なぜ北海道が選ばれたのでしょう。

現在も車いすで生活

2022年夏、とある家族が、ドナルド・マクドナルドチャリティーズ・ジャパン、そして航空会社のANA(全日空)サポートのもと、初の家族旅行へと出掛けました。ただこの旅行、この一家にとって重要な意味を持っています。

京都市に住む、三上奏くん(取材当時11歳)は、9歳の時に脳腫瘍を発症。医師から「発見があと1週間遅かったら命を落としていた」と言われるほどのギリギリの状態から一命こそとりとめたものの、頭以外を含めて9回の手術をしたほか、1年以上の抗がん剤治療を経験。現在も、車いす使用を余儀なくされるなどの後遺症が残っています。もちろん、一般の人と同じように旅行へいくことは到底出来ない状況であるといえるでしょう。

そんななか、三上家が渡ったのは北海道です。これは札幌市手稲区に、病気の子どもとその家族が滞在できる「ドナルド・マクドナルド・ハウス」があるほか、隣だつ「道立子ども総合医療・療育センター」の医療体制が整っており、ここでセカンドピニオンを受けるため。つまり、この旅は、だたの観光のための旅ではなく、もうひとつ重要な意味を持っていたのです。

センター長の方に『この子すごいわよ。がんばってるわよ。骨が固まる前に早く私に預けちゃってよ』と、力強いお言葉を頂き、今しかないと思いました。これまでの次男の頑張りを讃え、数年先まで見通しを頂いた先生は初めてでした」。

奏くんのお母さんは、北海道へ渡った理由を次のように説明します。

なぜANAらが協力したのか

ドナルド・マクドナルド・ハウスは2022年、チャリティー活動の一環としてANAの超大型機、エアバスA380「フライングホヌ」を用いたイベントを実施。その縁を契機に、2者がタッグし、三上家のサポートをする今回の取り組みが実現したといいます。ANAは航空券提供をはじめとする移動面でのサポートをしたほか、ANAグループで初のスタートアップ企業で、ロボット開発を手掛けるavatarin(アバターイン)を用いた遠隔治療などを実施しました。

そして旅の途中、奏くんは大きな決断をします。さっぽろ療育医療センターで、単身で2か月のリハビリ入院を決めたのです。

「術後はマイナス思考で怖がりになってしまった次男でしたが、『一人でも頑張って入院する』と発言したのを目の当たりにし、周りからの指示でリハビリをするという受け身の姿勢ではなくなり、自分が自分の体のためにリハビリをするのだという前向きな姿勢にガラっと切り替わったのを感じました。人生の岐路になるような旅になったと思います」(奏くんのお母さん)。

札幌での単身リハビリ入院は同年秋から実施。12月にはそれも終え、奏くんは京都に戻っています。

三上さん一家(乗りものニュース編集部撮影)。