「飼育しやすく可愛らしいペット」の代表ハムスターに欠かせないのが回し車です。
ハムスターの飼い主なら、彼らが回し車で走っている様子を見て、「今日も元気だな」とほほ笑んだことがあるでしょう。
しかし回し車で一生懸命に走るのは、ケージの中で生活しているハムスター限定の行為なのでしょうか?
実は2014年、オランダ・ライデン大学医療センター(LUMC)に所属するヨハンナ・マイヤー氏ら研究チームが、回し車を野外に設置するとどうなるのか実験しており、興味深い結果を得ています。
研究の詳細は2014年7月7日付の科学誌『Proceedings of the Royal Society B』に掲載されました。
ペットのハムスターが回し車で走るのはなぜ?
ハムスターは小さなケージの中だけで飼育できるため、どんな家庭でも飼いやすいペットです。
しかし狭いケージの中ではハムスターが運動不足になってしまうため、これを解消するために回し車があります。
驚いたことにケージの中のハムスターは一晩で10kmも走ることがあるのだとか。
ハムスターが元気に回し車で走っている姿は可愛らしいものですが、当の本人たちはどういうつもりで回し車の中で走り続けるのでしょうか?
実は、ハムスターたちが回し車で走るのは、「エサ探しの本能」から来るものだと言われています。
野生のネズミがエサを求めて縄張りを一晩中走り回るように、ペットのハムスターにも同様の本能が埋め込まれており、自然と走りたくなるのです。
また彼らの走るという行為は、単純に運動不足や肥満の解消となる以外にも、体内時計のリズムを整える効果があると言われています。
しかしペットのハムスターたちは教えるわけでもなく、自然と回し車で走リ始めます。
その様子を見ていると、ある疑問が湧いてきます。
それは「自由に走り回れる野生のネズミに回し車を与えると、どうなるのか?」ということです。
オランダのマイヤー氏らは、この疑問の答えを見つけるため、2014年に世界で初めて検証実験を行いました。
野外に回し車を設置するとどうなるのか?
マイヤー氏は、野生動物たちが生息する野外の2カ所に回し車を設置しました。
そして野生のネズミが回し車を利用するのか検証するために、赤外線カメラによって回し車周辺を記録したのです。
ちなみに回し車は、大型の捕食者から小動物を守るために小さな出入り口のある囲いの中に設置されました。
加えて、動物たちを引き寄せるために回し車の近くにエサを配置しました。
そして実験全体で動物が近づいた20万件以上の記録の中から、回し車が動いた時のビデオを分析しました。
その結果、野生のマウス(ハツカネズミのような小型のげっ歯類)、ラット(ドブネズミのような大型のげっ歯類)、トガリネズミが回し車に引き寄せられ、実際にその中で走り始めたのです。
なんと小さなケージに閉じ込められていなくても、ネズミたちは回し車で走りたくなるのです。
最初の2年間の観測で合計1300回ほど回し車が利用されましたが、そのうち1000回をマウスが占めており、偏りが大きいことも分かります。
しかし回し車を利用するのは、マウスを中心としたネズミたちだけではありませんでした。
少数のカエルやナメクジなども引き寄せられ、回し車の中で走る様子が観察されたのです。
なぜカエルやナメクジまでと不思議に思いますが、彼らはエサで引き寄せられただけで、それほど積極的に回し車で遊んでいたわけではないようです。
カエルは単に回し車の回りを飛び回って偶然乗っただけのようで、ナメクジは新しく見つけた表面に興味を持って登ろうとしていたようです。
なんにせよ、回し車は多くの動物にとって人気のアトラクションとなったようです。
またこの実験のあとも約1年半の間、エサは取り除かれた状態で回し車の観察が継続されました。
すると、周囲にエサが無いにも関わらず回し車での走行が78件観察され、そのうち62件はマウスによるものだったのです。
動物たちの訪問回数は大幅に減少しましたが、それでもネズミたちはエサがなくても回し車を利用していたのです。
では、野生のネズミたちは食物の報酬がないのになぜ回し車で走るのでしょうか?
これについて研究チームは、「回し車が好奇心や遊びたいというネズミたちの欲求を満たしている」と推察しています。
ネズミたちは走ること自体に欲求をもつというのです。
これは、ハムスターが「エサ探しの本能を満たすために走る」という考えと合致するように思えます。
動物は、睡眠欲、食欲、性欲にしろ、生きるためにその行為自体を求めるようになっています。
ネズミにとっては、(エサ探しのために)走ることも、自然の欲求の1つなのでしょう。
そのためペットのネズミでも、野生のネズミでも、環境にかかわりなく、近くの「回し車」という道具で「走りたい欲」を存分に満たす傾向にあるのかもしれません。
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