編集マンの江尻(加賀翔)とオカルトライターの鬼頭(賀屋壮也)が、女子高生たちの心霊スポット自撮り映像や、生配信中に起きた怪現象など、映像の数々に隠された真実を見つけ出す謎解きホラーミステリドラマ『この動画は再生できません』(テレビ神奈川)が、SNSで話題を呼んでいる。

参考:【写真】『この動画は再生できません』制作陣の撮り下ろしカット

 その魅力は、ストレートなホラー作品としての側面に加え、映像がどのように作られたのかを映像制作の観点から解体していくホラー×ミステリーな一面もある。この番組を企画した番組プロデューサーである河口芳佳氏と、谷口恒平監督は、一体なにを意識して番組を制作したのか、話を聞いた。

<「ホラービデオの作り方」にはしたくなかった>
ーーまずは作品が誕生するまでの経緯を教えていただけると幸いです。

河口芳佳(以下、河口):フジテレビで放送されていた『放送禁止』シリーズのようなもの、夜中にテレビをたまたま見ていたら流れてくる、何かよくわからない気持ち悪い番組を作りたいと考えていました。

 最近はフェイクドキュメンタリーホラーがYouTubeでいくつもヒットしていて、個人的にも好きでよく見ているんですが、テレビ番組としても、それに近い形のものをできないかなと思ったんです。ただ、テレビにするに当たって、それに一捻りを加えたいなと思ったため、ホラー系のシリーズと見せかけて、実は謎解きだったというテーマを思いつきました。そこで知り合いのプロデューサーづてに、白石晃士監督の助監督経験もある谷口さんを紹介していただき、お願いしたんです。

ーー番組を作るうえでやりたかったことはなんでしょう?

河口:「テレビでしかできないこと」というのは大切にしていました。「急に解決編が始まった!」という驚きを与えたかった。それに、投げっぱなしのホラーが1番怖いかもしれないけれど、自分たちで情報を取りにいくYouTubeではなく、受動的な要素が強いテレビでは解答があった方が良いのではと思ったんです。

谷口恒平(以下、谷口):心霊系かつ、その謎を解くような内容にしつつも、それを茶化すような内容にはしないというバランスを心がけました。見ている人が「インチキだろう」と思いつつ「ひょっとしたら本物かもしれない」というわずかな期待を持てるのが心霊ビデオの魅力だと思っているので。あえて白黒をはっきりさせすぎないようにしました。

河口:たしかに、ただ単に「ホラービデオの作り方みたいな番組にするのは辞めよう」という共通認識はありましたね。あくまでも事件のトリックであって「ホラー動画はこうやって作っています」というのは違うなと。

谷口:それから、個人的にはフレームの外側を想像させるということも意識しました。今って、ある映像の中にヒントが散りばめられていたり、表面的に見えるものと違うものが描かれていたりするときに、作り手がそれを提示しなくても見たいように映像を深読みされる時代だなと日々感じています。だから、エンターテインメントの中で意外な真実というのは提示しますけど、「映像にすべてが映る」というメッセージに受け取れてしまうようなものではなく、映像だけでは見えてこないことを想像させる内容にしたいなというのはありました。

河口:SNSで話題になっている本作が社会問題をテーマにしているというのは、大枠を考える段階では意識していませんでした。なので、谷口さんがかなり上手に肉付けしてくださったおかげで話題になったなと感じています。

谷口:それから、もう1つ意識したのは、ホラーパートはパターンを意識せずに表現し、かが屋さんが登場する解決パートではお決まりの安心感を演出することです。サウナと水風呂がセットなように、2つ合わせてどう見えるかを意識しました。

<着想を得たのはまさかの「相席食堂」>
ーーInstagramのストーリーズやYouTubeライブ、ジャンプカットを用いた映像トリックは比較的新しい切り口のように思えます。なぜSNSと絡めたのでしょうか?

谷口:心霊ビデオのジャンルにおいては、InstagramやYouTube、生配信がギミックとして取り入れられることが年々増えているんです。これは昔からそうなのですが、映像システムが変わっていく中で、進化せざるを得ないのが心霊ビデオというジャンルの宿命です。メディアが変わっても、そこに霊がうつるかもしれないというロマンは、ずっとあるんですよね。

河口:貞子がまさにそうですよね。最初はVHSでしたけど、いまはもうVRにまで登場しますから。

ーー今回の番組を作るに当たって、着想を得た作品があれば教えてください。

河口:ミステリ作家・綾辻行人さんが手掛けた短編ドラマで、映像ならではのトリックを使ったミステリ作品があり、その影響はかなり受けています。実は、ご本人がTwitterで、この番組を「おもしろい!」と言ってくださっていて、すごくうれしかったです。

