新しい人間関係は高齢になっても生まれます。友達でなくてもいいのです。その場その場で知らない人とでも言葉を交わすことが大事です。老人医療に詳しい精神科医の和田秀樹氏が著書『80歳の超え方 老いは怖くないが、面倒くさい』(廣済堂出版)で解説します。

あなたは「元気回復プラン」がありますか?

■自分が元気になる「宝箱」を持っておこう

歌人の永田和宏さんが歩くことで達成感を得られたように、みなさんも自分が元気になる行動を持っておくことをおすすめします。

精神障害を持つ人たちに「WRAP(ラップ)」という活動があります。Wellness(元気)、Recovery(回復)、Action(行動)、Plan(プラン)の頭文字を取ったもので、日本では「元気回復プラン」といわれています。

精神障害という病気の場合、しばしば気分の波が大きくなったり小さくなったりします。それにとらわれ過ぎると病気が再発してしまいます。そこで、気分を立て直すために、自分の元気がなくなったときはこんなことをすればいいと、自分のプランを持っておくといいという提案が「WRAP」にあります。

精神の病気を持っていなくても、私たちは日々、落ち込んだり盛り上がったりします。

しかし、だいたいが落ち込みの原因がわかっていたりするものです。それを予防し、精神的にタフになる日課や、落ち込んだときに「これをやると元気になる」行動を自分でリストアップしておきましょう。

精神的にタフになるためには、普段の生活では得られない達成感を持てるものを探してみましょう。一千枚の写経を目標にして毎日一枚書いている方もいれば、英語の勉強を始めて英検の試験を受けた方や、木を植え始めた方もいます。登山も達成感が得られる行動です。

でも、「日々の落ち込み」にあなたはどうしていますか。

あなたの落ち込み解決お宝箱には、どんなものが入っているでしょうか。

女性はお喋りがストレス解消になるといわれます。

Nさんは、夫が亡くなって落ち込み、さびしくなると娘や友達に電話して長電話をしていたそうです。はじめのうちはみんなが、夫を亡くしたかわいそうな母、もしくは友人として話を聞いてくれていました。

Nさんはその行為にすっかり甘えて朝夕と電話していたら、ある日、娘に「電話はいいけど、毎日は迷惑だ」と言われて、みんな迷惑だったのだと気づいたそうです。そして落ち込みました。

しばらくして、「傾聴ボランティア講座」のチラシを見ました。お喋りをせずに相手の話を聞くことを学んでみようと思い立ち、講座を受けました。いまでは、傾聴ボランティアとして活動し、聞くことも覚えて娘や友達との関係も良好だそうです。

また、「ひとりカラオケ」で落ち込みを吹き飛ばす人、疲れたときは「自分にご褒美」作戦で、豪華弁当やスイーツを楽しむ人、映画館にひとりで行き、気持ちを落ち着ける人がいます。

人に頼ったり薬に頼ったりするだけでなく、自分の元気回復の素を「宝箱」に詰め込んでみましょう。元気回復の素はたくさんあったほうがいいのです。

それぞれ面倒と思えば面倒かもしれません。でもその面倒を乗り越えるたびに老いを乗り越える元気が備わっていきます。

あなたの元気回復ツールを書きだしてみませんか。

孤独は楽しめるけど、孤立は楽しめない

■人は選り好みしても構わない

人が受けるストレスでいちばん多いのは、人間関係です。

いつも元気な女性編集者と会ったとき、彼女はげっそりやつれていました。仕事が忙しいのかと思ったら、ママ友ランチをしたら、夫や子の自慢話やハワイ旅行の計画の話等、自分の生活とはかけ離れていて、愛想笑いに疲れたという話でした。価値観のかけ離れた人たちと話すのは疲れます。

こういう人間関係を、あなたもひとつやふたつ持っていませんか。

生活も趣味も違う、話も合わないけれど友達を続けている。あなたが聞き役になって疲れてしまう。あの会合に出ると、気持ちが落ち込んでくる。でも、抜けられないと思って、声が掛かれば出かけます。

「断ればいいでしょう」と言えば、「私は友達がいないし、高齢になったら人との交流が大事だと先生も言っているでしょう」と返されます。

交流は大事なのですが、私は、嫌な人、ストレスになる人とは我慢してつき合うな、とも言っています。

若いとき、働いているときは、気の合わない人、苦手な人ともつき合わないといけない場合は多いでしょう。職場や子どもの学校関係など、波風を立てないようにあなたは泳いできました。しかし、高齢者になってまで、その習性が抜けない人がいます。

はっきり言いますと、自分を落ち込ませる相手とはつき合わないほうが精神的によいのです。

それができるのは高齢者の特権です。人は選り好みしていきましょう。面白くもない話につき合っている時間はもったいないです。断って機嫌が悪くなる相手はそれまでの人なのです。

自分を元気にする人、尊敬できる人とつき合ってこそ、エネルギーが充電できます。

「そんな友達はいない」と言う方もいますが、それは狭い範囲で人づき合いを見たときです。一度ひとりになり、自分の興味や関心は何かを考え、本を読むなり習い事をするなりしてみませんか。

新しい人間関係は高齢になっても生まれます。友達でなくてもいいのです。その場その場で知らない人とでも言葉を交わすことが大事です。

ちょっと知っている人同士の世間話というのが、コロナ感染もあって少なくなってきました。散歩の途中で「公園の桜は咲いていますか?」と聞けば、「公園の池のまわりは陽当たりがよくて咲いていますよ」と答えてくれるかもしれません。

スーパーやコンビニでは、お金の受け渡しに言葉はいりません。すごくラクである半面、さびしさも感じます。

孤独は大事に楽しむものですが、孤立はいけません。

人間関係を整理しながらも、孤立しないように自分の世界を広げていく。そんな方法を考えていきましょう。

和田 秀樹 和田秀樹こころと体のクリニック 院長

(※写真はイメージです/PIXTA)