1月20日、『ファイアーエムブレム エンゲージ』が発売を迎える。

参考:【画像】指輪がカギとなる新システムを導入した『ファイアーエムブレム エンゲージ』

 前作『ファイアーエムブレム 風花雪月』の成功で、かつての勢いを取り戻した「ファイアーエムブレム」シリーズ。満を持してリリースされるナンバリング最新作は、新規のファン、往年のファン双方の期待に応えられる作品となるだろうか。長い歴史のなかで同シリーズに盛り込まれてきた変化と、そこに集まる批判を入り口に、「ファイアーエムブレム」、さらにはゲーム文化全体の行く先を考える。

■前作『風花雪月』以来、3年半ぶりのシリーズ最新作『ファイアーエムブレム エンゲージ

 『ファイアーエムブレム エンゲージ』は、1990年に初作『ファイアーエムブレム 暗黒竜と光の剣』(FC)が発売となったシミュレーションRPGシリーズ「ファイアーエムブレム」の最新作だ。シミュレーションRPGとは、碁盤目状のマップで複数の仲間キャラクターを将棋の駒のように動かし、敵と戦いながら、シナリオ上の目的の達成を目指すゲームジャンルのこと。「ファイアーエムブレム」シリーズは、同分野を浸透させた草分け的存在とされている。

 『FE エンゲージ』の舞台となるのは、竜と人間が生きる地「エレオス大陸」。1000年前の邪竜との戦争での勝利を契機に安寧の時代が続いていた同大陸だったが、時間の経過とともに封印の力は弱まり、邪竜復活の兆しが現れはじめていた。古の戦争で封印に携わった主人公・リュールは神竜の王である母の願いを受け継ぎ、再度邪竜を封印するべく、かつてともに戦った紋章士たちが宿る12個の指輪を集める旅に出るのだった。

 『ファイアーエムブレム』シリーズといえば、2019年7月発売の前作『ファイアーエムブレム 風花雪月』(Nintendo Switch)の躍進が記憶に新しい。同作は全世界382万本(2021年12月末時点)というシリーズ史上最高の売上を記録。シミュレーションRPGにあった“古典的なジャンル”というイメージの払拭と、ファン層の刷新に成功した。

 以来3年半ぶりの最新作は、シリーズに集まる人気を不動のものとできるか。その動向に注目が集まっている。

■イメージチェンジで新たなファンを開拓した「ファイアーエムブレム」シリーズ

 草創期・流行期には「無骨でメンズライク」「RPG以上に地道」「難易度が高く、ライトゲーマーお断り」といった印象を持たれていたであろうシミュレーションRPGのジャンル。「ファイアーエムブレム」シリーズもその例に漏れず、1990年代2000年代の作品は伝統的なゲーム性をもつ、往年のファンをターゲットにしたものばかりだった。

 潮目が変わったのは、2012年発売の『ファイアーエムブレム 覚醒』(3DS)から。同作では、1996年発売の『ファイアーエムブレム 聖戦の系譜』(SFC)以来のキャラクター同士の結婚システムが採用されたこともあり、過去のシリーズ作品以上にアニメーションやCGといったビジュアル面に力が注がれた。

 こうした路線変更の甲斐もあり、『ファイアーエムブレム 覚醒』は国内で約50万本、全世界で約200万本の売上を記録。この数字は過去のシリーズ作品のなかでも上位に食い込むものだ。同作の成功は、作品を経るにつれて求心力を失いつつあった「ファイアーエムブレム」の復権を感じさせる、大きな転換点となった。以降は「RPGとアドベンチャーの融合」というスタンスが明確に。その傾向は前作『ファイアーエムブレム 風花雪月』にも受け継がれている。

 また、2002年発売の『ファイアーエムブレム 封印の剣』(GBA)からは難易度の選択も可能となった。「固定の難易度」「攻略中に倒れてしまったキャラクターは基本的に復帰しない」「プレイの巻き戻し不可」という誕生当初のコンセプトはしだいに、「ノーマル・ハードからの難易度の選択と、ノーマルの平易化」「攻略中に倒れたキャラクターがマップクリア後に復帰するカジュアルモードの追加」「巻き戻し機能の実装」へと緩和されている。このようにして「ファイアーエムブレム」シリーズは、新規プレイヤーに対する間口を広げる道筋をたどってきた。

 公式サイトやトレーラーなどですでに明らかとなっている情報によると、こうした要素は『ファイアーエムブレム エンゲージ』にも踏襲されている模様。「ファイアーエムブレム」は長い歴史のなかで、「無骨でメンズライク」「RPG以上に地道」「難易度が高く、ライトゲーマーお断り」というシミュレーションRPGのイメージを脱却し、年齢・性別を問わず、誰もが気軽に遊べるシリーズへと生まれ変わっている。

■コンセプト変更に集まる批判は筋違いである
 
 一方、こうした「ファイアーエムブレム」のコンセプト変更には、往年のファンから批判も集まっている。彼らにとって同シリーズは、やりごたえがあり、かつ地道で、無骨なゲームデザインをもつものである必要があるようだ。

 しかしながら、そのような批判はやや筋違いでもある。なぜなら新規IPであっても、長く続くシリーズであっても、作品がメインターゲットとする層は制作側が自由に決めればよいことだからだ。ゲーム史において名作とされるシリーズが作品を重ねるうち、当初の形からコンセプトを変え、別の層をメインターゲットとするケースはままある。そのような変化を前にサービスの受け手であるプレイヤーができる選択は、声を荒げて制作側の意思を曲げようとすることではなく、その変化を受け入れるか、拒むかだけ。この場合の「拒む」とは、変化を盛り込んだ新たな作品を「買わない」という選択を取ることを指す。

 たとえば、「FINAL FANTASY」というシリーズもそのうちのひとつだろう。人気を獲得するまでに発売されたナンバリングタイトルと、直近に発売されたナンバリングタイトルでは、大切にしていること、根幹となるゲーム性が変化している。グラフィックへの注力や、アクション性の高まりなどはその一例だ。RPG特有の「長い時間をかけてプレイすることではじめてわかる面白さ」ではなく、「視覚的な凄み、新しさ」が重視される時代なのかもしれない。

 「FINAL FANTASY」におけるこうした変化は、「ファイアーエムブレム」の変化と同質のものであると言えるだろう。「それならば、別のシリーズを立ち上げ、そちらでやってほしい」という意見も理解はできる。しかし、すべては制作側の意思なのだ。仮にそうした変化が文化的な後退であったとしても、私を含む往年のファンは、「買う」「買わない」という自身の行動を変えるしかないのである。

 それでも現状を変えるために、諦めにも似た「買わない」という選択以外にできる行動があるのだとしたら、「わかりやすいコンセプトに流されないマーケットとなるよう、批判ではないメッセージを投げ続けること」「変化を盛り込んだ最新作をきっかけに、新たなファンがかつてのシリーズの名作を手にとり、本当のシリーズの魅力に気づいてくれることを願うこと」くらいなのかもしれない。

 ファミリーコンピュータの発売から40年。かつてサブカルチャーの一部だったゲームは、ポップカルチャーと言っても差し支えのない文化となった。「ファイアーエムブレム」に代表される名作シリーズのコンセプト変更には、そうした文化的立ち位置の変化を感じてしまう部分もある。「ファイアーエムブレム エンゲージ」は、新規のファンと往年のファンがともに喜べるような作品となれるだろうか。発売後の動向を見守りたい。
(結木千尋)

『ファイアーエムブレム エンゲージ』より