「組織変革を頼む」と任命しなくても自発的に動きだす人がキーパーソン社員です。変革に対して肯定的な意識をもち、通常業務以外に、変革への取り組みを自発的に進めていきます。経営者たちが抱える「組織変革」の悩みを組織改革コンサルタントの森田満昭氏が解説します。

初期段階の組織変革リーダーが必要になる

■キーパーソンを核とした変革ストーリー

変革のストーリーは、ビジョンを創ることから始まります。ビジョンは心の底から実現したいものである必要があり、自発性の基盤となるものです。個人の楽しみや夢は「個人ビジョン」と呼び、人によって違います。そして、個人ビジョンを手に入れるために必要なのが「共有ビジョン」です。

経営者がビジョンをつくり、それを全社に共有するのが「ビジョン共有」、経営者を含めた複数人でつくって共有するのが共有ビジョンです。経営者からのビジョン共有で始まっても、社員がその実現に共感をすればそれは共有ビジョンに昇華します。

経営者と幹部が将来のビジョン実現のために手を取り合うことができたら、次のステージは一般社員を巻き込みます。一般社員が変革のストーリーを理解し、期待してくれたら、ビジョンに共感したといえます。

組織変革はいくつかの段階を経て全社に波及し、発展していきますが、本書では初期段階の変革リーダーをキーパーソンとします。

キーパーソンは、「組織変革を頼む」と任命しなくても自発的に動きだす人です。複数いてもかまいません。勤続年数や役職の高さは必須条件ではありません。他者に対してポジティブな発言と振る舞いをするのが特徴です。変革に対して肯定的な意識をもち、通常業務以外に、変革への取り組みを自発的に進めていきます。キーパーソンは幹部と良い関係を築き、ビジョンへ共感することが不可欠です。

キーパーソンは自然と現れる場合もあります。だいたい一人から始まりますが、自然に現れる場合は一人に限定する必要はありません。自発性が大切なので、通常の役職とは違って人事権を行使して任命するスタイルは取らず、あくまで対話による共感から始まるのが理想的です。ただ通常は経営者や幹部がキーパーソンを選定し、ビジョンを語って「私も頑張るから一緒にやってくれないか」と協力を依頼する場合が多いようです。

組織の規模が少人数の場合は、キーパーソンを幹部が担うこともあります。もっと小規模になれば、最初のキーパーソンは経営者自身が担い、変革が進むにつれて共感力の高まった社員にキーパーソンの役割を委譲することもあります。

キーパーソンが決まったら、次は対話(ダイアログ)です。自発性が大切とは言え、初期の頃は適切な活動方法が分からない場合がほとんどです。経営者や幹部が頻繁にキーパーソンに声をかけ、変革プロジェクトを推進するようなアイデアを一緒に話し合うことが大切になります。組織が変化するストーリーを理解することが必要なので、キーパーソンには経営者や幹部と一緒に、コーチングや組織変革リーダー養成塾などで組織変革の全体像について学んでもらうという方法はとても効果があります。

変革の取り組みが進むと、なんらかの具体的なアクションが始まります。そのとき、キーパーソンに活動の中心となることを進んでやってもらうのが理想です。例えば対話会の開催や連絡、進行など事務局的な役割を担ってもらうことが多くなります。

変革がさらに進むとさまざまなアクションが業務に組み込まれ、オフィシャルな活動になります。その時点では総務部や人事部が担当を受け持つこともあります。

このとき、組織変革のプロジェクトに楽しいコードネームを付けると一体感が増します。例えば「△△の誓い」「Remember on □□」「プロジェクト・××」「○△2022」「×○大作戦」「○□, great again!」「□○作戦」「世界△○化計画」などです。

また、プロジェクトの省略名にマネージャーやリーダー、チーフという表現を組み合わせてキーパーソンに使われることもあります。例えば、「MGAのマネージャー」「ROTチーフ」などです。

