令和5年度の税制改正大綱が12月16日に取りまとめられた。貯蓄から投資への流れを促進するためにNISAを恒久化し、非課税期間を無期限とした。またスタートアップの支援を目的とした抜本的な方策も盛り込まれている。

その他に懸念事項だった防衛費の財源は、増税の時期は明示されなかったが、法人税所得税たばこ税の三税が増額される方針であると明記された。

一方で、これらほど注目はされていなかったかもしれないが、それでも企業の経理担当社が戦々恐々と注目していたのが電子帳簿保存法である。

教えて!gooでも「電子帳簿保存はどうやればいいのでしょうか?」という質問を筆頭に、同法に準拠した経理業務についてどうすればいいかという質問は非常に多かった。そこで今回は元国税調査官で現在は税理士をしている松嶋洋氏に制度の概要や、今回の税制改正大綱で電子帳簿保存法がどう変わったのかを伺った。

■電子帳簿保存法とは

まずは話を整理するべく、電子帳簿保存法の概要について伺った。

「電子帳簿保存法とは、税務上必要な帳簿や原始記録の保存を電子データで行うことを認める法律です。近年大きな要件緩和がなされ、使い勝手がよくなっています。一方、請求書をPDFでもらうような電子取引の保存義務は規制が強化されています。現状、適用が猶予されていますが、電子データを容易に検索でき、かつ改ざんされないような形で保存する義務が課されます。この対応には多大なコストがかかるため、大きな問題になっています」(元国税調査官・松嶋洋税理士

詳細は省くが、簡単に言うと、請求書を電子データで保存するときの条件が非常に複雑で高コストで、それが企業に重荷になると懸念されていたようだ。

■電子帳簿保存法は令和5年度の税制改正大綱でどのように決まったか

では今回の令和5年度の税制改正大綱で電子帳簿保存法はどうなったのだろうか。

「電子取引の保存義務は、令和6年1月からスタートする予定でしたが、対応が不可能という声が大きく、令和5年度税制改正ではこの予定を見直し、実質的に紙保存を容認することとされました。具体的には、税務調査の際、保存した電子データをUSBなどで税務署に渡し、かつプリントアウトして保存している書面も調査官に提示等することを条件に、検索要件等を満たすことなく電子データを保存すれば、保存義務を満たすこととされます」(元国税調査官・松嶋洋税理士

令和6年1月にスタートはするが、同法に完全に準拠した電子データの保存では企業の負担がかかるということで、実質的に紙保存も問題ないということになったようだ。

■電子帳簿保存法の注意点

最後に電子帳簿保存法の懸念事項や注意点を伺った。

「注意すべきは、紙保存が認められた訳ではないということです。以前は、プリントアウトすれば電子データを保存する必要はありませんでしたが、今回の改正は紙保存により保存要件が緩和されるという改正です。このため、電子データの保存がなければ法律違反になり、不利益が生じる可能性があります。加えて、保存した電子データに改ざんなどがあると、不正行為に対して課される重加算税の割合が増えるという規定の対象にもなります」(元国税調査官・松嶋洋税理士

保存は紙だけでなく、電子データも当然必要で、その保存要件はやはり簡単ではないようだ。二転三転している電子帳簿保存法だが、この先一体どうなっていくのだろうか。

●専門家プロフィール:元国税調査官・税理士 松嶋洋 税務調査対策ドットコム Twitter Facebook

東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。現在の専門は元国税調査官の税理士として税務調査のピンチヒッターと税務訴訟の補佐。税法に関する著書、講演、取材実績多数。

記事提供:ライター o4o7/株式会社MeLMAX
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