JFA(日本サッカー協会)が主催する指導者向けの講習会、「第13回フットボールカンファレンス」が1月14、15日の両日、横浜市内の会場でヨーロッパやアジアからゲストを招いて開催された(アーセン・ベンゲル氏やユルゲン・クリンスマン氏もズームで参加)。

田嶋幸三JFA会長の挨拶に続いてJFAのTSG(テクニカルスタディグループ)リーダーの木村康彦氏が、カタールW杯の分析を報告。ゴールに関しては、トータル172ゴールは過去最多で(32チームとなった98年フランス大会以降)、そのうちカウンターからは40ゴール、さらに92%がペナルティーエリア内のシュートだったことなどが報告された。

そして守備では「カウンターをやらせないカウンタープレスの高い意識とハードワーク」に加え、ボランチやアンカーの守備範囲の広さとインテンシティの強さを指摘しつつ、半分以上の選手がCLかELの出場チームに所属していたとのことだった。

大会全体としては、ヨーロッパのインシーズン中での開催と、全8会場が距離的に近いコンパクトな大会だったため、選手も試合ごとの移動がなく、気候も一定していて「レベルの高い大会」と位置づけた。

コンパクトな大会の利点は取材したメディアや観戦に訪れたファン・サポーターも大いに感じたはずだ。

登壇した反町技術委員長も「コロナでマッチメイクも中止になり、苦しい日々を過ごした」と振り返りつつ、カタールでのキャンプ地はアジア最終予選を突破する前に視察して予約していたこと。練習中にドローンを飛ばして、その映像をピッチで選手がすぐに見られるよう映像モニター付きのカートを用意したことなどを紹介した。

これまでのW杯なら、本大会の組分け抽選が終わり、グループステージの日程と試合会場が決まってからキャンプ地選びとなるが、カタールのスタジアムはほとんどがドーハ市内か近郊のため抽選会を待つ必要がなかった。そして選手はずっと同じ施設にステイして試合に集中できるだけに、ストレスもあまり感じなかったのではないだろうか。

前回のロシア大会も日本はグループステージで3会場に比較的近いカザンをベースキャンプ地にしたが、大変だったのが14年ブラジルW杯だ。キャンプ地のイトゥはサンパウロ市内からバスで1時間ほどかかる。さらにイトゥ市内からもキャンプ地までは徒歩で30分以上かかるというアクセスの悪さ。

初戦(コートジボワール戦)の行われたレシフェとサンパウロの距離はというと、沖縄から札幌に移動するのと同距離だ。アルベルト・ザッケローニ監督(今回のカンファレンスにも参加)は「選手に試合後、しっかりと食事を摂らせたい」との考えから1泊することを選んだが、多くのチームは遅くなってもキャンプ地まで戻り、翌日のクールダウンや練習に備えた。短期決戦での“一日"をどう使うかの考え方の相違だろう。

話をカタールW杯に戻すと、移動がないため「レベルの高い大会」だったと総括した。ならば、48チームに増える次回の大会こそ、98年フランス大会以前のグループステージ制に戻すべきである。

例えば86年メキシコW杯では、各グループの4か国は同一市内もしくは近郊の2会場で試合を行った。地元メキシコは3試合ともメイン会場のアステカ2000スタジアムだったし、ジーコ率いるブラジルは温暖なグァダラハラ市、イングランドメキシコシティから最も遠く、アメリカ・テキサス州に近いモンテレイ市だった。

4年後のイタリアW杯も同じように、ローマとフィレンツェ、ミラノとボローニャ、トリノとジェノバナポリバーリなどが同一グループの試合会場となり、イタリアは3試合ともオリンピコで戦った。さらにローター・マテウスらインテルで3人がプレーしている西ドイツはミラノのサン・シーロで、ディエゴ・マラドーナアルゼンチンは当然ナポリのサン・パオロでの試合となった(開幕戦だけはミラノ)。

試合会場が近ければ、グループステージ中の移動は少なくてすむ。その日のうちにキャンプ地に戻ることも可能だ。そして、利点は他にもある。

カタールW杯では大会期間中、現地で暮らす日本人の子供たちを練習に招待した。それと同じことが86年のW杯でもあった。ずっと同じキャンプ地にいるため、代表チームがお礼に地元の少年少女を練習に招待したのだ。こうした触れ合いもW杯ならではの素敵な経験となるのではないだろうか(各会場のボールボーイも地元の少年少女だった)。

ところが98年フランスW杯で、ミシェル・プラティニは「地元のファンがより多くのチームの試合を見られるようにしたい」と“グループ制"をやめて、チームが試合のたびに都市間を移動するシステムに変更した。

百歩譲って交通網の発達した(なおかつ時間に正確な)フランスドイツ、日本ならまだしも、アメリカ、カナダメキシコと時差もあり3か国にまたがる大会で、さらにチーム数も増やすのだから、選手のコンディションを考慮しても移動のリスクは極力減らすべきである。監督、選手はもちろんのこと、それは誰もが歓迎すると思うのだが、いかがだろうか。


【文・六川亨】
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