ワークショップで判明するキーパーソン社員

■キーパーソンが必要な理由

組織変革にキーパーソンが必要な理由は二つあります。

一つ目は、キーパーソンが変革を推し進めてくれる起爆剤になるからです。残念ながら経営者や上司から「指示・命令」をされても、社員のやる気が高まることはあまりありません。しかし、同じ仲間であるキーパーソンが発する言葉は、社員の心を動かす力をもっています。経営者の言葉より強く響くこともあり、キーパーソンがほかの社員に与える影響力はとても大きいといえます。

二つ目は、キーパーソンが経営者を高めて成長させてくれる存在になり得るからです。

キーパーソンの抱える組織に対する悩みや問題は経営者と同じです。彼らは、経営者と同じベクトルのビジョンをもち、そのビジョンの実現のために汗をかいてくれます。

現代のビジネスは、すべてが予定調和で終わるような簡単なものではありません。キーパソンとともに悩み、もがきながら解決策を考えていくなかで、経営者自身が成長し予想もしなかった気づきを得るきっかけも増えます。キーパーソンが今後の経営においてかけがえのないパートナーとなるかもしれません。

■キーパーソンの見つけ方

キーパーソンがなんらかのエースである場合は多いですが、組織の未来をつくっていくという観点から必ずしも現在エースであることは必須条件ではありません。というのも、売上を上げるエースは一般論として、組織の未来よりも短期的な営業成績にベクトルが向きがちだからです。そのベクトルは部下の育成とはかなり方向性が違い、会社組織全体という観点に立ちにくいといえます。

つまり現在の評価が、キーパーソン社員を選定するための決定的な要素とは言えないのです。人は必ず変化し、それに伴い組織の状態も変わるからです。組織変革に向けて組織が揺さぶられ好ましい変化を開始したとき、今までの組織のエースが、新しく成長した組織のエースであり続けられるかどうかは分かりません。今までの評価に引きずられると未来を見ることができなくなるので、あくまで参考にとどめておくのがよいのです。

そういう意味では今後どのように、どのくらい変化する可能性があるのかという視点でキーパーソンを見つけるのがよいと思います。その際、その人の変化の可能性を信じる経営者の姿勢が重要です。もしその人がなかなか変化をしないと感じたときに、経営者が「あいつはいくら言ってもだめだ」と取るか、「私にはまだ彼の変化のきっかけをつくってあげることができていない」と受け止めるかは、とても大きな違いです。後者の受け止め方ができたら、その期待は必ず相手に伝わっていきます。

私がキーパーソンを見つける場合は社員のヒアリングや社長の話を参考にしますが、私のような外部のコンサルが話を聞くと身構えたり取り繕ったりする社員が多くいます。私に言うことは社長に伝わると考えて、儀礼的な話になりがちなのです。そのため、最初はヒアリングしてもあまりよく分かりません。ましてや私が社長から話を聞くと、社長のフィルターが通っているため、余計に分からなくなります。

しかし、ワークショップを開催すると「この人はキーパーソンになるな」と感じることはよくあります。対話のワークのとき、キーパーソンがいるチームは対話の質がほかと違うのです。対話の内容が深く広く、いい空気を醸し出します。ただ会社を批判しているだけの稚拙な場合もありますが、こちらから問いを投げ掛けると素直に変化していきます。

そこで、「この人はキーパーソンになり得る」とすぐに分かるのです。

私のワークショップでは役職も年齢も取り払い、属性を意識せずに思うことを話すようにセットアップし、心理的な安全性をつくります。すると時間が経つにつれて参加者の表情は和らぎ、思っていることを飾らずに口にします。私が横に立っても演説が始まるわけでなく自然な発言をするので、私はすぐにピンときます。このため、ワークショップでの社員の反応を重視しているのです。

森田 満昭

株式会社ミライズ創研 代表取締役

(※写真はイメージです/PIXTA)