日本では高齢化と並行して不整脈の患者数も増加しており、不整脈の種類の1つである「心房細動」の患者数だけでも100万人を超えるとされています。そんな不整脈を根治する唯一の方法が「カテーテルアブレーション治療」です。これまでおよそ1万人の不整脈患者を診察してきた東京ハートリズムクリニックの桑原大志院長が、不整脈を患った40代女性Aさんの事例からセカンドピニオンの重要性を解説します。

不整脈の「奇形」を患っていた40代女性Aさん

今回ご紹介するのは、生まれつき「エプシュタイン奇形」を患っていた40代女性患者Aさんの事例です。

「エプシュタイン奇形」とは、右心房と右心室のあいだにある三尖弁(さんせんべん)の位置が右室腔側に落ち込んだ状態のことをいいます。いってみれば、右心房の一部が大きくなって、右心室のなかに埋もれているような奇形です。

エプシュタイン奇形の方は、不整脈を合併する確率が高いのに加え、治療部位が奇形を起こしているため、「カテーテルアブレーション」による治療の難易度が上がるとされています。

治療難易度が高い理由は、「心外膜」という厚い肉の外側を不整脈の電動路が通っていることがあるためです。また、Aさんは「WPW症候群(生まれつき、心房と心室のあいだに電気刺激を伝える余分な伝導路が存在する病気)」も合併していました。

Aさんは、月に3・4回起きる発作のたびに心拍数が200程度まで上がり、長いと半日~1日程度この状態が続いていたそうです。そのたびに病院へ行くか、自宅で休むかしか方法はなく、仕事をするのも難しい状況。

どこにいてもこの発作が起きるかもしれないという不安は、計り知れない辛さだったと推察します。

「成功率97%の手術」が2度失敗…諦めず病院を探したAさん

この患者さんは、5年前に大病院で「成功率97%」といわれながらカテーテルアブレーション治療を受けたものの失敗。さらに、3年後同じ病院での再手術も失敗に終わりました。

当時の担当医には、「治療場所が難しすぎてカテーテルアブレーション治療では限界がある。一生発作に付き合うか、あるいは、外科手術しか方法はない」と、言われたそうです。

「外科手術は怖いけれど、発作が頻回なのは辛い」と、Aさんは懸命にカテーテルアブレーション治療を行っている病院を探しました。そしてたまたま筆者のクリニックをお知りになり、来院されたようです。

セカンドオピニオンの結果…不整脈は「根治」

エプシュタイン奇形に合併する不整脈に遭遇する機会はまれですが、筆者は過去に複数人のエプシュタイン奇形の患者さんを治療し、成功した経験がありました。そのため、上記のお話を聞いたうえで、カテーテルアブレーションを行うことを提案しました。

Aさんの場合、心臓の外側を通る副伝道路は全部で3つありました。

難しい手術ではありましたが想定内だったため、無事カテーテルアブレーションにより、その3つをすべて焼灼。不整脈は治り、Aさんが長年付き合った生まれつきのWPW症候群も治癒することに成功しました。

Aさんは、「術後は本当に成功したのか何日間か半信半疑でしたが、1ヵ月後検診を行ったところ、心電図に問題無し! 生まれて初めて問題無しの心電図が取れました」と喜んでいらっしゃいました。

大病院で「外科手術か、一生発作と付き合うかしかない」と断言されたにも関わらず、こうした喜びを手にすることができたのは、Aさんが決して治療をあきらめず、一生懸命情報を収集されたからです。

「治らない」といわれても諦めないで

他の病院で「治らない」と診断されても諦めることはありません。根気よくセカンドピニオンサードピニオンを求めることで、必ず道は開けてきます。

不整脈の治療は、医師によって考え方が異なることもありますし、病院によって備えている環境も異なります。1ヵ所で「治らない」と断言されても決して諦めず、ご自分にしっかり寄り添ってくれる医師を探すことが大切です。

Aさんは、「カテーテルアブレーション治療を行うことによって、いつ発作が起きるかわからない」という不安から解放され、人生に積極的になったとおっしゃっていました。そうした前向きな心を取り戻すためにも、諦めないことが重要だと感じます。

桑原 大志

東京ハートリズムクリニック

院長  

(※写真はイメージです/PIXTA)