映画音楽の巨匠、エンニオ・モリコーネの葛藤と栄光に迫る音楽ドキュメンタリー『モリコーネ 映画が恋した音楽家』が1月13日(金)より公開される。メガホンをとったのは、モリコーネが音楽を手掛けた名作『ニュー・シネマ・パラダイス』(89)のジュゼッペ・トルナトーレ監督だ。本作の公開を記念し、モリコーネが音楽のみならず、キャラクター作りや作風にまで影響を与えた、世界の名クリエイターたちによる作品をご紹介する。

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2020年に91歳で亡くなるまで、500作品以上の映画とテレビの音楽を手掛けたモリコーネ。そんな彼が、世界的にその名を轟かせる発端となったのは“マカロニエスタン”の傑作とされる『荒野の用心棒』(64)の劇中で手がけたテーマ曲「さすらいの口笛」だと言われている。

マカロニエスタンとは、1960年代から1970年代に作られた、イタリアで作られた西部劇のこと。アメリカ製西部劇の分かりやすい完全懲悪の物語とは違い、アウトローや一匹狼たちが活躍する作品群で、そのハードボイルドな作風に影響を受けた作品や監督が後世に続々登場した。

■「スター・ウォーズ」のボバ・フェット役はマカロニエスタンの主人公をイメージ

SF映画の金字塔「スター・ウォーズ」シリーズにて、銀河でもっとも恐れられている賞金稼ぎの一人とされた人気キャラクターのボバ・フェット。彼の凄腕は、ダース・ベイダーやジャバ・ザ・ハットたちにも認められていたが、ボバ・フェットは、マカロニエスタンの主人公をイメージして誕生したと言われている。

実際に同役を演じたジェレミーブロック自身も「ボバ・フェットの動きは、マカロニエスタンでイーストウッドが演じたガンマンの役を参考にした」と明言している。

また、ディズニー動画配信サイトディズニープラス」では、謎に包まれていたボバ・フェットの真実が明かされるドラマシリーズ「ボバ・フェット」が配信中。「マンダロリアン」シーズン2で久しぶりに登場した時も話題騒然となったが、ぜひタイトルロールとなったボバ・フェットの勇姿を観ていただきたい。

■「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」のテーマ曲は西部劇が原点!

米倉涼子主演の人気医療ドラマ「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」。同作にて大病院の権力に立ち向かう一匹狼、大門未知子の姿は、まさに西部劇ガンマンに通ずるものがあった。それを裏付けるように、颯爽とした未知子にぴったりだったテーマ曲「ドクターXのテーマ」は、マカロニエスタンでのモリコーネの音楽をイメージして作られたとか。

音楽を担当した沢田完も、テレビ朝日の音楽番組「題名の無い音楽会」に出演した際(2017年1月8日放送)に、モリコーネによる『荒野の用心棒』のテーマ曲「さすらいの口笛」をイメージしたと語っている。

タランティーノがモリコーネに熱烈ラブコールした『ヘイトフル・エイト

クエンティン・タランティーノも無類のマカロニエスタン好きとして知られている。タランティーノは、『デス・プルーフ in グラインドハウス』(07)、『イングロリアス・バスターズ』(09)、『ジャンゴ 繋がれざる者』(12)など多数の監督作でモリコーネの楽曲を採用してきた。

そしてタランティーノがモリコーネにラブコールをしたかいがあって、『ヘイトフル・エイト』(15)にて、念願の2人によるタッグが実現。同作は、雪嵐によって山の上のロッジに閉じ込められた、ワケありの男7人と1人の女が繰り広げる騒動のゆくえを描く、タランティーノ監督、脚本による密室ミステリーだ。

ちなみにモリコーネは、2007年の段階で、すでにアカデミー賞の名誉賞を受賞しているレジェンドであり、アカデミー賞では6度も作曲賞にノミネートされていた。だが、『ヘイトフル・エイト』において、6度目にして初めて悲願の同賞に輝いたので、タランティーノの功績は非常に大きい。タランティーノは本作にも登場し、モリコーネへの愛を炸裂させている。

■名匠モリコーネ、衝撃の告白をした過去とは?

モリコーネ自らが自身の半生を回想していくという心震えるドキュメンタリー『モリコーネ 映画が恋した音楽家』。タイトルどおり、モリコーネは映画から愛された音楽家である。しかし劇中では、モリコーネがかつて映画音楽芸術的地位が低かったため、幾度もやめようとしたという告白もしており、現在の栄光を手にするまでの苦難の道のりもうかがい知ることができる。

それらが前述の作品をはじめ、『革命前夜』(64)、『夕陽のガンマン』(65)、『続・夕陽のガンマン 地獄の決斗』(66)、『ウエスタン』(68)、『死刑台のメロディ』(71)、『1900年』(76)、『天国の日々』(78)、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(84)、『ミッション』(86)、『アンタッチャブル』(87)、『Uターン』(97)『海の上のピアニスト』(98)など、傑作の名場面や、ワールドコンサートツアーの演奏とともにひも解かれていくのだ。

さらに、タランティーノをはじめ、クリント・イーストウッドウォン・カーウァイ、オリバー・ストーンら70人以上もの著名人によるインタビューによって、モリコーネの知られざる仕事術も明かされていくなど、映画ファン必見の一本となっている。

モリコーネのメロディを聴くだけで、あの日、あの映画に胸を高鳴らせ涙した瞬間が蘇るのではないだろうか。同じ時代を生きた私たちの人生を豊かに彩ってくれたマエストロに敬意を捧げるこのドキュメンタリーを、ぜひ映画館で観賞していただきたい。

また、オリジナル・コンピレーション盤『ENNIO MORRICONE』(発売中)や書籍「エンニオ・モリコーネ 映画音楽術」(発売中)、1月19日(木)に恵比寿ブルーノート・プレイスで開催される公開記念イベントもあるので、映画とあわせてチェックしてみてはいかがだろうか。

文/山崎伸子

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