ニッポン放送のラジオ番組「ナインティナインのオールナイトニッポン」などといった人気番組の構成作家を務める小西マサテル氏が、第21回『このミステリーがすごい!』大賞・大賞受賞作「名探偵のままでいて」(宝島社)を1月7日に発売した。本著は、レビー小体型認知症を患いながらも鋭い推理力を持つ祖父が、孫娘の持ち込む様々な「謎」を解決していくミステリー小説だ。執筆中は、原稿を読んだナイナイ岡村隆史からアドバイスもあったと言い、その的確さに「やはり彼は、エンタメに関して天性の勘が働く」と舌を巻いた。また、高校の落研時代の先輩であるウッチャンナンチャン南原清隆からも祝福の言葉を掛けてもらい、「自然と涙が出てきた」と振り返った。

【写真】カッコ良くポーズを決めるナインティナイン矢部浩之

ナイナイからの言葉…岡村「僕の中での大賞」矢部「売り上げに絶対貢献する」

――10月6日放送の「ナインティナインのオールナイトニッポン」では、ナインティナインのお二人から『このミステリーがすごい!』大賞・大賞に輝いたことをお祝いされていましたね。

実は執筆期間中、僕が小説を書いていることは、家族以外では岡村くんしか知りませんでした。その後、『このミス』大賞に応募する前に、彼から「読ませてください」とLINEで連絡をもらって。原稿は原稿用紙で500枚ほどあったのですが、新幹線での移動中などごくわずかな時間を見つけて読んでくれたみたいです。読み終えた後には、一つだけ、小説のとある重要人物について「キャラクターの描写がもっとあったほうがいいんじゃないか」とアドバイスをもらいました。それが本当に的を射ていたんです。やはり彼は、エンタメに関して天性の勘が働くんですよね。なので、彼の言うとおりに全部直しました。その箇所以外は特に指摘はなくて、「僕の中での大賞です」と評してくれましたね。

――大賞受賞が決定した後、ナイナイのお二人からどんな言葉を掛けられましたか。

矢部くんは本を渡そうとしたら、「いやいや。僕、売り上げに絶対貢献するので。出版されてからいっぱい買わせてもらいます」と言ってくれました。その言葉がなんとも、矢部浩之っぽいなと。一方の岡村くんも受賞を本当に喜んでくれましたし、10月6日放送終了後には、「僕の行きつけの天ぷら屋さんがあるので、ご馳走させてください」と声をかけてくれましたよ。ただ、それから何の音沙汰もありませんが(笑)。

矢部浩之への“誇り”を感じた出来事とは

――ナインティナインと小西さんは、若いころからの長年にわたるご関係です。年齢を重ねて、ナイナイさんとの関わり方は変化しているのでしょうか。

岡村くんとは基本的にずっと変わらないですね。変わったのは矢部くんのほうだと思います。「オールナイトニッポン」に戻ってきてくれてから、ふたりでLINE飲みするようになって。彼はスタイリッシュな男でなかなか本音を見せない部分もあって、昔はそういうのをあまりしてこなかったんですけど、確実に距離は近くなっている気がします。

――そうなんですね。

あと、「バラエティだけの矢部浩之じゃないんだな」と思ったことが一個あって。12年ぐらい前に「ナインティナインのオールナイトニッ本 vol.2」が出版された時、愛知県の本屋さんで即売会を行ったんです。来てくれたお客さんの大半は、30前後の大人だったのですが、その中で一人、10歳ぐらいの男の子がサッカーボールを持っているんですよ。その子が1000円札を握りしめて、矢部くんの前に来た途端、「大好きだよ」と。その時に改めて、サッカーにおける彼の影響力はすごいんだなと感じて、なんだか涙が出てきたんですよね。僕の中で、矢部くんとかかわってきたことへの“誇り”を感じた瞬間でした。あの日の少年のようにまっすぐな目の小学生たちが、今、日本代表の一員となっているんじゃないか、と思ってます。

■小説を執筆するに至った「3つの理由」

――そもそものお話となりますが、どういった経緯で小説を執筆するに至ったのでしょうか。

理由は大きく分けて3つあります。一つ目は単純に、幼い頃から大のミステリーファンだったからです。小学生の頃に江戸川乱歩、ホームズ、ルパンから入り、中学生になると、エラリー・クイーン、ディクスン・カー、アガサ・クリスティーの「本格御三家」に傾倒していきました。そのため、名探偵という職業に強烈な憧れを抱き、小5か小6の時などは、地元・香川県高松市の探偵事務所に電話したほどでした(笑)。そういった背景もあって「いつかミステリーを書きたい」と長らく思っていたわけです。

2つ目の理由は父親の死です。ある時、父がレビー小体型認知症と診断されました。この病気は、他人には見えないものが見える「幻視」が症状の一つとして現れます。父も例に漏れず「冷房の中にリスがいる」などと言い出しました。これはただ事じゃないと思いましたし、その後も異常が度々見られたので、東京に呼んで僕の家から徒歩5分ほどのところにある施設に入居してもらいました。

