一般社団法人フィリピン・アセットコンサルティングのエグゼクティブディレクターの家村均氏による、最新のフィリピンレポート。今回は2022年の振り返りと共に、2023年の展開を考えてみましょう。

フィリピン不動産市場…着実な成長を予測

フィリピンでは、不動産市場は経済の非常に重要な分野です。国内で最も収益性の高い産業の1つであり、多くの雇用を生み出しています。フィリピンの不動産市場は、今後数年間で着実に成長すると予想されています。この成長は、人口の増加、経済成長、インフラ整備など、さまざまな要因によって推進されています。

特に住宅の需要は2025年までに100万を超えると予想されています。人口の増加と経済成長がこの需要の主な要因です。この需要の増加により、価格が上昇すると予想されます。

一方で、価格の上昇を抑える可能性のある要因がいくつかあります。

1つ目はインフレです。不動産価格の上昇が、投資に冷や水をかける可能性があります。これにより、価格の伸びが鈍化したり、一部の地域で価格が下落したりする可能性があります。

2つ目の要因は金利です。金利が高くなると、住宅購入のための費用が高くなり、需要と価格に影響を与える可能性があります。

第3の要因は住宅供給数です。住宅供給数が大幅に増加した場合、これも価格の上昇を抑える要因になります。

住宅市場以外も含めた不動産業界全体としても、2023年の着実な回復が予想されています。フィリピンの不動産業界は、国全体の経済パフォーマンスに敏感です。

アジア開発銀行(ADB)がフィリピンの2022年のGDPを4月時点での6.0%から9月に6.5%に上方修正したとき、不動産業界はそれを肯定的に受け止めました。アジアのGDP成長率が2022年4月時点の5.2%から9月時点では4.3%に下方修正されたことと比較すると、フィリピンの強さが際立ちます。

フィリピンは、グローバル経済の逆風と高インフレにもかかわらず、2022年第3四半期のGDP成長7.6%を達成し、多くの専門家の予想値(6.5%~7.5%)を上回りました。2023年も、フィリピンは6.3%程度のGDPの成長が見込まれており、世界の成長センターである東南アジアの中でも最も高い成長率を示すと予想されています。

多くの国と同様に、フィリピンにおいても、経済見通しが改善し、GDPが増加すると、不動産業界も上昇してきました。特に、ドテルテ政権下で開始し、マルコス政権にも引き継がれたビルドビルドビルド政策で交通インフラ網の整備が進む中、強い経済成をするフィリピンでは、都心郊外の住宅に開発に拍車がかかっています。

さらに、倉庫や物流関連不動産が今後数年間、大きく成長すると見られています。こういった中、不動産投資信託(REIT)は、2022年配当利回り6.750%を達成し、多くの投資家の熱い支持を受けました。これは、2023年も継続するでしょう。そして、物流REITの登場も待たれます。コロナ禍のリモートワーク化で逆風を受けたオフィス市場の賃貸率も2022年第3四半期時点から改善しはじめ、2023年にはさらに回復すると予想されています。

一方、中国資本のオンラインカジノ(POGO)がフィリピンに戻るか? リモートワークの定着化などのリスク要因を注視する必要があります。

2022年「フィリピン経済」予想を超える成長だったが

大手機関投資家SUNLIFEは、企業収益の継続的な回復への期待を背景に、フィリピン証券取引所指数(PSEi)が来年7,800レベルに達すると予想しています。インフレ率の上昇にもかかわらず、2022年、フィリピンの消費は好調に推移しています。インフレは2022年でピークアウトし、2023年は価格が下がり始めると予想されるため、消費は引き続き堅調に推移すると見られています。いわゆるリベンジ消費は継続しそうです。

フィリピン中央銀行(BSP)が物価上昇を抑えるため、米FRBと歩調を合わせて利上げを継続しているため、銀行セクターは貸出の増加と金利上昇の両方の恩恵を受けています。中央銀行は、インフレとの闘いの中で、2022年5月以降、過去最低水準から300ベーシスポイント金利を引き上げました。

インフレ率は2022年11月に8%に加速し、2008年11月の世界金融危機時の9.1%以来の高さにまで上昇しました。2022年11月までの平均インフレ率は5.6%で、前年同期の4%より高く、中央銀行の2022年の目標である2~4%を大幅に上回りました。

