ひざの関節にある軟骨が少しずつすり減り、骨が変形してしまう「変形性膝関節症」。現在日本では潜在的な患者も含め、なんと約3,000万人が変形性膝関節症を患っていると、世田谷人工関節・脊椎クリニックの塗山正宏先生はいいます。新たな国民病ともいえるこの病気。根治させる方法はあるのでしょうか、みていきます。

高齢化とともに「変形性膝関節症」が“新国民病”に

現在、日本における変形性膝関節症の患者数は、自覚症状を有する患者で約1,000万人、X線撮影で診断される潜在的な患者で約3,000万人と推定されています。社会の高齢化にともない、患者数、手術件数ともに年々増加傾向です。

根治に必要な外科手術が勧められるのは、どんな人?

一般的に、変形性膝関節症の治療は「保存療法」と「手術療法」に分類されます。

保存療法とは、運動療法や薬物療法によって、関節の負担を和らげたり、痛みを軽減したりする治療法です。しかし、変形性膝関節症の原因は「軟骨がすり減ってしまったことにより、関節が変形してしまったこと」であるため、保存療法のような対症療法的アプローチでは根治を目指すことができません。

根治をめざすには、手術を行う必要があります。通常、次の項目に当てはまる場合は、手術が推奨されます。

・痛みで歩行が困難である ・ひざを曲げられない ・可動域が制限されている ・O脚またはX脚が進行している ・歩行時のバランスが悪く、転倒の恐れがある

「変形性膝関節症」の主な手術方法3つ

「変形性膝関節症」の手術は大きく分けて次の3つに分類されます。

1.初期に行われる「関節鏡視下手術」

ひざの変形がそれほど進行しておらず、初期の場合に行われる治療法です。ひざに数ヵ所の穴を開け、関節鏡を使用して関節内部の異常を確認しながら、擦り切れた半月板や軟骨のささくれなど、傷んだ部分を除去します。

早ければ翌日に退院することができ、体への負担が非常に少ないというメリットはありますが、この手術ではひざの変形を治療することはできません。あくまでも、一時的に痛みを取り除くための処置になります。

2.「高位脛骨骨切り術(こういけいこつこつきりじゅつ)」

60歳くらいまでの、比較的若い人を対象に行われることが多い手術です。変形性膝関節症が進行するとひざの変形が進み、体重のかかる部分がひざの中央から内側や外側へずれてきます(X脚やO脚になるのはこのためです)。そこで、骨を直接切ることによって体重のかかる部分を矯正するのが、骨切り術の目的です。

骨切り術にもいろいろありますが、多く行われるのが「高位脛骨骨切り術」という方法で、膝下の内側を約8cm切開し、脛骨(すねの骨)を斜めに切って人工骨を間に挟み、金属のプレートで固定をします。[図表1]にあるように、変形の度合いに合わせて脛骨に角度をつけることで、体重がひざの内側から外側にかかるように調整します。

3.「人工関節置換術」

一般的に、60歳以上の方に対して行われる手術で、変形した膝関節の表面を薄く削り、人工関節に置き換える治療法です。手術ではひざの前面を切開し、大腿骨や脛骨、場合によっては膝蓋骨の痛んだ部分を削ります。

それから金属の形にあうように骨を形成し、骨セメントと呼ばれる接着剤を使って人工関節を骨に固着させます。

ただし骨の状態が良ければ、骨セメントをしない場合もあります。膝関節全体が傷んでいる場合には全置換術を行い、ひざの内側だけ痛んでいて、かつ、ひざの可動域がある程度保たれている場合には、部分的に置換を行う単顆(たんか)置換術を行います。

選ぶべきは「骨切り術」・「人工関節置換術」どっち?

根治をめざすには「骨切り術」あるいは「人工関節置換術」のいずれかを選ぶ必要があります。いったいどのような基準で選べばいいのでしょうか。それぞれのメリットとデメリットをみていきます。

まずは骨切り術のメリットと、人工関節置換術のメリットを比較してみましょう。

<骨切り術のメリット> ・自分の関節が温存され、機能が維持される ・侵襲が少ないため感染の確率が低い ・日常生活の制限が比較的少なく、スポーツや登山などの趣味を継続できる

<人工関節置換術のメリット> ・変形している部分をすべて除去するため、痛みを大幅に軽減することができる ・全置換を行えば変形が再発するリスクはない ・人工関節に置換することで関節の安定性が改善し、自立歩行を維持できる ・X脚やO脚などの改善が期待できる ・骨切り術に比べて入院期間が短くて済むことが多く、また、早期にリハビリを開始できる

