海外では、旅客機を「ワンマン運航」をしようという動きがあり、議論を呼んでます。ただ、かつて操縦席の後ろに座ったことがある筆者からすると、もうひとつ懸念しうるポイントがあるようにも感じられます。

かつて「3人乗務から2人に」

海外では、旅客機をパイロットひとりで運航する「ワンマン運航」をしようという動きがあります。報道によると、コスト削減や操縦士不足の緩和を図るべく、英独など40か国あまりがICAO(国際民間航空機関)へ、ワンマン運航の実現の支援を求めているといいます。なかには、「2027年にワンマン運航が始まる」という指摘もあるそうです。

ただ、旅客機の「ワンマン運航」には、安全面を中心とする不安の声や反対意見も多いといいます。その一つが、パイロットが経験を積む機会が失われるのでは、という意見です。――これを聞き筆者が思い出したのは、かつて操縦室の補助席、いわゆる「ジャンプシート」に同乗した体験と、そのときに見たパイロットの仕事ぶりでした。

現代の旅客機では、パイロット2名による運航がスタンダードです。ただ、当初から2人乗務だったわけではありませんでした。現在の運航体制が一般的になったのはおおよそ30~40年前、いわゆる「ハイテク機」の登場で、航空機関士を必要としなくなったのです。しかし、最初はハイテク機への理解が思うように進まず、このときも激しい反対が起こっています。

筆者がジャンプシートに座ったのは、ちょうどその頃でした。当時は2001年の米国9.11テロが起きるはるかに前。航空会社も、記者を同乗させて、実際のパイロットの仕事ぶりへの理解を深めてもらおうという狙いがありました。

見学したのは、3人体制での運航を要する「クラシック・ジャンボ」こと在来型のボーイング747と、2人で運航できるハイテク小型機です。

在来型747の機長は年配の方で、客室乗務員も交えた出発前のブリーフィングも大人数となっており、なかなか厳粛な雰囲気が漂っていました。一方で小型機の機長は比較的若めで、機体が小さなぶん客室乗務員も少なく、和気あいあいとした雰囲気だったと記憶しています。

しかし、両機の運航乗員もいざコクピットに入れば、ともにテキパキと、チェックリストを復唱して準備を進め、地上整備員からの連絡も確認して地上滑走に入り出発しました。

水平飛行に移ってからも、操縦輪を握る側と計器をチェックする側に分かれ、片方が声を出して操作をすると、計器をチェックする側は操作の通りに針路が定まったかなど、常に確認を怠ることなく、ともにフライトを進めていきました。

3人乗務と2人乗務に同乗し感じた違い&そして共通点

在来型747の機長は時折、副操縦士や航空機関士と雑談をしつつも、周囲の空や時々地上へも視線をまんべんなく動かしていました。同氏の姿を見て筆者は、とある操縦教官から聞いた「飛行中は常に緊急事態に備えて不時着できる場所を探す」という言葉を思い出しました。一方、ハイテク小型機の機長は、副操縦士とさほど年齢差がなかったためか、副操縦士が臆することなく質問し、機長も兄貴分という感じで答えていました。

そして、在来型747とハイテク小型機、どちらの運航乗員からも感じたのは、訓練で積んだ技量の発揮に加えて、フライトごとに新しい経験と得ようという意欲的な副操縦士と、それに応える機長の姿でした。

各航空会社は、安全運航のためパイロットへの教育を欠かしません。シミュレーターを使って個々のパイロットの技量を上げたり、乗員専用の情報の共有や啓発も行ったりしています。そして、特に副操縦士は経験値を上げようと、ほかのパイロットの経験をどん欲に吸収しています。

パイロットはこれまでの訓練、そして長年の経験で得たノウハウから、常に最適な行動を、無意識のうちに出し続けることが求められます。それは雑談をしながら、その視線を機外へまんべんなく向けていた機長の姿からも、うかがうことができました。もうはるか昔に入った操縦室ですが、今もこの景色は変わらないでしょう。

果たして、冒頭の「ワンマン運航」が、こうした操縦士の学びと経験を発揮しようとする姿勢にどのような影響をおよぼすのでしょうか。そもそも「ワンマン運航」が可能なのか?安全なのか?――といった観点のほかにも、こういったポイントも注意深く考えなければならないのかもしれません。

空港を行き交う旅客機(乗りものニュース編集部撮影)。