フィリピン株式市場に外国人投資家が戻り始めています。割安感のあるフィリピン株は、2023年も外国人投資家にとって魅力的なものになるでしょう。また、2022年は、円や他国通貨同様、ドルに対してペソが大幅に下落しました。2023年はペソが安定してくると予想されることも外国人投資家がフィリピンに投資するインセンティブとなります。

アジア開発銀行の2022年GDP予測に基づくと、フィリピンは、東南アジアで2番目に強い成長を遂げると予想されています。アジア開発銀行(ADB)は、フィリピンの第3四半期の好調な経済パフォーマンスを受けて、2022年のフィリピンの国内総生産(GDP)予測を引き上げました。しかし、2023年は成長が鈍化すると予想しています。

ADBは、2022年のフィリピン経済成長率を7.4%とし、9月時点での6.5%の予測を上方修正しました。フィリピン経済は第3四半期に7.6%成長し、2022年1月から9月までの平均成長率は7.7%を達成しました。2022年、フィリピンは、ベトナムの経済成長率7.5%に0.1%およびませんが、東南アジアで2番目に高い成長を遂げると予想されています。このADBの2022年フィリピンGDP成長予測は、フィリピン政府の年間成長目標6.5~7.5%の上限数値となります。雇用の増加、観光の回復、生産と小売売上高の拡大、公共投資が成長を支え続けると見られています。

一方、2023年のADBフィリピンGDP成長率予測は、以前の6.3%から6%に引き下げられました。それでも、6.3%成長すると予測されているベトナムに次いで、東南アジアで2番目に高い成長率です。この数値は、フィリピン政府目標の6~7%の下限にあたります。

インフレの継続、さらなる金利上昇、先進国の景気後退・GDP成長率の予想以上の鈍化など、2023年の成長には外部要因を中心に下振れリスクがあります。インフレ率が高止まりすれば、コロナ後回復してきた消費に冷水をかける可能性があります。ADBは、2022年のフィリピンインフレ予測を以前の5.3%から5.7%に引き上げました。食品価格の上昇により、フィリピンの総合インフレ率は11月に14年間で最高の8%に達しました。1月から11月までの期間のインフレ率は平均5.6%でした。

2023年については、ADBフィリピンインフレ予測を4.3%としています。ロシアと・ウクライナの紛争の継続または激化も、2023年の成長に対するもう1つの下振れリスクです。東南アジア全体については、ADBは2022年の成長予測を以前の5.1%から5.5%に引き上げました。

一方、2023年の成長は以前の5%から4.7%に下方修正しています。消費者と企業の信頼感指数は、高インフレと金利の上昇によって影響を受ける可能性が高く、政府支出は財政の制約の下で削減される可能性があります。

フィリピン中央銀行・BangkoSentralngPilipinasBSP)の最新の消費者信頼感調査によると、4Q22(2022年第4四半期)の消費者センチメントの見通しは、悲観的になったことが明らかになりました。中央銀行の調査によると、この見方は2023年第一四半期、そして今後12ヵ月間にも及ぶと予想されています。

景況感悪化の原因は、インフレ懸念、ペソ安、販売・需要減少への懸念、生産コスト上昇、金利上昇などによるものです。業種別では、サービス業が最も悲観的な見通しとなりました。

2022年度の第三四半期までは、各家庭のパンデミック前の生活への回帰を背景としたリベンジ消費に牽引されました。しかし、最新の市況を鑑みると、消費者信頼感の低下は来年の見通しを鈍らせる可能性があります。消費者信頼感指数と景況感指数は、将来の経済活動の先行指標として活用されています。

最新の消費者調査による4Q22と2023年に向けての悲観的な数値は、フィリピン人が消費を減らし、貯蓄を増やす可能性があることを示唆しています。高金利が借入と消費意欲を減退させるため、その勢いは弱まると予想されます。また、負債コストの上昇により事業拡大が遅れるため、企業活動も鈍化する可能性があります。

最後にまとめますと、2022年のフィリピン経済は、コロナからの回復の勢いで経済成長が加速しました。一方で、2023年については、インフレと利上げで世界経済の景気後退懸念が強まる中、フィリピン経済も影響を受ける可能性が高く、2022年に比べて成長が鈍化する可能性が高くなります。しかし、長期的な目線でのフィリピンの経済成長ポテンシャル自体には、大きな変化はないと考えられます。

写真:PIXTA