韓国では、新型コロナウイルス感染症の流行で非対面診察の需要が増加したことを機に、オンライン診療に対する規制緩和の流れが進んでいます。また、600万人が利用するアプリ「ドクター・ナウ」の登場によって、韓国国内ではオンライン診療サービスが急速に普及しています。今回の記事では、韓国のオンライン診療の現状について詳しくみていきましょう。

コロナを機に、オンライン診療に前向きな動きへ

なにかと騒ぎの多い韓国の医療業界ですが、やっとオンライン診療において前向きな動きが出てきました。韓国政府はコロナ禍により、非対面によるオンラインなどを利用した診療を一時的に許可していましたが、「この度、国会に発議された医療法改正案をもとに、非対面診療を常に許可する法案を検討している」と発表したのです。

これにより医療業界、市民団体などの反発により20年以上も頓挫していた「オンライン医療規制緩和」が実現される可能性が高まりました。保健福祉省の関係者は「医療業界、市民団体などと協議し、非対面での診療を制度化する法案を検討している」と伝えました。

現在の韓国の法律では、電話やオンラインで医者が非対面で診察する行為は禁止されています。ただし、2020年2月からはコロナの感染防止のため、非対面での診療を臨時的に許可していました。

「オンライン診療反対派」が多い韓国の医療業界

韓国ではこれまで、「オンライン診療」は医療業界で「禁忌」(タブー)とされていました。オンライン診療を許可すると、大手病院だけが利益を得ることになり、医療民営化に繋がる可能性が高いため、医療業界で反発されていたのです。

金大中政権当時の2000年に、「医療関係者」と「医療関係者」によるオンラインでの協力診察がはじめて許可されてから、これを「医療関係者」と「患者」によるオンライン診療へと範囲を広げようと、何度も試みましたが、実現できませんでした。盧武鉉李明博朴槿恵など各大統領政権時代にも、オンライン診療の導入を推進しようとしましたが、医療業界と市民団体による反対により挫折してしまいます。

しかし、「オンライン診療は絶対に許せない」と強く反対してきた医療業界でも、もはや逆らえない状況になったとの認識が広がっています。タブーとなっていたオンライン診療の流れが一気に変わったのは、やはりコロナによる影響が大きいことは、ほかの国と同様です。

韓国内でのコロナが大流行した2020年の2月から、政府は医療法で禁じられていた電話相談や処方を臨時的に許可したことが、きっかけとなっています。国民の5人のうち1人は非対面診察を経験している現状で、コロナ沈静後に非対面診察を禁止すると、国民からも反発の声が出ることへの懸念が高いと政府はみています。

コロナを機に非対面での診療が日常化したことから、法制化を本格的に論議する必要があるとの意見が政治界・産業界・医療業界から出たことにより、これまで「大手病院への偏りが生じる可能性がある」との理由で非対面診療を反対していた「共に民主党」も非対面での診療を支持するようになったのです。

新しい政権も非対面診療に関する規制緩和には積極的です。コロナの感染者を含む非対面での診察件数は2020年に約150万件ほどでしたが、翌年には200万件を超え、医療業界では在宅療養がメインになったことにより、ここ上半期での累積非対面診察件数が1,000万件を超えたとみています。

大韓医者協会傘下のソウル市医者会は2021年の10月に「オンライン医療研究会」を発足しました。「ただ反対するのではなく、医療業界が制度化の方向性を設定するに注目する必要がある」との趣旨で立ち上げたのです。医者協会も「オンライン診療対応タスクフォース」を構成し、許容対象などの政策対案に踏み出します。

韓国では、非対面での診察に対する需要が急増したことから、「ドクター・ナウ」、「オラーケア」、「ドクターコール」、「グッドドック」などの非対面診察サービス会社が相次いで登場しています。さらに、いくつかの情報技術系(IT)企業も、こうしたオンライン診療市場に進出する準備に備えています。

「薬の配送」も許容すべきか

「どこまで許容するか」という問題はほかの国でもあるように、韓国でも同じです。非対面診察に関しては、政府も医療業界もある程度共通認識を持っていますが、薬の配送に関しては相変わらず対立が続いているようです。大韓薬師会は不法な薬が流通される可能性があるとの理由から、非対面での処方と薬の配送については「絶対反対する」との立場を維持しています。

その一方、業界では、薬の配送が許容されなければ、せっかく非対面での診療を受けても、遠くの薬局から処方してもらうような不都合が発生し、非対面診察による効率性が無駄になるとの意見が出ています。業界でも薬の配送は必須であると主張しているのです。オンライン診療におけるさまざまな課題は韓国も同じのようです。