反対に、デメリットはどうでしょうか。

<骨切り術のデメリット> ・入院期間が長く(1ヵ月間が目安)、回復に時間がかかるケースが多い ・痛みを完全に取りきれない場合もある ・再発の可能性がある(ただし、その場合には人工関節置換術を選択できる)

<人工関節置換術のデメリット> ・自分の骨を温存することができない ・アクティビティの高いスポーツは制限される(全力疾走、ジャンプ、コンタクトスポーツなど) ・手術後しばらくして人工関節を入れ替える可能性がある

上記のうち、特に気をつけたいのは「人工関節を入れ替える可能性がある」ということです。稀なケースではありますが、外傷や感染などのトラブルが生じた場合、人工関節を再置換する手術が必要になることもあります。

とはいえ、以前は「耐用年数は10年」といわれることもあった人工関節ですが、近年では非常に技術の進化が進み、術後20年以上経過してもまったく問題がないというケースも珍しくありません。

通常、60歳以下の方には骨切り術、それ以上の方には人工関節置換術が推奨されることが多いです。そのため、ほとんどの方は1度人工関節を置換したら寿命をまっとうされるまで、人工関節の耐用年数を理由にした再手術の必要はないと考えてもいいのでは、と思います。

迷ったら「ひざが治ったらなにをしたいか」を考えて

「骨切り術か、人工関節置換術か、どちらを選べばいいのか?」と迷われる方も多いと思います。

これまでお話したように、まず、選択の基準として考えられるのは年齢です。その次に考えたいのが、「術後になにをしたいのか」という点です。

たとえば「深くしゃがむ」「ジャンプする」「激しくぶつかる」などの要素を含むスポーツは関節にかかる負担が大きくなり、人工関節のゆるみや脱臼、摩耗などにつながるため、人工関節の手術後には適していません。

そのため、「70歳だけど、ひざの手術をしたら本格的なマラソンを再開したい」「サッカーテニスをしたい」という場合には、人工関節よりも骨切り術のほうが適しているといえます。

反対に、年齢が60歳以下であっても、「痛みを完全に取り除きたい」「再発を予防したい」という希望がある場合には、人工関節置換術のほうが適しています。そのため、「手術後になにをしたいのか」「どんな生活を送りたいのか」といったことを考えて、医師と相談しながら術式を選ぶことが大切です。

<人工関節置換術後におすすめのスポーツ> サイクリング、ゴルフ、ダンス、水泳、ウォーキング、軽いジョギング、ボーリング、軽登山など

<人工関節手術後におすすめしないスポーツ> 野球、バスケットボール、バレーボール、サッカーハンドボール、ジョギング、ロッククライミングなど

手術後の生活…注意点は?

骨切り術や人工関節置換術を受けたあと、日々の生活ではどんなことに注意すべきなのでしょうか。

まず骨切り術では、骨を切ることでO脚やX脚をまっすぐな脚に矯正するため、はじめは違和感を覚えるかもしれません。しかし徐々に慣れてくるでしょうし、ひざの可動域も少しずつ広がってくるので、日常生活で困ることはあまりないと思います。手術後には特に生活上の制限はなく、スポーツや趣味に打ち込んだり、職場に復帰したりすることも可能です。

一方、人工関節置換術の場合には注意してほしいことが1つあります。

それは、骨折です。人工関節の置換術を受けるのは高齢の方が多く、骨粗鬆症になっていることが少なくないため、そもそも骨折のリスクが高くなっています。さらに、人工関節置換術を受けると術後に人工関節の周囲の骨密度が低下することが多く、万一転倒してしまうと、人工膝関節の周囲で骨折をする可能性があります。

特に、大腿骨の周囲で骨折してしまうと人工関節にゆるみが生じ、再手術になる可能性が高くなるため、十分注意が必要です。

骨切り術、人工関節置換術とも、変形性膝関節症を根治するのに最善の治療法です。しかし、骨切り術と人工関節置換術のどちらを選択するかは医師によって考え方が異なることもありますし、医師によって得意分野も変わってきます。

そのため、もし変形性膝関節症の手術を検討している場合には、セカンドピニオンサードピニオンを受けることをおすすめします。

塗山 正宏

世田谷人工関節・脊椎クリニック

(※写真はイメージです/PIXTA)