オペラ座の怪人』『キャッツ』などで知られる天才作曲家アンドリュー・ロイド=ウェバーが、コメディアンとしても活躍するベン・エルトンを作詞に迎え、2000年のロンドンで生み出したミュージカル『ザ・ビューティフル・ゲーム』。日本では2006年のジョーイ・マクニーリー演出版、2014年の藤田俊太郎演出版に続いて3度目の上演となる瀬戸山美咲演出版が、1月7日より日生劇場で上演されている。『エレファント・マン』での名演技により2021年の読売演劇大賞・杉村春子賞に輝いた小瀧望(ジャニーズWEST)が、瀬戸山と共にミュージカルに初挑戦していることでも話題の公演だ。

物語の舞台は、1969~72年の北アイルランドカトリック派とプロテスタント派の争いが日増しに激しくなる首都ベルファストで、ジョン(小瀧)は鬼監督オドネル神父(益岡徹)の指導のもと、トーマス(東啓介)やダニエル(新里宏太)らチームメイトと共にサッカーに青春を捧げている。

小瀧望(ジャニーズWEST)、木下晴香
木下晴香

ジョンはメアリー(木下晴香)と、デル(木暮真一郎)はクリスティン(豊原江理佳)と、ジンジャー(皇希)はバーナデット(加藤梨里香)と。選手たちと応援する女の子たちの間には様々な形の恋が芽生えるが、ある事件を境に青春の日々は終わり、彼らはそれぞれの形で否応なく内戦に巻き込まれていく――。

木暮真一郎(手前左)、東啓介(手前右)
東啓介、木暮真一郎

とこのように主要登場人物の多い物語だが、ひとつの紛争に対する様々な立場・考え方・行動の仕方を、一人ひとりが明確に背負っている。そしてそれぞれの口から語られ、歌われる状況と心情はどれも切実なものばかり。輝いた青春時代の思い出を自ら打ち砕きたい者など誰ひとりいないのに、自分の信じる正義を遂行しようとすると時に友を裏切り失う結果となってしまう、その現実を突きつけるのに必要な多さなのだ。そうした展開にいっそう心が痛むのはやはり、残念ながら争いや分断といったことが、より身近になっている今だからだろう。

小瀧望(ジャニーズWEST)、木下晴香

キャストはそれぞれ好演、というよりも力演と言いたくなる入魂の演技で、「登場人物一人ひとりが背負うものを明確に」見せることに貢献している。小瀧が終盤のナンバー《終わらない》のなかで見せる目まぐるしくかつ一瞬一瞬が的確な表情の変化、木下がロイド=ウェバーからの“挑戦状”のようなソロナンバー《こんなことのために戦うなら》で披露する圧巻のアカペラ歌唱、ともすればただの悪役ともなりかねないトーマス役にすんなりと共感させる東のパワープレイ、進歩的で少々“パリピ”的要素のあるクリスティンを嫌味なく成立させる豊原の華、その笑顔に『リトルプリンス』や『シンデレラストーリー』とはまた違う意味を帯びさせる加藤の達者さ……。

左から)木下晴香、加藤梨里香、豊原江理佳

そうした実力派若手俳優たちのパフォーマンスもさることながら、わけても印象に残るのはやはり、ベテラン益岡の表現力だ。オドネル神父のドギツい台詞のなかに温かさのみならず、おそらくベン・エルトンが狙った通りであろうおかしみをたっぷりと滲ませていて、「さすが」のひとことだった。

益岡徹

取材・文:町田麻子

『ザ・ビューティフル・ゲーム』フォトコールより