拡大する韓国オンライン診療アプリ「ドクター・ナウ」

韓国でもオンライン診療アプリが登場します。韓国第1位のオンラインによる非対面診療アプリ「ドクター・ナウ」(Dr.Now)は、約400万件のデータを有しています。2022年には300万ダウンロードされ、利用者累計は600万人を超えています。付属医療機関は1,500件以上になります。

韓国の漢陽大学医学部出身で、ドクター・ナウの代表であるチャン・ジホ氏は、2019年にドクター・ナウを創業し、翌年の12月にサービスを開始しました。ドクター・ナウは現在、韓国オンライン診療アプリのなかで堂々の1位に存在しています。コロナ禍での影響もあり、その成長速度はかなりのものでした。

幅広い年齢層が利用するドクター・ナウ…101歳の利用者も

サービス開始当初は、20~30代の利用者がほとんどでしたが、その後40代以上の利用者が増加し、全ユーザーの30%以上を占めるようになります。そして、いまも年齢層の拡大は増え続けています。

ドクター・ナウ利用者の最高齢者は101歳といわれています。ドクター・ナウは「家族代理人受付機能があるので、スマートフォンやPCの操作に慣れている人が加入し、高齢者や幼児のオンライン診療を手配している」と説明しています。

世界からも注目を浴びる

ドクター・ナウの成長は、オンライン診療および処方薬の配送サービスが、日常のサービスのひとつになりつつあることを証明したと韓国ではみられています。 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領政権においても、この流れに注目し、政府関係者が同社を訪問したことでも、その関心の高さが伺えます。

韓国国内でのオンライン診療の使用は、地域的にも大きな偏りはありません。全国の提携医療機関により19の診療科目を運営し、居住地や時間に関係なく診療を受けることができます。処方薬配送においても、ソウルおよび首都圏、6つの広域市で当日配送が可能であり、全国宅配システムも備えています。

その利用者はいまも増え続けています。 社長のチャン・ジホ氏は、2022年5月にフォーブス誌の「30歳未満のアジアのリーダー30人」に選出されているアジアでも注目されている人物です。ドクター・ナウは、ソフトバンクベンチャーズをはじめとするいくつかの企業から10億円以上の投資を受けていることでも、その将来性を期待されていることが証明されているといえるでしょう。

韓国のオンライン診療、受診内容の1位は…?

韓国のオンライン診療の内容は、韓国らしいところが少し注目されています。全体的には、風邪や皮膚炎のような軽症、あるいは慢性疾患が1位、2位を占めています。10~20代では、ニキビ・湿疹(しっしん)などの皮膚炎での患者が多かったことは、ごく自然のことでしょう。

そして、30~40代女性の1位は風邪であるのに対し、同年代の男性の受診内容の1位は、抜け毛・薄毛だったのです。 これについてドクター・ナウは、「他人の視線を気にして、病院に行くのを躊躇してしまう代表的な病気が、オンラインを通じて隠れた需要が高まった」と述べています。

韓国のカツラ事情

韓国のネット上では、新大統領に選出された尹錫悦(ユンソクヨル)氏が、尹氏の若いころや昔の画像と比較されて、カツラなのではないか? という声が上がっています。

韓国は整形する人も多く、外見を変えることは日本より容認されている国です。整形美容等が発達していることでもわかるように、韓国は外見を気にする傾向が強く、女性はもちろん、男性も外見についての関心が日本よりも高いようです。韓国ではカツラは結構ポピュラーなものです。韓国のカツラ関係企業の方によると、カツラを利用している人は国民全体の5%~10%くらいではないかとのことです(ちなみに日本のカツラ人口は、全体の1~2%くらいといわれています)。

かつて韓国では、カツラの生産が盛んに行われていました。現在では生産工場を近隣の東南アジアに移転してしまっていますが、カツラメーカーはいまもたくさんあります。ちなみに、全世界で流通しているカツラの60%を韓国社製品が占めているそうです。韓国の考え方としては、「カツラを被ることは、男としての身だしなみのひとつであり、恥ずかしいことではない」となるようです。韓国の「カツラ文化」といったところでしょうか。

中世ヨーロッパの王室や貴族、著名人の肖像画では、カツラを被ったものが多いとのことですから、古くからある習慣でもあるのです。オンラインによる男性の毛髪診療が多いことに納得できる背景が韓国にはあるようです。

それぞれの国で文化や習慣は異なります。 オンライン相談・診療により、その国独自の様々な悩みごとの解決に繋がることは、人々の表情を明るくさせてくれることにも繋がるのではないでしょうか。

鈴木 幹啓

すずきこどもクリニック院長  

(※写真はイメージです/PIXTA)