延期を繰り返した新規鉄道路線が、奇しくも3つの地域で同年に開業を迎えます。人流にどう影響を与えるか注目です。一方で多くの鉄道会社が運賃を値上げ。サービス維持にはやむを得ませんが、選ばれる鉄道であり続ける工夫も求められます。

たびたびの延期を経て新線一挙に開業

2023年は鉄道が色々と変わる1年になりそうです。目玉は何といっても3つの新線開業です。それぞれ複雑な事情があり、奇しくも2023年に揃って開業することになったのも何かの巡り合わせかもしれません。

まずは3月18日相鉄新横浜線東急新横浜線が開業し、相鉄線と東急目黒線東急東横線を経由して地下鉄南北線三田線副都心線などとの直通運転がスタートします。計画当初は2018年度の開業を予定していましたが、東海道貨物線の横浜羽沢駅構内で線路切替工事に時間を要したのと、用地買収の遅れなどで3年ほど延期した格好です。

続いて3月27日には、福岡市地下鉄七隈線の天神南~博多間が延伸開業。福岡市西南部地域が博多駅と直結し、所要時間が14分短縮されます。本来は2020年度開業予定でしたが、2016(平成28)年11月に博多駅前地下で掘削工事中に大規模な道路陥没事故が発生したため2年延期されました。

3つめは日本初の新設LRTである芳賀・宇都宮LRT宇都宮ライトレール)です。正式な開業日は発表されていませんが、2023年8月が予定されています。こちらも当初、2021年度末に開業する予定でしたが工事の遅れにより2023年3月、8月と2度延期されました。自動車社会の宇都宮で、LRTが人の流れを変えられるか注目です。

また2024年に入ってしまいますが、2023年度末に北陸新幹線の金沢~敦賀間、北大阪急行千里中央~新箕面間の延伸開業が予定されており、工事の進捗が取り上げられる機会も多そうです。

運賃値上げラッシュが来る!

しかし明るいニュースだけではありません。今年はJR・大手私鉄のほとんどが運賃を値上げします。ただ今回行われる値上げは3種類あり、ひとつは上限運賃の変更を伴う運賃改定、もうひとつは既存の上限運賃の範囲内での運賃改定、そして新たに導入されたバリアフリー料金制度の導入です。

上限運賃を変更するのは、大手私鉄では東急電鉄近畿日本鉄道南海電鉄(申請中)の3社で、全体の改定率は東急が12.9%、近鉄が17%です。東急は3月18日、近鉄は4月1日に実施され、南海は10月1日を予定しています。

一方、上限運賃の範囲内で値上げするのはJR西日本です。同社は京阪神エリアで上限運賃よりも安い特定区間運賃を設定していますが、4月1日から315区間中99区間(65区間は6か月通勤定期運賃のみ変更)で見直します。

これらに対してバリアフリー料金は、どの利用でも一律10円を上乗せする制度です。現時点で導入を申請しているのは、JRが東日本、西日本、東海の3社、関東大手私鉄東京メトロ東武鉄道西武鉄道小田急電鉄相模鉄道の5社、関西大手私鉄阪急電鉄阪神電鉄京阪電鉄の3社、そのほか私鉄では大阪メトロ神戸電鉄山陽電鉄なども導入します。

関西各社は4月1日に改定と発表済みですが、関東各社は3月としか明かしていない事業者がほとんどです。小田急電鉄だけが昨年末に3月18日実施と発表しており、各社はダイヤ改正とあわせて一斉に実施すると考えるのが自然でしょう。このほか、今年秋ごろの導入を検討中の事業者として、報道では京急電鉄京王電鉄などの名前が挙がっており、更なる広がりを見せそうです。

各社で実証実験が行われたVisaタッチ

運賃関係といえば、JR東日本の「オフピーク定期券」に注目です。これは通常の定期券を約1.4%値上げし、一方でピーク時間帯に利用できない定期券を約10%値下げするというもの。ラッシュピーク分散の切り札として導入を働き掛けてきただけに、どれほどの効果が出るのか注目です。

もうひとつ新しいトレンドになりそうなのはVisaタッチの利用拡大です。これまでもバス事業者を中心に導入が続いていましたが、昨年はJR九州西日本鉄道泉北高速鉄道など規模の大きい鉄道事業者でも実証実験が行われ、南海電鉄長良川鉄道は正式導入を決めました。

注目は東急電鉄が昨年12月8日、今年夏から田園都市線を中心に先行導入し、2024年春に全線展開すると発表したことです。今後は大手私鉄にも波及する可能性があるでしょう。

今後も鉄道サービスを維持するために利用者に一定の負担を求めるのはやむを得ませんが、同時に利用者のニーズを掴んだ多様なサービスへの投資を欠いてしまったら生き残れません。時代の変化にあわせた新しいサービスの登場に期待しましょう。

3月18日、相鉄・東急新横浜線が開業し、首都圏では広大な直通ネットワークが完成する。写真はイメージ。