仕事をしていないときに自然にアイデアが湧いてくることあります。一方で気合を入れてもアイデアをひねり出すことはできません。近年、その根拠が脳科学の進歩で解明されてきました。IT&キャリアコンサルタントの谷藤賢一氏が著書『ペヤングソースやきそばで学ぶ問題解決力』(日本能率協会マネジメントセンター)で解説します。

気合を入れてもアイデアは湧かない

■起こそう、イノベーション!

これからイノベーションを起こすための有名なテクニックや考え方、知識をどんどん紹介していきます。 

「あ! それ聞いたことありますよ」というものもあれば、初めて聞くものもあると思います。

できるだけ効果的なものに絞ってご紹介します。

■馬上・枕上・厠上の三上

約千年前の中国の政治家であり学者の欧陽脩は、馬上、枕上(ちんじょう)、厠上(そくじょう)の「三上」が良い考えやひらめきが生まれやすい場所だとしています。

よく、枕元にメモ帳を置くといいという話を聞きます。トイレ(厠)でも突然何かがひらめくことってありますよね。馬とは現代でいえば、車や二輪になりますが、運転中にふとアイデアが湧いたりするものです。

スウェーデン式アイデア・ブック』の著者フレドリック・ヘレーン氏が「創造性の4B」と呼んでいるのは、バー(Bars)、バスルーム(Bathrooms)、乗り物のバス(Busses)、ベッド(Beds)だそうです。他にも退屈な会議、つまらない授業、散歩、ジョギング、イスに深く座って空中を眺める、ウロウロする、などもアイデアが降りやすいシチュエーションです。

「よし、これからそういう場所でアイデアひねり出すぞ!」と気合いを入れようとしたあなた。それではアイデアは湧いてきませんよ。

「え、何で? せっかくアイデアが湧くシチュエーションがわかったのに、なぜ気合い入れちゃダメなの?」なぜでしょうか? 近年、その根拠が脳科学の進歩で解明されてきました。

■何もしない「デフォルト・モード・ネットワーク」

気合いを入れちゃダメです

「じゃあどうするのさ?」

はい、何もしないのです。何も考えないのです。ボ~ッとするくらいでいいそうです。

「そんなバカな~。何もしないでアイデアが湧くなら、みんなそうするでしょ?」

そんなことあるはずないと思うからみんなやらないのです。気合いを入れて考えなきゃと思い込んでいるからやらないだけです。

あなたはこれまですべてのアイデアは気合いでひねり出してきたのですか?

「ん~、確かに良いアイデアってふとした瞬間だったかも……」

そうでしょう。それが脳科学で明らかになってきたのです。ハーバード大学医学部のスリニ・ピレイ博士が突き止めた「デフォルト・モード・ネットワーク」という脳の機能です。ボ~ッとして何も考えていないとき、脳は全体がネットワークのように繋がり、活発に動いているというのです。

何も考えずにリラックスしているはずなのに、脳はフル回転で動いており、いつもはアクセスしない領域もまんべんなく繋がった状態で激しく情報が行き交っているそうです。

そのため、ポンッとアイデアが湧いてくるというのです。

リモコンがない!」「携帯どこ置いた??」「カギがない!」のようなときも、気合いを入れて探すより、いったん頭を開放させてあげたほうが見つかりやすいのも同じ理由です。

イノベーションの芽をどんどん出すには、ボ~ッとする時間も重要なのです。

バカバカしい会話から生まれるヒント

■結論を目的にしない会議「ブレインストーミング」

気さくに意見を言い合う会議、それが「ブレインストーミング」です。

「ああ、ブレストね。あれうまくいった試しがないよ。」

それはやり方が間違っていたのでしょう。時間内に結論を出そうとしたら発言が恣意的になります。それではアイデアは湧いてきません。むしろ結論を出すことを禁止するくらいでちょうどいいと思います。

人は「それダメだよ」と言われるとアイデアが湧いてこないばかりか、意見も出さなくなります。否定的な反論も禁止です。自由に、気さくに、ときにはバカバカしく。

CO2以外に温暖化の原因って何だろうね?」 「たぶん宇宙人のしわざだよ。」

こんなバカバカしいやりとりも「あり」にするのです。

イノベーションの芽って、最初はバカバカしいことが多いものです。アインシュタイン特殊相対性理論だって、最初はバカにされたのです。

イノベーションの芽を摘まないためには、バカバカしい意見を容認する場が必要です。結論禁止で何でもありの場さえあればブレインストーミングはうまくいきます。まさかのアイデアも飛び出します。

実際に飛び出した例をお見せしましょう。

最初はあるベンチャー企業のブレインストーミング会議で飛び出したアイデアです。

アルミ製の放熱フィン付きヘルメット。被ることで知恵熱が効果的に放熱され頭がスッキリするという製品。社長が率先して発表したアイデアです。

一瞬笑いが起こりましたが、社長は真剣。もちろん商品化を考えたのではありません。

ブレインストーミングとはこういうことだよ」と示してくれたのです。

「こんなアイデアが容認されるなら、じゃあ、アレ言っちゃおうかな」という気分になります。

こうしていろんなアイデアが飛び出してくる場ができたのです。

次は天文学の打合せで実際に飛び出したアイデアです。

大型の天体望遠鏡を完全に水平に設置するにはどうしたらいいか。そんな会議でのこと。

レーザー装置を使う、高額なレンズと星の位置から計算するなど、実現性が困難なアイデアばかりで議論が膠着状態になったときのことです。

「水に浮かべればいいんですよ。」

あっさりと関係者から出たアイデアでした。

もちろん、天文台の中に池を作って本当に望遠鏡を浮かべろと言っているのではありません。考え方のアイデアです。これを発端にたくさんのアイデアが飛び出しました。

「筒先から重りの付いたヒモを垂らしてその先端が中央にくるようにすればいい」という、レーザーも高額なレンズも使わず高い精度が出せる方法が生まれたのです。

「水に浮かべる」というアイデアを誰もバカにしない安全な場であり、結論を急がないからこそあっという間に生まれたのです。

見たものと関係ないアイデアがひらめく

■関係ないものを発想する「セレンディピティ

見たものと全く関係のないアイデアが突然ひらめくことってありませんか?

そのひらめきのことを「セレンディピティ」といいます。

リンゴが落ちるのを見て万有引力の法則を発見したニュートンの逸話が有名ですね。

【洗濯機のゴミ取りネット】

これはある主婦が、洗濯機で洗う洗濯物にはどうしても糸くずが絡んでしまうことに悩んでいたときに発想した商品です。

虫取り網を見て、これを洗濯槽に入れれば、糸くずが取れると思い、商品化を実現しました。このアイデアで数億円のロイヤリティを得たというのは有名な話です。

カシオGショック

時計の商品企画担当者が自分の腕にはめていた時計をうっかり地面に落として壊してしまった経験から「落としても壊れない時計」を開発しようと思い立ちます。

そこで、時計のムーブメントの周りを厚く覆うようにした試作品を何度も作りますが、ムーブメント内の重要なパーツがどうしても振動の衝撃を受けます。

解決策はないかと模索していたある日、子どもがボールつきをしているのを見て、中が空洞化できれば衝撃を受けないと発想したことで、世界を席巻するヒット商品になりました。

セレンディピティを起こすには、常にアンテナを立てておくこと。

「ん? これは何だ?」と好奇心を持ち続けることが大切です。

谷藤 賢一 株式会社C60代表取締役

(※写真はイメージです/PIXTA)