小栗旬が主演を務めた大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(2022年、NHK総合ほか)が最終回を迎えてから、そろそろひと月がたとうとしている。坂東武者の誇りを胸に、日本を武士の国に作り替えることに命を懸けた北条義時。その生き様は人々の心をつかみ、年が明けてからもエンタメ系サイトで振り返りのコラム記事が公開され続けるなど、余韻はいまだに続いている。また、小栗は2021年には日曜劇場日本沈没―希望のひと―」(TBS系)で危機を迎えた日本の命運を握る環境省官僚・天海啓示を演じた。老舗ドラマ枠2つで“ニッポンのリーダー”を演じ切った小栗の活躍を振り返る。

【写真】痛々しい“包帯姿”も…!小栗旬、“日本沈没”オフショット

小栗旬が「鎌倉殿の13人」で見せた壮絶

自身8本目の大河ドラマ出演で演じた北条義時は、伊豆の片田舎の小さな豪族の次男坊に生まれながらも源頼朝にすべてを学び、やがて鎌倉幕府2代執権として武士の世の礎(いしずえ)を作るに至った人物だ。

頼朝亡き後は鎌倉幕府存続と北条家隆盛のため、政敵のみならず将軍である頼家、実朝までも滅亡に追いやってきた。小栗は、ピュアで心の優しい青年“小四郎”からそんな冷酷なリーダー“執権・義時”への変化を鮮烈に演じ、終盤は大河ドラマの主人公とは思えないほどのダークヒーローぶりで、視聴者を震え上がらせた。

あまりの闇落ち具合に、SNSでは「スター・ウォーズ」シリーズを連想した“鎌倉のダース・ベイダー”の声も上がるほど。最終回では、身も心もボロボロに疲弊しゆっくりと苦しみながら死んでいく壮絶なラストシーンを演じ、ドラマの最終回後によく使われる“○○ロス”という言葉も軽々しく口にできないほどの余韻をもたらした。

■“王子様キャラ”から生死感を問う作品へ

1982年生まれ、40歳の“不惑”の年に新たな代表作を生み出した小栗だが、そのキャリアは小学生のころから始まっており、すでに30年近い。

10代の頃からさまざまな作品で経験を積み、20代前半で「花より男子」シリーズ(2005年ほか、TBS系)の花沢類役、「花ざかりの君たちへ~イケメン・パラダイス~」(2007年、フジテレビ系)の佐野泉役などイケメン王子様キャラでブレイク

同時に2003年の舞台「ハムレット」以来、同じくシェイクスピアの「お気に召すまま」(2004年ほか)や舞台上で二役に挑んだ「間違いの喜劇」(2006年)、ローマ帝国皇帝の壮絶な末路を演じた「カリギュラ」(2007年)など蜷川幸雄さん演出の舞台にもたびたび出演し、見る者を圧倒する演技力を体得していった。この時期に放送された「情熱大陸」は番組初の2週連続で、あまりの多忙さに苦しむ小栗の粗野ともいえる素顔がカメラにそのまま捉えられ、大きな反響を呼んだ。

30代に入ると「BORDER」(2014年ほか、テレビ朝日系)や「CRISIS 公安機動捜査隊特捜班」(2017年、フジテレビ系)といった硬派な作品で主演を務めることが多くなり、「CRISIS-」では“日本ドラマ史上最高レベル”とも称えられたアクションも披露。生死感を問われるような重みのある役柄に取り組む中で、俳優としての深みも身につけていった印象だ。

日曜劇場日本沈没」で見せた“希望”

そんな小栗が「鎌倉殿の13人」の直前に取り組み、義時とはまた違った“ニッポンのリーダー”像を見せた作品が、主演ドラマ「日本沈没―希望のひと―」(2021年、TBS系)。1月4日からディズニープラスでも配信がスタートし、今再び注目を集めている。

民放を代表する老舗ドラマ枠として近年大ヒット作を多数送り出している日曜劇場枠。この枠で小栗は、“日本沈没”という未曽有の天変地異を前に奔走する環境省官僚・天海啓示を演じた。1973年小松左京が著した小説「日本沈没」を原作に、舞台を2023年の東京に置き換え大胆にアレンジした作品だ。

序盤では目的のためなら手段を選ばない野心家の顔を見せる天海だが、その奥に秘められた、日本を救いたい、大切な人を守りたいという切実な思いが次第にあらわになっていく。そして、「関東沈没が1年以内に始まる」と訴える田所博士(香川照之)に共鳴し、思惑が絡み合う政治の世界でリーダーシップを取ろうと歯を食いしばる。最終回のラストシーン直前まで孤独なダークヒーローであった義時に対し、天海は視聴者が思いを重ね、応援できるキャラクターとして、サブタイトルにもある“希望”の火を灯し続ける。

■国民的俳優・小栗旬の胆力

くしくも現実にコロナ禍という未曽有の危機が世界を襲う中で、“緊急事態に体を張って国を守る官僚”という役柄を演じるむずかしさは計り知れない。それは、ドラマスタート時の「ただでさえ苦しい環境の中、この題材は非常に難しいお話ですが、その中でも“希望”と“人間の強さ”を届けられるよう、自分を含め、キャスト・スタッフ全力で希望を持って真摯に作品に向かっていきます」という小栗のコメントにもにじんでいる。

そして、小栗は“国民的俳優”の胆力でこの作品をきっちりと2021年を代表する作品に仕上げ、日曜劇場として10年ぶりの2時間超えで編成された最終回は、期待に応えて自己最高の16.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)をマークした。

今後さらに日本のドラマ・映画界で大きな役割を担っていくことになるであろう小栗。その彼が30代最後の年に挑んだ日曜劇場日本沈没-希望のひと-」、そして翌年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」は、彼の足跡をたどる上で、欠かせない作品となった。

なお、ディズニープラス「スター」では「日本沈没―希望のひと―」のほか、「恋はつづくよどこまでも」や「プロミス・シンデレラ」「妻、小学生になる。」も配信スタート。また、ディズニープラスオリジナル作品として柳楽優弥主演のヴィレッジサイコスリラー「ガンニバル」や、阿部寛主演「すべて忘れてしまうから」、葉山奨之&伊原六花&主演の「シコふんじゃった!」も配信中だ。

◆文=ザテレビジョンドラマ部

小栗旬/ ※画像はWEBザテレビジョン タレントデータベースより