谷口:これはあまり誰にも話していなかったのですが、かが屋のおふたりが登場する編集室のシーンは『相席食堂』から着想を得ています。編集室って独特のグルーヴ感があって、どうでもいい素材がおもしろくなっていく瞬間があるんです。その感じがまさに『相席食堂』の「ちょっと待てぃ!!」なんですよね。

 それから映像トリックに関しても、余白を多くして視聴者に委ねる感じは、かなりヒントを得ています。ぱっと画面が切り替わったら、角刈りになっていたり、夜になっていたり、視聴者が「カットされた!」ってわかった上で見ている感じも影響されていますね。

ーーいまのお話を聞いて、動画編集がわりと一般的に認知されているからこその作品のようにも感じます。視聴者が置いてけぼりにならない程度の映像トリックというのは、どの段階で意識されたんでしょう。

河口:あくまでも素人の投稿という設定なので、ギリギリスマホ一台でできる編集というのは意識しました。

谷口:たしかに映像から隠したいものというのは、作り手が常に意識していることですもんね。たとえばですけど、そのシーンにそぐわない印象の人が映り込むのを避けて画角角度を変えたり、発言の一部をテーマに沿うように切り取ったり。あれって、自分もほとんど無意識的にやってしまいますけど、ものすごく意図を持って映像を作っているんです。その感覚が当たり前になっていることの残酷さは入れたいと思いました。

<続編は配信とテレビでマルチエンディングもあり?>
ーーかが屋のおふたりをキャスティングした理由は、なぜでしょう?

河口:企画段階で、かが屋さんにお声がけしていました。ホラーパートで得体の知れない映像を流すのなら、解決パートではぱっと見で「いままでのはドラマだ」とわかるようにしたいなと思っていて。見た目もキャッチーでお笑い芸人として知られている2人が出ることで、いい意味で作り物ということがわかる安心感を与えられるかなと思ったんです。

谷口:実際にご一緒して感じたのですが、もともと放送作家志望だった賀屋さんと、カメラが趣味の加賀さんという、普段からクリエイティブな目線を持っている2人だからこそ、すぐに役に入ってくださったなと。あと、コンビという関係性に、編集室で長い時間共にしてきた人たちの空気感に近いものを感じました。どちらかに演出をつけるときに、自然と2人で聞いて、2人で作り上げている感じも心強かったです。

ーーすでに放送は終了していますが、Amazonプライムでの配信を見た方からはかなり高い評価を得ています。なぜだと分析していますか?

河口:Amazonプライムではホラーパートと謎解きパートを繋げた全4話で配信しているのですが、あれって苦肉の策なんですね。テレビで放送していた時は15分。ホラーパートと謎解きパートをそれぞれ1話として放送していました。本来はモヤモヤで終わらせて1週間引きずってほしいところを、その2つを組み合わせた時にどうなるんだろうというのは読めていなかったのですが…おかげさまで火がついたようで。エンタメの消費速度が早まった現代で、スピーディーに解決するというのも受けた理由かなと思っています。

谷口:「あの形式、初めて見た!」というコメントをいただくのですが、そういうつもりで作っていなかったので、正直驚いています(笑)。完成したものを見て、これはこれでおもしろいなと思いました。

ーー続編や現代テクノロジーを駆使したトリックを使う作品を作る予定はございますか?

河口:構想はあります。ただ、テレビ局の枠を確保しなくてはならないのと、かが屋さんも監督も、かなりお忙しいので……。

谷口:いえいえ、そんな!

河口:今回、Amazonでの配信で火はつきましたが、私としてはテレビ番組としてやれるところ、毎週繋げてみたら楽しめる内容にチャレンジしていきたいなと思っています。たとえば、副音声をつけたり、dボタンを使ったりとか。

谷口:それはおもしろいですね。いまって、テレビでも見る、配信でも見る、再放送でも見るというのができる時代なので、どこでみられるかを意識するかというのが非常に難しいんですよね。ただ、そこは変えずにテレビで見ている人たちに向けて作りたいですよね。

河口:配信とテレビで別のクライマックスにするとかもありますしね。テレビでできることはテレビでやりつつ、配信でひとつの作品としてまとまるような仕掛けができたらなと思います。

谷口:それから、Amazonでの評価では「ホラーだけど怖くない」「ホラー苦手だけど意外と見れた」との声もありましたが、僕としては怖がらせようと思って作っていたので。続編があったら、こちらとしてはより真剣に怖がらせたいです。

(於ありさ

谷口恒平、河口芳佳(写真=はぎひさこ)