天井がみえない物価高で、生活に困窮する年金生活者が増えています。「お金を借りるしかない……」そんな高齢者にまるで「朗報」と言わんばかりの誘い文句が。その先に待ち受ける結末とは。みていきましょう。

年金を担保にお金を借ることができた「年金担保融資制度」

――平均月14万5,665円

これは厚生年金受給者の平均年金受給額(厚生労働省令和3年厚生年金保険・国民年金事業の概況』)。つまり会社員や公務員だった人は、平均でこれだけの年金を手にしているということです。また、この値には繰り上げ受給している人の分も含まれています。これらの人を省き、65歳以上で年金の受け取りを開始した人の平均値をみてみると、男性で16万9,006円、女性で10万9,261円となっています。ちなみに自営業などの国民年金受給者の平均年金受給額は、老齢年金(加入25年以上)で月額5万6,479円でした。

平均で月14万円。これで十分かどうかは、人それぞれ。ライフスタイルによりますが、老後の安心を得られる金額ではないことは確か。特に昨今の物価上昇のなか、収入が限られる年金世代の人たちは苦しくなるばかりです。

総務省が発表した東京都区部の2022年12月の消費者物価指数(中旬速報値、20年=100)は、生鮮食品を除く総合指数が103.9。前年同月比4.0%上がりましたが、この4%台というのは1982年4月の4.2%以来、40年8ヵ月ぶりの高水準だとか。スーパーなどでため息をつく高齢者の姿……目に浮かびます。

どうしてもお金が足りない……途方に暮れる高齢者もいるでしょう。しかし収入が限られ、健康不安もある高齢者の場合、一般の金融機関では、なかなかお金を貸してくれません。そんなときに、こんな誘い文句を目にすることも。

――年金を担保にお金を貸します

「年金担保融資」と、文字通り、年金を担保にすることを条件に行われる貸付のこと。ただ年金を担保にお金を貸すこと(借りること)は法律で禁止されています。唯一の例外が、厚生労働省の所管にある独立行政法人福祉医療機構による「年金担保融資制度」で、借りたお金は、2ヵ月に1回振り込まれる年金から天引きされる形で返済していくというものでした。

入院・手術などの医療費、介護サービスの利用料金や介護施設の入居一時金、自宅の改修工事、引越し費用、冠婚葬祭費など、目的は限られ、融資を受ける際には使途を説明する必要がありました。

もう、年金を担保にお金を借ることは「できない」はずだが…

――もうお金を借りるしかない

窮地に追い込まれた高齢者のための「年金担保融資」。ただ前述の説明が“過去形”である通り、この制度は2022年3月末に受付終了。年金を担保にお金を借りる手段は、原則的に“ない”という状況です。

しかし、「年金担保融資制度」があったことの名残か、いまだに年金を担保にお金を融資するという詐欺が後を絶たないといいます。

「中高年専門」とか「高齢者歓迎」などという宣伝文句で融資するという、新聞や折込チラシなどでみたことがないでしょうか。これは違法な融資業者である可能性が高いといえるでしょう。「年金を担保に……」そんなフレーズが出てきたら、確実に悪徳業者。詐欺であり、犯罪です。

繰り返しになりますが、日本年金機構ホームページに以下のように記載されている通り、年金を担保にお金を借りる手段はありません。

年金を担保に金銭の借入申込を受けることは、例外なく全て法律で禁止されています。

違法な年金担保融資にくれぐれもご注意ください。

※福祉医療機構が実施していた「年金担保貸付制度」は、令和4年3月末で申込受付を終了しました。

出所:日本年金機構ホームページ『Q.年金を担保にお金を借りることはできますか。』

もう、死ぬしかないのかといえば、そうではなく、生活に困っている高齢者なども対象とした「生活福祉資金貸付制度」など、各種支援制度を利用することができます。まずは地域の自立相談支援機関に相談するのが第一歩です。

(※写真はイメージです/PIXTA)