感情が溢れていることが見てとれる。

 ソル氏は反日の狼煙(のろし)をいつまた上げるのだろうか。

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