手練れの業界ウォッチャーが、新聞報道にもの申す! 月刊「文藝春秋」の名物連載「新聞エンマ帖」(2023年2月号)を一部転載します。

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岸田政権「勝ちに不思議の勝ちあり」

 政治報道の浅薄さに振り回された1年だったと思う。プロ野球の故・野村克也監督は「勝ちに不思議の勝ちあり」と言ったが、前半戦はまさにそうだった。

 夏の参院選岸田文雄自公政権がなぜ勝てたのか、紙面を読んでも全然分からない。「新しい資本主義」など首相のお題目が紙面を席捲したが、中身のなさは首相の説明も記事も同じだった。「野党第一党」を賭けた立憲民主党日本維新の会の戦いを囃し立てたが、結局は「二弱」のオチだった。それで首相が「黄金の3年間」を手にしたと書かれても、狐につままれた思いしか残らない。

 その後の政権の「連敗」ぶりは今更書くまでもないが、内閣支持率が30%台に急落するや、すぐにでも政権が倒れそうな紙面へ早変わり。そのあげく、昨年12月2〜4日にNNN読売新聞が行なった世論調査で内閣支持率が3%上昇して39%になると、「“下げ止まり”の理由は?」(日テレNEWS)とくる。

 いやはや、何とも腰の定まらぬ有り様だが、まだ終わらない。

 NHKが9日から3日間行なった調査では、内閣支持率が33%から36%へと回復し、防衛力整備の水準を5年間で43兆円にする方針にも、賛成51%が反対36%を上回った。財源を巡り法人税など増税を検討する方針にさえ、61%対34%と賛成が倍あった。

 反転攻勢の兆しかと思いきや、それが1週間後の17、18日に毎日が実施した調査でまた変わる。内閣支持率が発足以来最低の25%を記録したうえ、防衛費増額の賛否も48%対41%と拮抗する。ただ、詮無いのは財源問題だ。

 増税と経費削減、国債発行の3つで賛否を聞くが、それぞれ23%対69%、20%対73%、33%対52%で反対が圧倒した。思いつく財源の在処がおしなべて否定された後で、それならいったいどうしろというのだろう。

 当初は世論にも賛成論が少なくなかったのに、首相の拙速さと説明不足が仇となって反対論の急増を招くのは、確かに安倍晋三氏の国葬の時と同様の道行きではある。その意味では「負けに不思議の負けなし」とも言えるが、新聞の調査がうつろいやすい世論の反応を伝えるだけで良いものか。

 しかもその数字に基づき、黄金の3年間とか下げ止まりとか危険水域とか退陣はいつかとか、浅薄な政局観を月替わりや週替わりで垂れ流す。防衛論議をはじめ、世論は政策や政権のどこを評価してどこに反省を迫っているのか。そこを問い冷静に分析を施さない限り、世論調査はただ世論を迷わせるだけである。

教団関連の質問はゼロ

 物忘れしやすいことの例えである「鶏は三歩歩けば忘れる」との言葉を思い出した。

 きっかけは旧統一教会問題に端を発した被害者救済法成立を受けた岸田文雄首相の記者会見と社説である。成立から数時間後の12月10日夜の会見では、13人の記者から教団関連の質問はゼロ。「終わったことはすぐに忘れる」という現場の記者の記憶力にも驚くが、翌11日朝刊の社説にはもっと驚いた。

 それまでメディアが厳しく追及してきた自民党と教団との深い関係への言及が薄まっているのだ。朝日が「教団と政治 解明まだだ」との見出しで、安倍晋三元首相や萩生田光一政調会長と教団との関係が解明されていないことをかろうじて指摘したが、この点を同じように問題視してきていた毎日は情けない。「献金被害の救済法成立 むしろ議論はこれからだ」と題した長行の社説を掲げたが、自民と教団との関係には全く言及がないのだ。

「新聞エンマ帖」全文は、「文藝春秋2023年2月号と、「文藝春秋 電子版」に掲載されています。

(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2023年2月号)

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