そして、僕なりに色々この病気について調べていくと、レビー小体型認知症に効く薬の存在、各種薬剤のバランスの大切さを知りました。さらに、レビー小体型認知症に詳しいかかりつけ医の先生についてもらったところ、症状がやわらぎ、父はほとんど普通のおじいちゃんになりました。つまり僕は、父とのかかわりの中で、レビー小体型認知症は改善する可能性があり、不可逆的に悪くなっていく病気ではないと知ったわけです。父は最期、誤嚥性肺炎で亡くなったのですが、僕や妻のことをちゃんと認識し、手を握ったまま安らかに息を引き取りました。

レビー小体型認知症はほとんど知られていない病気なので、「病気を理解してもらいたい、せめてその存在を知ってもらいたい」との思いが芽生え、じゃあ、どうアプローチしようかと考えたときに「ミステリーだな」と考えるに至りました。

3つ目には、もしかしたらこれが一番大きい理由かもしれませんが、ニッポン放送の元プロデューサー・志駕晃さんの影響があります。志駕さんとは昔、ニッポン放送のラジオ番組「鶴光の噂のゴールデンアワー」でご一緒した仲です。そんな近しい人が小説「スマホを落としただけなのに」で、2016年の『このミステリーがすごい!」大賞から隠し玉としてデビューされました。知り合いが素晴らしい作品を上梓したことに、触発されたわけです。

この「ミステリーを書きたい」「父の病気を伝えたい」「知り合いが大ヒット作を作った」の3つが重なったことが、今作を執筆するに至った理由となります。

■落研の先輩・南原清隆からの言葉に「自然と涙が出てきた」

――現在は放送作家で、今回新たにミステリー小説家としても活動を開始されましたが、小西さんはかつてお笑い芸人としても活動されていました。そしてその活動の原点は、高校の落語研究会に遡り、落研の先輩には、ウッチャンナンチャン南原清隆さんもいたそうですね。

そうなんですよ。高校に入学したての頃に参加した部活のオリエンテーションで、ものすごい大爆笑が聞こえてきて。「なんだろう?」と思い笑い声のするほうへ行くと、南原(清隆)さんが落語をやってたんですよ。高座には校長も見に来ていて、会場中の爆笑をさらっていた。世の中にこんな面白い人がいて、こんな表現方法があるんだと衝撃的でした。もちろん、すぐに入部しましたよ。その後、南原さんと初めて会話を交わしたのですが、その時のことは今でもよく覚えています。あの人は当時、大ファンの近藤真彦さんを真似してパーマをかけていたんですけど、初対面でいきなり「南原や。マッチと呼んでくれ」と言われて。一瞬だけ、落研、入らないほうが良かったかなと後悔しました(笑)。

とはいえ、僕がその後、「お笑いスター誕生!!」のオーディションを受けて合格し、上京したのは、すべて南原さんの背中を追いかけていたからです。今回、受賞の報せをいただいた際には、南原さんにもお電話させていただきました。そしたら「すごいじゃないか。お前、ほんと人生大逆転じゃないか」と言われて。「いや、ちょっと待ってください。大逆転って今まで失敗していた前提じゃないですか!(笑)」と言い返したんですけど、その声が震えちゃったんです。ツッコミで自然と涙が出てきた。そんなことは生まれて初めてで、これが本当のうれし涙なのかと。南原さんも電話の向こう側でもらい泣きしてくれました。

■渡辺正行は“人生のキーパーソンの一人”…小説について助言も

――ナイナイのお二人、南原さん以外で、受賞のお祝いをしてくれた方がいれば教えてください。

リーダー(渡辺正行)は、受賞後にホームパーティーを開いてくれました。リーダーに、小説の内容について事前に相談したことがあったのですが、その時に「祖父は、格好いいほうがいいんじゃないかな」「テーマが重いだけにね」とアドバイスをいただきました。僕は当初、ちょっと太り気味の一般的なおじいさん然としたキャラクター造形をイメージしていたのですが、リーダーの助言を聞いて、その通りだな、と気付かされたんです。

――主人公の祖父は作中の最重要人物の一人ですよね。そんな大事なキャラクターの造形について、渡辺さんが大きな影響を与えていたとは驚きです。

僕にとってリーダーは人生のキーパーソンの一人なんです。芸人時代、相方が先に卒業してコンビを解散したばかりの宙ぶらりんだった頃に、リーダーから「俺のラジオ番組に作家として入らないか」と誘っていただいたことが、そもそも放送作家を始めるきっかけでしたから。

――最後に書籍についてのメッセージをお願いします。

まずは、ベタですが友情や家族愛がテーマとなっているので、人の優しさを感じ取っていただければと思います。それともう一つ、僕は「老害」という言葉が大嫌いでして。最近、老害という言葉が安直に使われ過ぎて、年を取ることが悪みたいな風潮があるように感じるんですよね。でも、日本にはかつて、お年を召していくだけで偉いという文化があった。だから、『名探偵のままでいて』を出版することで、少しでも老害という言葉が減ればいいなと思っていますね。

文=こじへい

小西マサテル/※ザテレビジョン撮影