相続税対策の一つとされ、2023年3月いっぱいで期限を迎える「教育資金贈与」が、政府の「2023年度税制改正大綱」において、変更を加えたうえで期限が2年延長されることとなりました。本記事では、教育資金贈与の制度と利用メリットについて、税制改正大綱における修正点も踏まえつつ解説します。

教育資金贈与とは

教育資金贈与は、正確には「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税」といいます。

30歳未満の人が祖父母等の「直系尊属」から1,500万円以下のお金の一括贈与を受けた場合に、所定の要件をみたせば、贈与税が非課税となる制度です。

2013年4月から2019年3月までの期間限定の制度として始まったものですが、これまで2回延長され、「2023年3月末日」までとなっていました。それが、2023年度税制改正大綱において、さらに3年延長され「2026年3月末日」までとなりました。

◆教育資金贈与の要件

贈与を受けた孫等の側で贈与税が非課税となる所定の要件は以下のいずれかをみたすことです。「教育資金口座の開設等」といわれます。

1. 金融機関等との契約に基づく「信託受益権」を取得した場合

2. 書面による贈与により取得した金銭を銀行等に預入した場合

3. 書面による贈与により取得した金銭等で証券会社等において有価証券を購入した場合

孫等が、1,500万円以下の額について金融機関等の営業所等を経由して「教育資金非課税申告書」を提出することによって、贈与税が非課税となるのです。

◆教育資金の用途・手続き

受贈者(孫等)が贈与を受けた額は、決められた用途に利用されなければなりません。用途は「学校等への支払い」と「学校等以外への支払い」とに分けられます。以下の通りです。

【学校等への支払い】

1. 入学金、授業料、入園料、保育料、施設設備費、入学・入園試験の検定料

2. 学校等における教育に伴って必要な費用(学用品購入費、修学旅行費、学校給食費等)

なお、2023年度税制改正大綱において、一定の基準をみたす認可外保育施設に支払われる保育料等も含まれることになりました。

【学校等以外への支払い】

3. 学習塾・そろばん塾当に関する役務提供の対価や施設使用料

4. スポーツ、文化芸術等の習い事の指導の対価

5. 「3. 」の「役務提供」、「4. 」の「指導」で使用する物品の購入費用

6. 「2. 」に充てるための金銭であって学校等が必要と認めたもの

7. 通学定期券代、留学のための渡航費等の交通費

教育資金贈与の固有の活用メリット

教育資金贈与に固有の活用メリットがあるのはどういう場合でしょうか。

すなわち、教育資金を親が子に贈与することは、扶養義務を履行する行為であり、そもそも贈与税がかかりません。したがって、教育資金贈与固有のメリットが問題となるのです。

従来いわれてきたのが、子・孫等に自身が亡くなった後の分まで贈与できるという点でした。なぜなら、直系尊属の扶養義務があるのは、その者が生存している間のみに限られるからです。

言い換えると、教育資金贈与の特例を利用すれば、贈与者の死後の分まで生前に贈与でき、そこに相続税がかからないということです。

しかも、教育資金贈与の特例は、「暦年贈与制度(贈与税の暦年課税における年110万円の基礎控除)」、「相続時精算課税制度」と併用できます。

しかし、2023年度税制改正大綱によれば、2023年4月以降はこの活用メリットに一定の制限が加えられることになりました。

2023年度税制改正大綱で「使いきれなかった残額」の贈与税課税が強化

教育資金贈与の特例の制度は、相続税の節税効果があるとされてきました。しかし、2023年度税制改正大綱において修正が行われ、相続税の節税効果は部分的に失われることとなりました。

修正点は以下の通りです。いずれも、教育資金贈与を行った額のうち「使い切れなかった額」に関する課税強化に関するものです。

1. 途中で贈与者(祖父母等)が死亡した場合、その贈与者の相続税の課税価格の合計が5億円を超えるときは、教育資金贈与された額のうち未使用の額について受贈者(孫等)に相続税が課税される

2. 贈与者が生存し続けた場合、受贈者が30歳に達した際に、未使用の額について贈与税が課税される

それぞれについて解説します。

◆修正点1|富裕層の一部にとって相続税の節税メリットがなくなる

従来は、贈与者(祖父母等)の死亡時に受贈者(孫等)が23歳未満の場合や学校等に在学している場合等は、使い切れなかった額について相続税が非課税となっていました。

しかし、2023年4月以降については、贈与者(祖父母等)の死亡時の資産(相続財産)の相続税の課税価格が合計5億円を超える場合、教育資金贈与の額のうち使い切れなかった残額について、相続税の課税対象となることになりました。

なお、受贈者が贈与者の相続人でない場合、すなわち、「親から子」の贈与でない場合、「2割加算」の対象となります。

これは、富裕層の一部に属する人にとっての教育資金贈与の特例のメリットを失わせるものであり、実質的な「資産制限」を設けるものといえます。

◆修正点2|贈与税の課税強化

贈与者(祖父母等)が、受贈者(孫等)が30歳になるまで生存し続けた場合、使い切れなかった残額には贈与税がかかります。その際、従来は直系尊属からの贈与について税率が軽減される「特例税率」が適用されていました。

しかし、2023年4月以降については、「特例税率」を適用せず、「一般税率」を用いて贈与税が計算されることになります。

ごく大ざっぱな表現をすれば、「教育資金贈与した額について、所定の目的に全額を使い切らなかったら、ペナルティとして、これまでより贈与税を重くするぞ」ということです。

「相続税の課税価格5億円未満」の人にはなお活用メリットあり

このように、2023年度税制改正大綱における教育資金贈与の制度の変更点が影響を与えるのは、おもに「相続税の課税価格5億円以上」の人です。

相続税の課税価格」は、相続税の負担を軽減する様々な特例が適用されたあとの数値であり、実際には、「資産5億円」よりも高額になるケースが大半と考えられます。

裏返せば、「相続税の課税価格5億円未満」の人にとっては、依然として、教育資金贈与の相続税対策としての活用メリットは存続するということになります。

税制改正大綱においてうたわれているのは「資産移転の時期の選択により中立的な税制の構築」ということでした。そのなかには、教育資金贈与等の生前贈与の特例が特に富裕層にとって有利なものになっているという問題意識が含まれていたはずです。

しかし、「富裕層」の線引きをどこに設けるにせよ、社会通念上、「相続税の課税価格5億円以上」という基準がすべての「富裕層」を捕捉すると考えることは困難です。

結局は、与党、とくに自民党が富裕層を主要な支持基盤の一つとしているため、一定の「忖度」ないしは「妥協」を行ったとみることができます。

なお、いずれにしても、教育資金贈与においては、受贈者(孫等)が30歳になるまでに贈与額を使い切らないと、贈与税の課税強化というペナルティが待っていることになります。

(※画像はイメージです/PIXTA)